デジタルの痕跡
黒木が出て行った後、俺は一人でパソコンに向かった。
高橋さんのデータを、もう一度詳しく見る。
座標の周辺には、他にも情報が隠されていた。
『紋様パターンD-5:地図記号の可能性』
地図記号?
ファイルを開くと、石の表面に刻まれた紋様の一部が、拡大されていた。
「これ、本当に地図なのか……」
よく見ると、紋様の中に規則性がある。線と点の組み合わせが、何かを示している。
試しに、その配置を座標に変換してみた。
「まさか……」
画面に、複数の座標が表示された。
八重山諸島の無人島。
エジプトのギザ高原。
ペルーのナスカ平原。
中国の西安。
インドのモヘンジョ・ダロ遺跡。
全て、古代文明の遺跡がある場所だった。
「これ、全部に石があるってことか?」
背筋が凍った。
つまり、あの石は一つじゃない。世界中に散らばっている。
「何のために……」
その時、スマホが鳴った。
知らない番号だった。
「もしもし」
『篠原ケンジ君だね』
低い、冷たい声だった。
「誰だ」
『君が誰と行動しているか、把握している』
「……」
『黒木誠一郎。元内調の落ちこぼれだ。彼を信用しない方がいい』
「何が言いたい」
『警告だよ。これ以上深入りすれば、君の家族にも累が及ぶ』
心臓が、止まりかけた。
「家族に、手を出すな……」
『それは、君次第だ。大人しくしていれば、何もしない』
「ふざけるな!」
『ふざけていない。これは最後通告だ』
電話が、切れた。
俺は、震える手でスマホを握りしめた。
家族。母さん、父さん、妹。
彼らを、巻き込むわけにはいかない。
「くそっ……」
でも、今さら引き返せない。
俺が降りたところで、彼らは見逃してくれないだろう。
むしろ、真実を暴くことが、家族を守ることにも繋がるかもしれない。
「考えるな。進むしかない」
自分に言い聞かせた。
パソコンに向かって、データの解析を続ける。
紋様の中に、まだ解読されていない部分があった。
『パターンE-1:時間軸の記述』
時間軸?
ファイルを開くと、複雑な数式が並んでいた。
「これ、何だ……」
数式を見ていると、ある規則性に気づいた。
「天体の周期?」
そうだ。これは、惑星の公転周期を表している。
地球、火星、木星、土星。全ての惑星の周期が、数式に組み込まれていた。
「なぜ、古代人が惑星の周期を……」
いや、待て。
これは、カレンダーだ。
特定の時期を示すための、天体カレンダーだ。
「いつだ……」
計算を始めた。数式を現代の暦に変換する。
一時間後、答えが出た。
「二ヶ月後……」
画面に表示された日付を、俺は呆然と見つめた。
二ヶ月後の、春分の日。
その日、全ての惑星が特殊な配置になる。
「その時に、何かが起きるのか……」
石が起動する。
いや、世界中の石が、同時に起動するのかもしれない。
「タイムリミットがあったのか……」
時計を見る。午前二時。
眠気は、全くなかった。
むしろ、頭が冴え渡っている。
「高橋さん、俺、真実に近づいてます」
画面に向かって、呟いた。
「必ず、全てを明らかにします」
窓の外では、東京の夜景が輝いていた。
でも、その光の裏側には、計り知れない闇が潜んでいる。
俺は、その闇に飛び込もうとしている。
「怖いけど、やるしかない」
パソコンを閉じて、ベッドに横になった。
明日から、新しい戦いが始まる。
その前に、少しでも体を休めないと。
目を閉じる。
でも、頭の中では、石の紋様がグルグルと回り続けていた。




