包囲
神殿の外に出ると、黒いスーツの男たちが十人以上、包囲していた。
「黒木誠一郎、篠原ケンジ。ご苦労だった」
男たちの中から、一人が前に出てきた。
五十代くらいだろうか。威厳のある顔つきだ。
「あなたは……」
「私の名前は重要ではない。重要なのは、君たちがここで終わりだということだ」
男が、手を挙げた。
部下たちが、一斉に銃を構える。
「待て」
黒木が、前に出た。
「俺たちを殺して、何になる」
「君たちが、余計なことを知りすぎた」
男が、冷たく笑った。
「石の秘密。それは、世界の秩序を乱す」
「秩序? 冗談じゃない」
黒木が、叫んだ。
「二ヶ月後、世界中で災害が起きるんだぞ。それを隠蔽するつもりか」
「災害?」
男が、眉をひそめた。
「何を言っている」
「知らないのか……」
俺が、前に出た。
「この石は、古代文明からの警告です。二ヶ月後、磁場の反転によって大災害が起きる」
「荒唐無稽な」
「本当です! 俺は、石の記憶を見た。全て、事実です」
男は、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「仮に、それが本当だとしよう」
「だったら――」
「だからこそ、隠蔽する」
男の言葉に、俺は凍りついた。
「パニックを避けるためだ。世界中の人間が、その情報を知ったらどうなる」
「でも、避難すれば――」
「避難できるのは、一部の人間だけだ」
男が、断言した。
「全人類を救うことはできない。ならば、秩序を保ったまま、選ばれた者だけを救う」
「選ばれた者……?」
「そうだ。我々の組織は、既にその準備をしている」
男が、神殿を見上げた。
「この石は、我々が管理する。一般人に知らせる必要はない」
「ふざけるな!」
俺は、叫んだ。
「人の命を、勝手に選別するな!」
「綺麗事だ」
男が、冷たく言い放った。
「現実を見ろ。全員を救うことはできない」
「だからって――」
銃声が響いた。
俺の足元の地面に、弾痕ができた。
「これ以上、抵抗するな」
男が、銃を下ろした。
「大人しく、我々と来てもらおう」
部下たちが、近づいてくる。
俺と黒木は、完全に包囲された。
「篠原君」
黒木が、小さく呟いた。
「走れ」
「え?」
「三つ数えたら、神殿の中に飛び込め」
「でも、あなたは――」
「いいから!」
黒木が、叫んだ。
「一!」
部下たちが、構える。
「二!」
黒木が、銃を構えた。
「三!」
黒木が、発砲した。
同時に、俺は神殿の中に飛び込んだ。
外から、銃声が響く。
「黒木さん!」
叫んだが、返事はない。
「くそっ……」
俺は、神殿の奥へと走った。
追っ手の足音が、背後から迫る。
翡翠色の石が、目の前にある。
「頼む、何か方法を……」
石に手を伸ばした。
その瞬間、石が激しく光り始めた。
ヴゥゥゥン――
低い振動音が、神殿全体に響く。
「何だ、これは!」
追っ手の声が、聞こえた。
光が、どんどん強くなる。
そして、神殿全体が揺れ始めた。
「まずい、崩れるぞ!」
誰かが叫んだ。
足音が、遠ざかっていく。
俺は、石の前で立ち尽くしていた。
光の中で、あの声が再び響いた。
『時が来た』
「え?」
『お前は、選ばれた。次の守護者として』
「守護者……?」
『この石を守れ。そして、人類を導け』
光が、俺を包み込んだ。
意識が、遠のいていく。
「待って、俺には……」
そこで、意識が途切れた。




