脱出計画
翌朝、宮城の船が島に戻ってきた。
「おう、無事だったか」
「ああ。世話になった」
黒木が、現金を手渡した。
「礼だ」
「おう、ありがとよ」
船に乗り込む。
島が、遠ざかっていく。
「あの神殿、どうなるんですかね」
「おそらく、彼らが管理下に置くだろう」
黒木が、タバコに火をつけた。
「だが、もう遅い。お前が石と同調した。つまり、石の力は既にお前の中にある」
「でも、それって……」
俺は、自分の手を見た。
「俺、人間じゃなくなったってことですか」
「いや、お前は人間だ」
黒木が、俺の肩を叩いた。
「ただ、選ばれただけだ。人類を救うために」
その言葉が、重く胸にのしかかった。
石垣島に戻ると、黒木は素早く動いた。
「今から、香港に飛ぶ」
「香港?」
「そこから、エジプトに向かう。まずは、最も重要な石を起動させる」
「最も重要な?」
「ああ。ギザの大ピラミッドの下にある石だ」
黒木が、資料を見せた。
「そこが、ネットワークの中心だ。あれを起動させれば、他の石も連動して起動しやすくなる」
「分かりました」
空港に向かう途中、俺のスマホが鳴った。
知らない番号だった。
「もしもし」
『ケンジ……』
その声に、俺は凍りついた。
高橋さんだ。
「先輩! 無事だったんですか!」
『ああ、何とか。でも、もう長くない』
声が、弱々しい。
「どこにいるんですか。助けに――」
『いい。俺はもう終わりだ』
『でも、お前は違う。頼む、石を起動させてくれ』
「先輩……」
『人類を、救ってくれ。それが、俺たちの使命だ』
電話が、切れた。
「高橋さん!」
叫んだが、繋がらなかった。
「篠原君……」
黒木が、静かに言った。
「彼の想いを、無駄にするな」
俺は、拳を握りしめた。
「はい。絶対に、やり遂げます」
飛行機に乗り込む。
窓から、日本の島々が見えた。
「さよなら」
小さく呟いた。
次に日本に戻る時、世界は変わっているだろう。
良い方向に変わることを、祈るしかない。
俺の、世界を巡る旅が始まった。
時間は、刻一刻と過ぎていく。
二ヶ月後の春分の日まで、残された時間は少ない。
でも、俺は諦めない。
高橋さんの想い。古代文明の願い。全てを背負って、俺は戦い続ける。
人類の未来のために。
飛行機が、雲の上を飛んでいく。
手のひらの紋様が、微かに光っていた。
まるで、道を示すかのように。




