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ボッチとビッチ  作者: カルロス藤崎
お付き合い始めました。
10/29

彼と彼女の脅迫状3



×××



 四時間目が終わり、俺は昼飯を食う事にした。

 弁当箱を開けて、もっさもっさと米を咀嚼する。うん、自分で作ったもんだけど、美味く出来てるわ。トマト甘い。これ何処産だこれ。

 そんな事を思ってると、後ろから何かが後頭部に当たった。直後、後ろからクスクスと笑い声が聞こえる。

 始まった、か……。確認しなくてもわかる。小さいイジメだ。自分達のアイドルを独占してる男を叩き始めやがった。

 俺は、スマホを手に持って、自撮り画面で犯人を特定した。


「………」


 ………金田か。全部繋がった。脅迫状を送り付けた翌日に、俺に嫌がらせをするという事は、ほぼほぼ間違いなく今までの一連の犯人は金田と見て間違いないだろう。

 とはいえ、他に犯人がいないとも限らないけど。


「…………ガキが」


 思わず小声で呟いた。こんな事したって、俺に圧力を与えられるというだけで、それ以外の意味はない。何より、俺があいつらよりも高位的存在になると、向こうの肩身が狭くなるだけだ。アホなのかあいつは。

 まぁ、良い。それより、今後の方針を決めないと。

 金田がが楽しんでるのは、恋敵である俺を叩いている事と、俺の反応を見る事だ。つまり、反応しなければ奴らにとっての楽しみは半減される。

 これで、抵抗しながら、しばらくは様子見だな。


「…………」


 教師に言うか?とも思ったが、学校側は問題を起こすのを嫌うし、問題のタネは切り捨てる。松崎先生に言うと、松崎先生の上の先生が、イジメの責任を松崎先生に取らせるかもしれない。


「……………はぁ」


 俺が自分でなんとかするしかないか。

 ぶっちゃけ、佐藤さんと別れりゃそれが一番早い。

 だが、当初の契約は「俺と付き合わなかったら、俺に酷い振られ方をした、と周りにバラす」事を阻止する為に付き合っている。ここで俺が佐藤さんを振ったら、金田からのイジメは止まっても他の奴からのイジメが始まる。

 つまり、金田と直接話し合いの席を設け、それをしかも教師にバレないようにした上でしなければならない。

 よって、金田をイジメられたからって学校から追い出すことをは出来ない。


「………今は向こうが動き出すのを待つしかないか」


 このまま、奴の嫌がらせを受けておけば、必ず向こうはエスカレートさせる。それによって、脅迫状も再び送りやすくなるはずだ。

 その脅迫状は前みたいな命令だけじゃなく、「別れないと○○する」みたいに少しは具体的になるだろう。その内容によって、こっちも対応すれば良い。

 それまでは耐えよう。幸い、ケシカスを飛ばされるくらい、支障なんてない。

 奴らは何も出来ないチキンナントカとか思って俺をバカにしてるかもしれないが、そんなの気にしない。よし、作戦決定。

 とりあえず、最悪のパターンとして教師にチクる時のための証拠写真として、自撮り画面をスクショして、音を抑えながら金田を撮ると、教室の扉が開いた。


「やっほー、お待たせー。……って、金田君、何してんの?」


 入って来たのは、飯を買ってきた佐藤さんだった。

 帰って来るなり、すごい真顔になって金田に冷たい声で聞いた。

 まずい、と一発で俺は背筋が凍った。今の声は怒りが地肌まで浸透してる声だ。なんで佐藤さんがそこまで怒ったのかわからないが、ここで金田と佐藤さんをぶつかるのは俺の計画に支障が出る。


「いや、机の上のケシカスを払ってるだけだよ」


「いや、完全にあの人狙ってたよね」


 あの人って表現してる辺り、俺と他人のフリしてるのありがたいけど、そいつにはもうバレています。


「ね、狙ってないよ。ていうかなんでマジになってんの?」


「私、そうやって人の事イジメる人、嫌いなんだけど」


 おお……言うなぁ、佐藤さん。金田も佐藤さんにだけは嫌われるわけにはいかないから、何も言い返せなくなってる。

 だけど、金田の精神的ライフを削るのはそこまでにしてくれるかな?追い込まれた人間は何を言い出すのか分からないから。特に、人のことをイジメてた奴は、他人に正論を吐かれると、自分の自尊心が爆発して心にもない事言い出すから。


