孤独な選択
アパートに戻って、俺はベッドに座り込んだ。
黒木の名刺を、何度も見返す。
二つの選択肢。
忘れるか、戦うか。
正直、怖かった。高橋さんが消された。次は俺かもしれない。
でも、このまま黙っていていいのか。
パソコンを開いて、USBメモリのデータを見る。
石の写真。紋様。座標。
これは、高橋さんが命を懸けて守ったものだ。
「くそ、どうすりゃいいんだよ……」
頭を抱えた。
その時、スマホが鳴った。
母さんからだ。
「もしもし」
『ケンジ? 元気にしてる?』
母さんの、いつもの優しい声。
「うん、元気だよ」
嘘だった。全然元気じゃない。
『そう。良かった。あのね、お父さんがね、久しぶりに帰ってきなさいって』
「ああ、分かった。また今度」
『無理しないでね。体、大事にしなさい』
「うん。ありがとう」
電話を切った。
母さんの声を聞いて、決めた。
俺には、守りたいものがある。家族、友人、日常。
でも、それ以上に、譲れないものがある。
真実だ。
考古学者を志した時から、俺は真実を追い求めてきた。それが、俺の生きる意味だった。
「高橋さん、決めました」
パソコンの画面に向かって、呟いた。
「俺、戦います。あなたの想いを、無駄にはしません」
黒木の名刺を手に取って、番号を入力した。
コール音が鳴る。
「もしもし」
『篠原君か』
「はい。決めました。俺、やります」
『……そうか』
黒木の声が、少し柔らかくなった気がした。
『明日の夜、駅前のネットカフェに来い。詳しい話をしよう』
「分かりました」
電話を切った。
俺は、立ち上がった。
窓の外を見る。黒い車は、まだそこにいた。
「見てろよ」
小さく呟いた。
「俺は、絶対に真実を暴いてみせる」
その夜、俺の人生は完全に変わった。
もう、後戻りはできない。
でも、それでいい。
これが、俺が選んだ道だ。
パソコンに向かって、データの解析を始めた。座標の意味、紋様の規則性、石の成分。全てを理解する必要がある。
時計は、深夜二時を指していた。
でも、眠気は全く感じなかった。
むしろ、体中にエネルギーが満ちている。
「さあ、始めようか」
俺の、孤独な戦いが、今、本当に始まった。




