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沖縄へ
羽田空港、早朝六時。
俺は偽造パスポートを握りしめて、搭乗ゲート前に立っていた。
「田中康平」
自分の偽名を、何度も心の中で繰り返す。間違えるわけにはいかない。
「おはよう」
背後から、黒木が声をかけてきた。
「準備はいいか」
「はい。でも、昨夜……」
俺は、あの脅迫電話のことを話そうとした。
「分かってる」
黒木が、俺の言葉を遮った。
「君の家族に接触があっただろう。心配するな、既に手は打ってある」
「え?」
「君の家族には、警察OBの知人をつけた。表向きは防犯ボランティアだ」
黒木が、搭乗券を取り出した。
「彼らは、そう簡単に民間人に手を出さない。それをすれば、騒ぎになる」
「本当に、大丈夫なんですか」
「保証はできない。でも、君が引き返しても、状況は変わらない」
黒木が、俺の肩を叩いた。
「進むしかないんだ。分かるだろう」
俺は、頷いた。
那覇行きの飛行機に乗り込む。
窓際の席に座って、外を見た。
東京が、どんどん遠ざかっていく。
「行ってきます」
小さく呟いた。