「なんで?あの人が金田君に何をしたのさ」


 おい、やめろ。金田の表情、逆ギレまでのカウントダウンが始まってんぞアレ。

 だが、佐藤さんは相当頭に来ているのか、口撃をやめなかった。


「そういう、気の小さいイジメするなんて、男としてどうかと思う」


「ッ………!」


 悔しそうに奥歯を噛む金田。金田と飯を食っていた二人のうち片方は、無関係ですと言わんばかりにスマホをいじり、もう片方は気まずげに二人を見上げていた。

 よし、二人の喧嘩を止めよう。さっきはマズイと思ったけど、逆にこの展開はラッキーかもしれない。

 俺は今、クラスにおいて「誰だか知らないけどイジメられている可哀想な人」になっている。そんな奴が佐藤さんと金田の喧嘩を止めようとしても、どうやっても俺が金田を庇う形になる。すると、金田のイジメが止まる。

 何故なら、金田の状況は「自分の想い人に嫌われる恐れ+教師にバレれば生徒指導室行き」という最悪の展開だ。それを虐められていた俺が止めれば、金田の自尊心が相当高くない限りは俺の事を虐める気にはならないはずだ。これで、俺と金田の間に無言の和解が完成出来る。

 そう思って、席を立ち上がろうとした直後、金田の横の男子生徒が立ち上がった。


「ま、まぁまぁ落ち着いて二人とも」


 さっきまで気まずそうにしてた奴だ。それが二人の間に入った。


「佐藤、俺達は『小学生の時に懐かしかった事トーク』しててケシカス飛ばし談義に花が咲いちゃって、それでケシカス飛ばしてたら佐川クンに当たっちゃっただけで、わざとやってたわけじゃないんだよ」


「…………へっ?」


 上手く誤魔化しやがったな……。てか随分と説明的な解説だな……。


「そ、そうだったの……?てかどんなトークしてんの……?」


「後で金田に謝らせるから、今は許してやってよ」


「ご、ごめん金田君!私、てっきり……!」


「いや、気にしないでよひかりちゃん。俺も佐川クンに謝ってなくて悪かったし」


「でも、酷い事言っちゃったし……」


「良いよ」


 さっきまで、「なんでマジになってんの?」とか言ってた奴が思いっきり「デカイ男アピール」してやがんな……。

 でも、ここで俺が真実を言えば、せっかく収まりかけてた話がまた大きくなる。さっきまでと違って、俺は庇う側の人間じゃなくなってしまうから、何かを言っても話が拗れるだけになってしまった。

 一手、遅かったな……。まぁ、チャンスを逃しただけで、元の方針に戻っただけだ。気にせずに聞こえなかったふりをしてよう。

 そう思った時、金田が俺の目の前に来ていた。


「悪かったな、佐川」


「…………何が?」


「や、何がってケシカス」


「?」


「お前の頭に当てちまってた。すまん」


「お、おう?」


 金田は一ミリも謝ってる雰囲気を出さずに席に引き返した。

 俺が惚けたのには理由がある。そうすれば、奴に自分のイジメはまったく通用していなかった事を教えられるから、奴のイジメは加速する。その分、俺の作戦も早く進められるのだ。


「…………ふぅ」


 なんか良くわかんないけど疲れた。

 ………だけど、今ので少し思う所もあった。収穫が無かったわけではない。後で、佐藤さんに聞いてみよう。そう決めると、俺はとりあえず寝る事にした。



○○○



「ああああ………やっちゃった……」


 佐川家の佐川君の部屋。そこで、私はちゃぶ台に伏せた。

 現在、学校の帰りに佐川君の家に寄って、お茶を淹れてもらって不貞腐れている。

 その私の前で、佐川君は引き気味に言った。


「なんだよ。てかなんでうちに来てんの?」


「………愚痴くらい聞いてくれても良いじゃん」


「愚痴を言いに男の部屋に上がるとか彼女かお前は」


「彼女だよ!」


 ツッコミにツッコンでしまった……。ていうか、この人少しは私の彼氏である自覚を持って欲しいんだけど。


「で、どうした?さっさと弟と妹の飯作らんといけないんだけど」


「昼休みだよ。金田君に、ついカッとなって、状況も把握しないで怒鳴っちゃった」


「ああ、あれな……。そんな気にしなくても良いんじゃね?」


「いやー、でも金田君はほら、友達だしさー」


「友達、ねぇ………。ひかりちゃん、とか言われてた癖に?」


「え、何。ヤキモチ?」


「………………」


 そう言うと、佐川君は少し考え込むように顎に手を当てて俯いた。え、ま、まさか本当にヤキモチ?

