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「地味でつまらない女」と婚約破棄した王太子、国王陛下が「私の娘を泣かせたな」と激怒しました

作者: 百香スフレ
掲載日:2026/08/08

 王立学園卒業記念パーティーの真っ最中だった。


 王太子レオナルドは大勢の貴族が見守る中、一人の令嬢の腰を抱いて壇上へ上がる。


 隣にいるのは、男爵令嬢リリア・ベルフォード。

 愛らしい笑顔で、勝ち誇ったようにこちらを見ていた。


「公爵令嬢エミリア・フォン・ローゼン」


 突然名前を呼ばれ、エミリアは静かに一礼する。


「はい、殿下」

「今日をもって、お前との婚約を破棄する」


 会場がざわついた。


 エミリアは驚きに目を見開いたが、すぐに背筋を伸ばした。


「理由を、お伺いしてもよろしいでしょうか」

「理由?」


 レオナルドは鼻で笑う。


「そんなもの決まっている。お前はつまらない女だからだ」


 リリアが口元を押さえて笑った。


「殿下ったら、そんなにはっきりおっしゃらなくても」

「ははは!事実だから仕方ないだろ、リリア」


 レオナルドは肩をすくめると、キッとエミリアを睨んだ。


「毎日毎日、勉強勉強。王妃教育、礼儀作法、歴史、外交。そればかりだ」

「も、申し訳ありません⋯⋯!殿下のお役に立ちたいと思いまして⋯⋯!」

「それが重いと言っているんだ。それに、どれだけ努力しても人並み以下のペースでしか身につかない⋯⋯。私が1週間付き添っただけで、リリアは既にお前よりも踊りが上手いぞ」


