第4話
祐樹はその日、全く落ち着かない様子で過ごすこととなった。当然と言えば当然である。朝から怪奇現象を目の当たりにしたのだから。いや、本当に怪奇現象と呼べるかどうかは定かではないが、とにかく不思議で不気味な体験をしたことは確かであった。世にそういった迷信めいた現象が報告されていることは祐樹自身も知っていたが、まさか自分がその当事者になるとは予想だにしていなかった。また、実際経験してみると、そもそもその体験が事実かどうかなのかすらかなりあやしく感じられた。祐樹はそう思うと同時、心霊マニアが、事細かに起きた現象を説明したりするテレビ番組なんかの信憑性をかなり疑い深くも思った。自分が見たものを信用できなくなる、本当に奇異な経験をするとまずそんな風に感じるためだ。興味本位で人にべらべらと話すことのできるものじゃない。
「あっあの、相葉さん!」
放課後となり教室を出ようとしたその矢先、祐樹に一人の女が声をかけた。島田春菜であった。言うに及ばず、今日一日祐樹を蝕んでいた不思議をともに体験した(はず)の女である。彼女はややうつむいた様子で祐樹に話しかけた。
「あの、今朝はなんだか様子が変というかなんというか・・・・・・。いえ、相葉さんのことをおかしいと言っているわけではないんですが・・・・・・その・・・・・・と、とにかく大丈夫でしたか!?」
春菜は少しどぎまぎした風に言った。祐樹はそれを彼女なりの配慮、気遣いと受け取ってこう答えた。
「ああ、大丈夫だ。こっちこそ驚かせてしまってごめん。ちょっと疲れてたんだと思う。きっと。」
ひとまずそういうことにしておいた。実際のところ、祐樹は今朝の出来事が頭から離れず、気になって仕方がなかったが、これは自分のなかにひとまず封印しておくことにした。もし、万が一、可能性はかなり低いとは思うが、また同じようなことが起こったら今度は少し冷静に対応したい。そうしてから誰かに話してみよう、そう考えたからだった。
「そうでしたか。ちょっと心配だったので・・・・・・。とはいえ平気ならよかったです。安心しました。ところで朝の話なんですが・・・・・・。」
朝の話? 祐樹は一瞬なんのことか分からなくなった。怪奇現象の話はもう終わったはずだが・・・・・・。
「そっそうだ! アイドルのこと!」
祐樹は思わず叫んだ。すっかり忘れてしまっていた。今朝はもう一つ大切な話をしていたじゃないか。他方のエピソードのインパクトが強すぎて祐樹の頭から抜け落ちていたのだ。アイドル活動で畑工を廃校の危機から救うということを。
「それなんですが、私、相葉さんの力になれるかもしれないと思って話しかけたんです。良かったら今から少しお時間いただけませんか?」
「ああ、構わないよ。でも力になれるかもしれないってどういうこと? 島田さんに何かいい方法とか、アイディアがあるとか?」
「はい、方法は今朝言ったとおりアイドル活動をするってことなんですが・・・・・・。」
春菜は一呼吸置いて続けた。
「私、素人アイドルの本大会、ドリーム・オン・ドリームに参加しようと思ってるんです!」