 と、思ったら、佐川君は申し訳なさそうな感じで、尚且つ真面目な顔で聞いてきた。


「………あのさ、もし俺以外の奴と付き合うとして、金田と付き合うつもりなんかないか?」


 自分の思考、甚だ恥じたい。


「何言ってんの?」


「いや、別に佐藤さんの彼氏役が嫌だって話じゃないから、そこだけは勘違いしないで。金田君と付き合える可能性の話。興味本位」


 もしかして、佐川君は金田君が私の事を好きな事を知ってるのかな。


「………うーん、金田君かぁ。正直嫌だ」


「なんで?」


「いや、金田君に限った話じゃないんだけど、私にセクハラしてた人達がなんか全体的に無理なんだ」


「付き合ったら、セクハラなんて気にならなくなったりは?」


「しない」


 私は即答した。ていうか、そんな事あるはずがない。


「中身とかは?これからセクハラを直して」


「いや、それでも無理かなぁ……。自慢話ばかりだし、自尊心強いし、八木君と村木君といつも一緒にいるけど、然程イケメンじゃない二人を連れてる辺り、多分引き立て役としてい使うつもり満々な感じ」


「お、おう………お前それ友達に言ってる台詞なんだよな……?」


 気が付けば、佐川君はドン引きしていた。うん、私も自分にドン引き。言い過ぎだよね完全に。


「つーか、八木と村木って誰?」


「へ?あー……そっか。佐川君だもんね」


「おい、それどういう意味?」


「喧嘩を止めた方が八木君、スマホに逃げたのが村木君」


 佐川君は自分の顎に手を当てて、考え事をしながら呟いた。


「そっか……。なら、良いか」


「? 何が?」


「いや、なんでもない」


「今の流れでなんでもないわけないでしょ」


「……………」


 本当に嘘つくの下手だなぁ。嘘つくタイミングも下手。嘘に関すること全部下手。

 いや、でも何となく嘘ついた理由は分かるけどさ。


「………金田君が私の事好きなの、私とっくに気付いてるよ」


「ああ、そうか。ならいいや」


「何が?」


「いや、よくよく考えたら、俺達がしてる事は金田の恋路をただ邪魔してるだけじゃん?」


「……………」


 確かに。恋してる男の子に偽の恋人がいると言って邪魔してるわけだ。最低な事をしてるかもしれない。

 金田君は最低だけど、最低な奴に最低な事を返して良いわけではない。


「………でも、私は金田君とは付き合えないよ」


「分かってる。別に無理に付き合えなんて言ってないよ。ただ、恋愛ってのは俺にはよく分からんけど、なんとなく金田に少し悪いと思っただけだ」


 佐川君はお茶を飲みながら呟いた。


「へぇ……意外と優しいね。わざとじゃないとはいえ、ケシカス投げられた相手に」


「………あ、ああ。まぁ、最低な奴に最低な事をして良いってわけじゃないから」


「……………」


 なんで私と同じこと考えてんのこの人。……なんか少し恥ずかしいんだけど。


「? 佐藤さん?」


「な、何⁉︎」


「いや、なんか急に黙ったから」


「う、うるさいっ。なんでもないし」


 私はなんか猛烈に恥ずかしくなって、顔を背けた。

 すると、佐川君が思い出したように聞いてきた。


「そういえば、なんであの時佐藤さん怒ったん?」


「あの時?」


「ほら、ケシカス投げられたとき」


「ああ。………あー、なんでだったかな。なんか、急に頭にきて」


「ふーん…………。駄目だぞ、衝動的に頭にきて怒るような奴がいるから、問題やトラブルは起こるんだ。頭にきてもちゃんと状況を把握しないと」


「なんか庇った相手に説教されたし………」


 しかも、ど正論なのがなんかもう逆に腹立つし………。でも、確かになんであの時私、あんなに頭に来たんだろう。


「うーん……でも、今にして思えば私友達が仮にとはいえ、私の彼氏にイジメをしてたから、ショックだったのかも」


「友達、ね」


 小馬鹿にしたように呟く佐川君に、私は少しムッと来た。