 会場のあちこちから苦笑が漏れる。


 レオナルドはなおも続けた。


「地味だし、愛想も才能もない。流行の話もできない。お前といても退屈なんだ」

「⋯⋯」

「その点、リリアは違う」


 リリアは嬉しそうにレオナルドの腕へ身体を寄せた。


「殿下は、わたくしといると自然に笑顔になれるとおっしゃってくださるんです」

「そうだ。リリアは私とウマが合うからな」


 エミリアは何も言い返さなかった。


 十年間、未来の王妃になるためだけに努力してきた。


 朝は誰よりも早く起き、夜は誰よりも遅くまで勉強した。


 礼儀作法は何度も失敗した。

 ダンスも最初は人並み以下だった。

 それでも毎日練習を続けた。


 王妃教育の教師から「今日はもう終わりです」と言われても、一人で居残り練習をした。


 全部、レオナルドの隣に立つためだった。


 なのに⋯⋯レオナルドは、その努力を一度も見ようとしなかった。


「それに、お前は可愛くない」


 リリアが嬉しそうに自分の髪へ触れる。


「殿下、そこまでおっしゃるなんて」

「事実だろう。リリアの方が何倍も可愛い」

「ありがとうございます」


 リリアはエミリアへ振り返る。


「エミリア様も、そんなに真面目ばかりではなく、お化粧や流行を勉強なされば良かったですのに」


 周囲の令嬢たちが笑う。


 エミリアは静かに頭を下げた。


「ご忠告、ありがとうございます」

「まあ」


 リリアは拍子抜けしたような顔をする。


 もっと悔しがると思っていたのだろう。


「最後に一つだけ言っておく」


 レオナルドは冷たく言い放った。


「お前は王妃には向いていない」


 その言葉に、エミリアは初めて顔を上げた。


「⋯⋯そう、ですか」

「安心しろ。お前は公爵家へ帰ればいい。今後はリリアが私を支える」

「承知いたしました」


 エミリアは深く一礼した。


「これまでありがとうございました」


 その返事に、レオナルドは眉をひそめる。


「泣いて縋らないのか」

「⋯⋯殿下がお決めになったことですから」

「本当につまらない女だな」


 リリアが笑う。


「殿下。こんな方を十年も婚約者になさっていたなんて、お可哀想でしたわ」

「ああ。やっと解放された。ああ、これからが楽しみだ⋯⋯!」


 二人は笑い合った。


 その時だった。


「レオナルド」


 低く重い声が会場へ響き、誰もが息を呑む。


 国王アレクシスが玉座から立ち上がっていた。

 隣では王妃エレノアも、静かに扇を閉じている。


 レオナルドは笑顔のまま振り返った。


「父上。ちょうど婚約破棄をご報告していたところです」

「報告?」


 国王はゆっくり壇上へ歩いてくる。


 その表情から笑みは消えていた。


「誰に許可を取った」

「え?」

「誰に、婚約破棄の許可を取ったと聞いている」


 レオナルドは少し戸惑ったように笑う。


「父上。結婚するのは私です。婚約者くらい自分で選ぶ権利は——」


 乾いた音が会場に響いた。


 国王の平手打ちだった。


 レオナルドの身体が大きくよろめく。

 誰一人として声を出せなかった。


「父⋯⋯上⋯⋯?」


 頬を押さえるレオナルドを、国王は氷のような目で見下ろした。


「陛下と呼べ、レオナルド。⋯⋯そしてお前は、自分が何を捨てたのか、本当に分かっていないようだな」


 エミリアは呆然とその光景を見つめていた。


 すると、隣へ王妃が歩み寄り、何も言わず優しくその手を握る。

 その温もりに、張り詰めていた心が少しだけ震えた。


「ち⋯⋯陛下、一体何を⋯⋯!」


 頬を押さえたレオナルドが叫ぶ。


 国王アレクシスは、怒りを隠そうともせず息子を見据えた。


「お前は今、誰を侮辱した」

「侮辱?ただ婚約を破棄しただけです!」

「違う」


 国王は一歩前へ出る。


「お前は、私と妻が十年間、大切に育ててきた娘を泣かせた」


 会場が静まり返る。


「娘⋯⋯?」

「そうだ」


 王妃エレノアがエミリアの肩を優しく抱く。


「エミリアは未来の王妃だから可愛がっていたのではありません」


 王妃は微笑みながらも、その瞳には怒りが宿っていた。


「十年前、礼儀作法で何度失敗しても、『もう一度頑張ります』と泣きながら立ち上がったあなたを見た日から、私たちはあなたを娘のように思っていました」


 エミリアは目を見開いた。


「王妃様⋯⋯」

「風邪をひいた私のために、お休みの日なのにお粥を作ってくれたことも覚えています」

「そ、それは当然のことを⋯⋯」

「当然ではありません」


 王妃は首を振る。


「あなたはいつも、自分より人を優先してきたわ」


 国王も静かに続ける。


「毎年、私の誕生日には欠かさず手紙をくれたな」


 エミリアは恥ずかしそうに俯いた。


「少しでもお力になれればと⋯⋯」

