怒りの矛先
ー人は皆、力を欲する。
ー弱者であればなおさらだ。
だが望んでいなくても、人は生まれながらにして「能力」を与えられることがある。
たとえそれがどんな能力であっても受け入れなければならない。
「逃げることで人は自由を手に入れようとする」
薄暗い神殿の中央に1つの人影があった。声からして、恐らく少女だろう。
だがその声には、人間らしい感情が一切含まれていなかった。全身を白い長衣で包み、顔はフードで隠されている。長衣の先端は地面についており、どこか儀式用の服装のようにも感じられた。
「ーですが、無理やり手に入れた自由など意味がないんですよ」
その時、少女の背後から少し離れた扉が勢いよく開かれた。
肩越しに振り返り、口の端を少しだけ吊り上げる。現れたのは武装した男女数人。彼らは武器を手に少しずつ距離を詰め、少女に銃口を向ける。
銃口を向けられてもなお、少女は冷静さを失う事がなかった。
「・・・・・・・」
今度は身体ごと振り返りまるで無抵抗を伝えるかのように両手を真横にあげた。
次の瞬間、数えきれない弾丸が少女の身体に吸い込まれていったーーー。
「巫女の長は意識不明の重体と報告があった。襲撃した奴らはCPが追っている」
シティ・ポリスー通称CPと呼ばれる組織は、その名の通り街を守る人々が集まっている。各地に配置されており、異常があればすぐ現場に向かい問題解決にあたる。
「彼女は魔法が使えるはずです。なぜ抵抗しなかったんです?」
リアは僅かに声を震わせながら、軍服を握りしめる。
巫女は世界樹によって選ばれ、世界の不浄を浄化する使命を与えられる特別な存在だ。魔力も通常の人間より倍はある。
それなのに、なぜ?
「それは分からん。重体、と言ってもそれは普通の人間の場合だ。すぐに回復する…その時にじっくりと聞いてやるといい」
「……了解しました」
リアは表情を暗くしたまま敬礼し、そのまま部屋をあとにした。
セシリア国との亀裂が生じたのは、4年前のセシリア国王妃殺害事件がきっかけだ。王妃が殺害された部屋にはアイシクル国軍の
紋章が刻まれた短剣が残されており、セシリア国はこれを証拠としアイシクル国を糾弾したのだ。
でも、アイシクル国は無実を宣言し、それによりこの二国の間に亀裂が生じてしまった。
それからというもの、戦争が頻繁に起こっている。
そして、今回の襲撃はセシリア国の者の犯行とみて間違いないだろう。
リアは政府本部から出ると、待機させていた車の後部座席に乗り込んだ。
「アイリス准尉、あまり顔色が良くないですよ…少し休んだ方がいいのでは?」
「いえ、大丈夫ですよ」
リアは何でもないように少し笑ってみせた。
(……私はあの人に全てを背負わせてしまった。どうしていつも…私はっ…)
端末を取り出し、キーボードを出現させ、彼女が担当している部隊の作戦の内容
を打ち込み始めた。
その瞳にはもう苦痛の色はなく、ただ怒りが宿っていたーーー。
ー戦闘シミュレーションルーム。
それは、アイシクル国軍全基地にある。あらゆる戦闘を模擬的に体験することにより臨機応変に対応できるようにするーーいわば、能力を高める絶好の場所だ。
建物 階にあるその部屋は、大人数用と個人用の部屋が数多くあり軍人達の多くが利用する。
「…………はっ…」
軍服を着た紺色の髪を持った少年は、個人用ーーと言っても充分広いスペースがあるその場所で戦闘能力の高さを発揮させていた。
何もない空間にコンピュータによってプログラムされたステージが展開されており、まるで実際に森林の中にいるようだ。
(敵は前方に五人…か)
草木の間から目視でおおよその人数を確認すると、回りこむのではなくそのまま飛び出した。
相手が5人なら普通は慎重になるはずなのだが、少年は臆することなくホルスターから銃を引き抜くと容赦無く発砲する。
うめき声を発しながら2人が倒れる。気づいた他の3人が魔法を発動させると右側に回避し、銃口から放たれた魔弾が地面に吸い込まれた。
少年は一瞬嘲笑じみた笑みを浮かべる。その次の瞬間ーーー
四方八方から現れたナイフが残りの3人を貫いた。
ミッションクリア、とアナウンスが流れ視界から森林が消える。少年は部屋から出ると機械に端末をかざし、スコアを記録する。
「今回も素晴らしいスコアですね、シン」
廊下に出た少年ーーシンを、感情のない少女の声が呼び止めた。
かなり遅くなってしまいました…∑(゜Д゜)
これからはなるべく早く投稿できるように頑張ります!
これからも応援よろしくお願いします!