ギザの夜
カイロの夜は、騒がしかった。
クラクションの音、人々の喧騒、アザーンの響き。全てが混ざり合って、異国の空気を作り出している。
「ここが、本当の戦場だ」
黒木が、ホテルの窓から街を見下ろしていた。
「日本と違って、彼らの監視網は薄い。でも、油断はできない」
俺は、ベッドに座ってノートパソコンを開いていた。
香港経由でエジプトに着いてから、三日。黒木は現地の協力者と接触し、ピラミッド潜入のルートを確保していた。
「明日の夜、決行する」
黒木が振り返った。
「観光客を装って、昼間のうちにピラミッド内部に潜伏する。夜、警備が手薄になったところで、地下に潜る」
「地下……」
俺は、手のひらの紋様を見た。
あれから、何度か遠隔起動を試した。日本国内の石は、全て起動できた。
でも、遠くの石になるほど、意識の繋がりが弱くなる。
「篠原君、体調は大丈夫か」
「はい。でも、正直……」
俺は言葉を濁した。
石と同調してから、体に変化が起きていた。
睡眠時間が極端に短くても平気になった。食事も、あまり必要としなくなった。
そして、時々、自分が人間なのか分からなくなる。
「怖いんですか」
黒木が、静かに聞いた。
「ええ。俺、本当に人間なんですかね」
「お前は人間だ」
黒木が、タバコに火をつけた。
「確かに、体は変わった。でも、心はどうだ」
「心……」
「高橋さんを救いたいと思う。人類を守りたいと思う。それは、人間の心だろう」
黒木が、俺を見た。
「力を持つことは、呪いかもしれない。でも、それをどう使うかは、お前次第だ」
その言葉に、少し救われた気がした。