「む、何?」


「え?あ、いや何でもない」


「バカにしたでしょ今」


「………あー。いや、それだけボロクソに言っておいて、良く友達って言えるなって思って」


「………うるさいなぁ。確かに、そうかもだけど、一緒にいて楽しかったこともたくさんあったらから」


 そういうと、佐川君は少し意外なものを見る目で私を見た。「今度は何?」と視線で問うと、驚いたままの顔で口を開いた。


「いや、学生って昔から、人の嫌いなところを見つけると、そこだけを見て、今までの楽しかったことをすべて抹消してそいつを嫌いになるから、佐藤さんのそういうところ少し尊敬するなーって」


「言ってること酷いけど、尊敬の一言で嬉しく感じるから、日本語って不思議だよね………」


  私がほのかに喜んでるのを無視して、佐川君は「友達、かぁ……」と呟きながら佐川君はお茶を飲んだ。「ふぅ……」と息をつくと、湯呑みをちゃぶ台に置いて、後ろに倒れこんだ。なんか疲れてるのかな。


「どしたの?お疲れ気味?」


「ああ……少しね……」


「じゃあ、もう帰った方がいい?」


「正直ね……。でも、いたければもう少しいても良いよ」


「うーん……じゃあ、もう少しいる」


「え?帰るって流れじゃないの?」


「いたければいても良いって言ったの佐川君じゃん」


「帰れ、とは言えないでしょ。気を使ったの」


「でも帰らない」


 この家にいると落ち着くしねー。

 ………そういえば、結局私佐川君に金田君からあのメール送られて来たの言ってないなぁ。こういう事は、助けてもらってる立場なら、やっぱり言った方がいいよねぇ……。でも、変に不安を煽るのも良くない気もするし……。

 あー、どうしようどうしようどうしよう!

 頭を抱えてうだうだしてると、扉の向こうから声が聞こえてきた。


「兄ちゃん!イチャイチャしてないで飯!」


「っ⁉︎」


 い、イチャイチャ⁉︎してないよ全然!

 私はギョッとして、背筋が伸びてしまった。ていうか、なんでも佐川君は反論しないの⁉︎キッと佐川君の方を睨み付けると、寝息を立てていた。


「…………はっ?」


 その様子に、思わず間抜けな声が出てしまった。ていうか、ちょっと疲れ過ぎなんじゃない……?


「……………」


 少し心配になって、私は佐川君の枕元に移動した。


「………本当に寝ちゃってるよ……」


 無理してる、のかな……。まぁ、確かに私との関係がバレた事は知らないにせよ、最近はかなり神経を使って学校で生活しているっぽいからなぁ。

 少し、申し訳ない。寝顔はさらに幼くなった彼の顔を見ながら、私はそんな事を思った。これは、メールのことはやはり言うべきではないな、とも。ていうか、金田君の奴、メール送ってきた割にいつものように話しかけて来たな。正直引く。

 ぼんやりと佐川君の顔を眺めてると、佐川君の頬にゴミが付いてるのに気付いた。


「………締まらない人だなぁ」


 ゴミを取ろうと、私は佐川君の頬に手を当てた。

 その直後、部屋の扉が開いた。


「兄ちゃん!飯………!」


 セイ君が入って来た。

 直後、セイ君の表情がすごく楽しそうな表情になった。そこら辺一帯にひまわりが咲きそうな程。但し、私の心中は砂漠化して植物一つ見当たらない状況。


「ヨーウ!メチャクチャ楽しい事になってるー!」


「ま、待った!セイ君待ったー!」


「んっ………るせぇな、人が寝てるときに………」


「誰の所為だと思ってんの⁉︎」


「痛い!え?お、俺の所為なの?」


「お兄ちゃーん!楽しい事って何?」


「え?楽しい事?お前らの頭の中じゃん?」


 なんかすごく騒がしいことになった。

 結局、今日もヨウちゃんとセイくんにカップル揃って弄られまくって、晩御飯をいただくことになってしまった。


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