「お前はどうだった、レオナルド」


 国王の視線が息子へ向く。


「陛下、それは⋯⋯」

「王妃教育に励む婚約者を一度でも褒めたか」

「⋯⋯」

「疲れて眠るまで勉強していた姿を知っていたか」

「⋯⋯」

「孤児院への慰問、貴族夫人との交流、外交の勉強。その全てを知ろうとしたか」


 レオナルドは何も答えられない。


 国王は深く息を吐いた。


「お前は何一つ知らなかったようだな。⋯⋯まさか、我が息子がここまで愚かだとは⋯⋯」

「陛下!そんな地味な努力より、王妃には華やかさが必要でしょう!」

「黙れ!」


 国王の一喝に、レオナルドは肩を震わせた。


「王妃に必要なのは、国を思う心だ」


 その一言は、会場中へ響き渡る。


「見た目などいずれ変わる。流行も廃れる。だが、人のために努力を続けられる心だけは、一生の宝だ」


 王妃が静かに頷く。


「だから私たちは、エミリアを未来の王妃に選んだのです」


 リリアは青ざめた顔で口を開いた。


「で、でも⋯⋯エミリア様は地味ですし⋯⋯」


 王妃の視線が向いた。


 その瞬間、リリアは息を呑む。


「あなたは先ほど、人の努力を笑いましたね」

「わ、わたくしは⋯⋯」

「自分では何一つ成し遂げていない方ほど、努力する人を笑うものです」


 リリアは言葉を失った。


「リリア・ベルフォード」


 国王が名を呼ぶ。


「婚約者のいる王子へ近づき、公の場で婚約破棄を煽った責任は重い。ベルフォード男爵家は王家への不敬により謹慎を命じる」

「そんな⋯⋯!」

「爵位については追って通達する」


 リリアは泣き崩れた。


「レオナルド」

「は、はい⋯⋯」

「お前は今日限りで王位継承権を剥奪する」


 会場がどよめく。


「父上!」

「陛下と呼べ!王妃となる女性一人幸せにできぬ男に、この国は任せられん」

「そんな!ただ、気に入らない女との婚約を破棄しただけではありませんか!」

「違う」


 国王は静かに首を振る。


「お前は、人を見ようとしなかった」


 その言葉に、レオナルドは膝から崩れ落ちた。


 国王はエミリアへ向き直る。

 先ほどまでの厳しい表情は消え、父親のような穏やかな笑顔になっていた。


「エミリア」

「はい、陛下」

「すまなかった」


 国王が頭を下げる。


 王妃も続いて頭を下げた。


「私たちの息子が、あなたをこんなに傷つけてしまいました」

「やめてください!」


 エミリアは慌てて二人を止める。


「陛下も王妃様も、何も悪くありません」


 王妃はそっとエミリアを抱きしめた。


「今日からは、婚約者ではなくても構いません」

「王妃様⋯⋯?」

「あなたは私たちの娘です」


 その一言で、エミリアの瞳から涙が溢れた。


 十年間、努力は誰にも届いていないと思っていた。

 でも違った。ちゃんと見ていてくれる人がいた。


 国王は困ったように笑う。


「これからも城へ遊びに来なさい」

「えっ?」

「遊びではないな。娘が実家へ帰るだけだ」


 王妃も優しく微笑む。


「あなたの部屋も、そのまま残してありますよ」


 エミリアは涙を拭いながら、小さく笑った。


「⋯⋯はい」


 その様子を見つめるレオナルドは、ようやく自分が失ったものの大きさに気付いた。


 地味で、つまらないと思っていた婚約者。

 だが彼女は、いつの間にか国王夫妻にとって誰よりも大切な娘になっていたのだ。


「エミリア⋯⋯待ってくれ」


 震える声で呼び止める。


 エミリアは足を止め、静かに振り返った。


「なんでしょうか」

「やり直そう。私は間違っていた」


 エミリアは少しだけ微笑んだ。


「お気持ちは嬉しく思います」


 一瞬だけ、レオナルドの顔が明るくなる。


 だが次の言葉で、その希望は打ち砕かれた。


「ですが、お断りいたします」

「⋯⋯」

「私はもう、殿下の婚約者ではありません」


 そう言って国王夫妻の隣へ並ぶエミリアは、先ほどまでよりずっと穏やかな笑顔を浮かべていた。


 その姿を見送りながら、レオナルドだけが、二度と戻らない未来を見つめ続けることしかできなかった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価いただけると大変モチベーションに繋がりますので、よろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
国王夫妻はレオナルドが婚約破棄劇場始めたの最初から見てるよね? レオナルドとリリアがギャハギャハとエミリアを罵ってるのや、周りの令嬢達がそれに便乗してエミリアを笑ってるのをそこそこ長い時間傍観してたの…
どれだけ努力をしても人並み以下の人に王妃はむりなのでは?と思いました
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