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今回で市大陸上は終わります

3000メートル走が終わり、軽食を挟むといよいよ午後の競技がはじまる。

1500メートル走まではまだ一時間ほど時間があいているが、杉田の指示で、翼と陸斗は二人でアップをはじめることにした。競技場の外周をゆっくり何週かすると、徐々にスピードを上げて行った。

流石に試合直前に体力を使い切っては元も子もないので、程々にして切り上げたら丁度一次招集の時間だった。受付に向かい二人で自分の名前を伝えると係員から腰ゼッケンをもらった。腰ゼッケンをつけて、競技場のなかにはいると、二次招集まで隅で体を動かし、温めていた。

競技開始時間が迫っていくと選手が集まってきた。係員がやってきて選手の確認を取ると、競技開始まで各自で体を動かすことになった。前の競技が終わると、競技開始までトラックのなかをならしができるので、トラックのなかでならしていた。



いよいよスタートだ、選手の名前が一人一人呼ばれていき、全員が呼ばれると、係の人が、ピストルをあげてオンユアマーク(位置について)という。それぞれのユニフォームを身にまとった十数人の選手がスタートラインにならび、スタンディングスタートの姿勢をとる。しばらくの静寂のあと、けたたましいピストルのおとと共に選手が一斉に走り出した。最初の直線を全員て固まって走り出したあと、徐々に差が広がっていった。先頭は、陸斗たちが引っ張っており、翼は先頭集団の後ろについていっていた。

しかし翼も先頭集団から徐々に離れていき、先頭集団と後続をつなぐように単独で走るようになった。


ーこのままこの順位で終わるのだろうか。いっそのことゆっくり走れば楽になるかもしれない。


翼はそう感じた。陸上なんてしたことがないのに大会一週間前に急に大会にでることになって、ここ順位はなかなかいいとも思えた。

しかし、自陣のテントからは、絶えず声援が翼にむけて送られていた。


ーでももう少し、もう少しだけ距離を縮めよう。追いつけなくても距離だけはもう少し縮めよう。


翼のスピードがまた上がった。まるで、火の消えかかったロウソクに再び火が灯ったように、大地を踏みしめて走り出した。



「あいつはなかなかいいな。走りがしっかりとしている。本当に初心者か?」

競技場のスタンドで年は40ほどだろうか、男が隣にいる杉田に聞いてきた。

「ああ、この前体育のセンゴで見つけたんだ。どうだ、教える気になったか?」

「まあまてよ。まだレースも中盤だろ。最後まで見させてくれよ」

「そうか。ま、あいつに素質があるのは本当だぞ。お前と同じ陸上部の先輩の俺が言うんだ。お前のほうが才能があったけどな」

杉田は口元を緩ませながら言った。

「そんなことはないだろ。あれは単に運が悪かっただけだろ」

「運も実力のうちっていうだろ」

杉田はまたカラカラと笑った。

「お、先頭のペースが落ちてきたぞ。ま、飽きずに見てくれよ、石井」

石井と呼ばれた男と杉田は再びレースの観戦に集中した。



先頭集団のペースがほんの少しだけおちた。ほんの少しだけだろうと良かった。翼は先頭との距離をどんどん縮めていった。

残り1周の合図がなった。先頭も残りの力を振り絞ってラストスパートをかけるが、翼はどんどん距離を縮めていった。先頭は陸斗が独走していたが、なんとか2位の後ろに着くことができた。前の選手も後ろにきていることを察知してさらにペースをあげた。翼も負けじとそれにくいついていく。

最後の直線に入った。直線を二人が抜いたり抜き返したりを繰り返して走っていく。既にゴールした陸斗も翼に声援を送っている。

ほぼ二人同時にゴールラインを越えた。写真判定の結果はわずかに翼のほうが先にゴールしており、翼が2位となつた。ゴールした時は。まだ結果が出てなかったのでわからなかったが、後ほどの放送での発表では驚いた。



「陸上部を抑えて2位かよ。スゲぇなあいつ」

「な、言っただろ。素質があるって」

スタンドではまた石井と杉田が喋っていた。

「特に終盤が良かったな。本人は自覚がないと思うが、あのラストスパートが良かったな。いい場所でラストスパートをかけてきている。ただ前半部分の走りが問題だな。ま、問題は山積みだが初めてにしては上出来ってところだな。お前達が本気であれの全国を目指すならアイツは必要だぞ」

「だけどアイツは陸上部じゃない」

「え?どういうことだよ」

「さっき言っただろアイツは体育のセンゴで見つけてきた。まだアイツは陸上部じゃない。そもそも部活自体していないしな」

「じゃあ陸上部にはいってもらうしかないな。ちょっとは教える気になったんな。ありがとよ」

「お、教えてくれるか?そりゃありがたい」

「それとこれと話が別だ。てかなんで俺なんだよ。陸上部を教えるならお前でもいいだろ」

「いや、俺じゃダメなんだよ。俺よりもお前の方が経験が豊富だ。そして俺じゃ無理だった目標をお前にやり遂げてもらいたいんだ・・・・・・おまえなら再来年あたりにいけそうな気がする・・・・・・」

 杉田の表情が少し曇った。後輩の石井にもそれがわかった。

「おまえ、まさか」

「ああ、そのまさかだよ。」

「・・・・・・わかった。考えてみるよ」

「よし、じゃあ俺は戻るよ。また連絡くれよ。じゃあな」

 杉田は腰掛けていたスタンドのベンチから立ち上がり、その場から去っていった。




 ゴール前では陸斗が翼を祝福していた。

「おまえすげえよ。2位か3位かはわからなかったけどたった1週間の練習で陸上部にかてるヤツなんかめったにいねーぞ」

「ああ・・・・・・ありがとよ・・・・・・」

 呼吸もままならない様子で翼が返答した。腰ゼッケンを集める係員がやってきたので、少々時間がかかったが、腰ゼッケンをユニフォームから外し、係員に返却した。そして翼の初の陸上の大会は終わった。


その後の閉会式でS中学校は数年ぶりの総合優勝を果たした。真っ赤に染まった太陽が西に沈もうとしているころだった。



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