第6話
「皆さん、こんにちは。突然なんですが、今日は私たちの活動の見学者さんが来ています。皆さん初めてお会いしたと思うので、少し自己紹介をしてください。」
春菜がそう言うと、現れた六人は言われた通りに自己紹介をはじめようとした。最初に眼鏡をかけた、高身長ですらっとした感じの男が、一団の中からすっと姿を前に出した。いかにもインテリそうな様子と整った顔立ちで、まるでモデルでもやっているかのような彼は高校生とは思えないほどに大人びている。祐樹にはそう感じられた。
「はじめまして。そしてよろしく。二年の河原国光だ。」
「はっ、はじめまして。同じく二年の相葉祐樹。こっ、こちらこそよろしく。」
祐樹は少し緊張した様子で言葉を返した。こんなまるで芸能人といわれてもおかしくないような、そんな人に会ったのは祐樹にとって初めてだったので、気持ちが若干高ぶる気さえした。同じ高校に、しかも同学年にこんな人がいるとは知らなかったのだ。
「へっ、そんな他人行儀にかしこまるなよ。フレンドリーにいこうぜ。フレンドリーに。ってことでよろしくな祐樹。俺は本間和人。和人でいいぜ。」
そう言って祐樹の肩をぽんと軽く一たたきした。本間和人。刈り上げられた短髪に、きりっとした目つきが特徴な、これまた端麗な男であった。背はそれほどでもないが、いかにもスポーツマンといった容貌に感じられ、サッカーなんかをしている風に思われた。
「よろしく、和人。仲良くさせてもらうよ。」
「おう!」
「んじゃ、次は僕の番だねえー。」
そう言ったのは先の二人に比べると若干小柄な男だった。
「僕の名前は智也。谷智也。トモヤンって呼んで頂戴な♪ イエイ!」
「はい、よっ、よろしく・・・・・・、トモ・・・・・・ヤン・・・・・・。」
彼は両手ダブルピースで気さくに祐樹に詰め寄った。少年のような純真さがみてとれる、元気な男の子といった感じの彼を前に、祐樹は何と言ったらいいか分からず、思わず顔を引きつらせた。ピースしてその上ウインクまでしてしまう、一歩間違えれば結構イタイ奴、そんな風にも感じられる彼だったが、如何せんその見た目と言動が驚くほどにマッチしていた。祐樹はそのことを素直にすごいと感じざるをえなかった。
「ふんっ、何がトモヤンなんだか。相葉さん、谷先輩のことは気にしなくてもいいっすよ。好きに呼んでください。扱いに慣れるまで大変っすから。あっ、俺は一年の日野龍馬って言います。よろしくです。」
「扱いだあ?!。龍馬、先輩に向かってそれはないっしょ。おチビのくせに~~~~。」
「チッ、チビって言わなで下さいよ! わりと気にしてんすから。一年後には谷先輩くらいにはなってますかんね、絶対! っと、まあとにかくよろしくっす、相葉さん。」
「こちらこそどうぞよろしく。」
先の純真少年、谷智也をからかい、からかい返された日野龍馬という男。顔立ちはやはりかなり整っていて、鼻が高く、まるで西欧人のようにも思われたが、確かに小さかった。おチビと言われるだけあって彼は祐樹よりも頭一つぶんは背が低かった。一年後、日野龍馬、彼自身が言うとおり背が急激に伸びれば、それこそ河原国光ばりの容貌になるかもしれないと祐樹は密かに思った。
次に紹介を始めたのは丸刈りの男だった。こちらはいかにも好青年といった感じで、見る者に優しさにあふれているような印象を与える。
「はじめまして。相葉祐樹君。君と同じ二年の真田凶四郎だ。一応この部では副リーダーをやっている。ちょっと変な名前だけどそこは気にしないでくれって・・・・・・ん?」
真田凶四郎なる男が話す途中、周りがふいにざわめきはじめた。
「凶四郎だもんな。全く恐ろしい名前だぜ。」
「んにゃ、中身も恐ろしいからね~ん。怒らせると一番怖いって感じ。」
「見た目はかなり優しそうなんすけどね、真田先輩。」
「ああ、それには同意する。」
