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崩れゆく日常
「篠原君、ちょっといいかな」
大学に戻った翌日、指導教授の田中先生に呼び出された。
研究室のドアを開けると、田中先生は難しい顔で椅子に座っていた。いつもの優しい笑顔はない。
「座りたまえ」
「はい」
俺は促されるまま、椅子に腰を下ろした。
「昨日の発掘についてだが」
田中先生が、資料に目を落とす。
「報告書は上げなくていい」
「え?」
思わず聞き返した。
「でも、あの発見は――」
「ない」
田中先生が、俺の言葉を遮った。
「昨日の発掘で、君たちは何も発見していない。報告書も、論文も、必要ない。いいね」
「そんな……」
俺は立ち上がった。
「先生、あの石は明らかに重要な発見です。なぜ隠蔽するんですか」
「隠蔽じゃない」
田中先生が、ゆっくりと顔を上げた。その目には、明らかな恐怖があった。
「これは、君を守るためだ。深入りするな、篠原君。このまま忘れるんだ」
「忘れろって、そんなこと――」
「以上だ」
田中先生が立ち上がり、研究室を出て行った。
俺は呆然と、その場に取り残された。