本間和人、谷智也、日野龍馬、さらには河原国光までがなんとなしにつぶやいた言葉を祐樹は聞き逃さなかった。
「おい、お前ら。人のことを変なふうに言うんじゃない。あっ、安心してくれ祐樹君。俺は別にそんな怖い人とかそういうのじゃないんだ。ちょっと名前がそう連想させてしまうだけなんだ。だから大丈夫だ、な。」
自分でも気がつかないうちに顔を引きつらせていたのかもしれなかった。祐樹は直感的に、一番厳格そうで近付きがたいのは河原国光だと思っていたので、そんな彼が本気トーンで同意する真田凶四郎の裏を勘ぐった。いつか爆発させることがないように、彼はそう決意した。
「はっ、はい。よろしくおねがいします。真田さん。」
「じゃあ、最後にリーダー、自己紹介お願いします。」
先までずっとにこにこしながら黙っていた春菜がそう告げると、その男は祐樹の前に現れた。これだけ個性的で魅力あるメンバーのリーダーなる男である。一体どんな人なのだろうと祐樹は一瞬身構えたが、すぐにその必要はなくなった。男は確かにそれなりに整った顔立ちで、清潔そうな印象をあたえる風だったが、それだけだった。先に紹介を終えたメンバー五人に比べるとややインパクトに欠ける。祐樹はそんな率直な感想をもった。
「はじめまして。相葉祐樹さん。私がこの部のリーダーを担当しています。小林峻です。どうぞよろしく。」
「どうも、こちらこそ・・・・・・。」
そう言って祐樹は小林と名乗った男と握手した。
「あれっ・・・・・。」
そのときであった。いや正確にはもっと前。つまりは彼、小林が現れた瞬間から祐樹はなんともいえない妙な感覚に包まれた気がした。正しくは表現できない不可思議な感じ、既視感? とでもいうべきものであろうか? とにかく祐樹は変な気分になって思わず尋ねた。
「あ、あの・・・・・・小林さん。もしかして以前俺と会ったことある?」
一体何を聞いてしまったんだろう? 祐樹はすぐにそう思ったが聞かずにはいられなかった。なんとなく、ただただ本当になんとなくだが、彼のことを知っているような、そんな気が漠然としていた。
「以前会ったこと・・・・・・ですか? さて、どうだったでしょうか? んーー。いえ、おそらくそれはないと思いますよ。失礼に当たるかもしれませんが、私にはあなたについて思い当たるような節は全くありませんから。人違い、誰かと勘違いされているのではないでしょうか?」
小林はそう言った。彼の顔にはいかにも人当たりの良さそうな笑みが浮かんでいた。
「そっ、そうだよな。ごめん、いきなり変なこと聞いちゃって。たぶん俺の勘違いだな。うん、そうだ。なんか最近こういうこと多いし、ははは。早くも記憶力が衰えてきちゃってるのかもしれないや。」
祐樹は笑ってごまかした。小林は全く知らないようだった。やはり彼の言うとおりただの勘違いだったのか。確かに祐樹自身もなんとなくの思いで聞いてみたに過ぎなかったので、深入りするのはやめようと思った。
「んにゃ、で、今回この相葉っちが見学来たのってそもそも何でなん?」
そう切り出したのはトモヤンこと谷智也であった。相葉っち・・・・・・。祐樹はいきなりそう呼称されたことに一言つっこむべきかどうか迷ったがそれは控えた。・・・・・・悪くない呼び名だ。祐樹は案外それを気に入った。
「はい、今回は一つ皆さんにお願いがあって来たんです。ね、そうですよね、相葉さん。」
「そう、お願いなんだ。とてつもなくこちらの都合を押し付けることになりそうな頼みごとなんだが、聞いてもらえるか?」
春菜が上手く話をふってきてくれたので祐樹も切り出しやすかった。
「聞くだけなら。」
「その内容にもよるな。」
「一体何すか? お願いって?」
それぞれの様子を聞いて、祐樹は一呼吸置いた。そうして言った。
「みんなにこの学校じゃない、別の学校の代表としてドリーム・オン・ドリームに参加して欲しいんだ。」