運命の発見
「先輩、これ……」
俺の声が、遺跡の静寂を破った。
篠原ケンジ、二十三歳。考古学専攻の大学院生で、発掘現場に立つのは今回が三度目だ。正直、まだまだ新米もいいところで、先輩たちの荷物持ちくらいしか役に立っていない。
でも、今日は違った。
手にしたブラシで、慎重に土を払う。現れたのは、鮮やかな翡翠色の光沢。それは、この薄暗い遺跡の中で、まるで生きているかのように輝いていた。
「どうした、ケンジ」
振り返ると、先輩の高橋さんが小走りで近づいてきた。三十代前半、この分野じゃ若手のホープと呼ばれる人だ。
「これ、見てください」
俺が指差した先を見た瞬間、高橋さんの顔色が変わった。
「まさか……」
高橋さんが膝をついて、俺の隣にしゃがみ込む。
「ケンジ、周りをもっと掘ってみろ。慎重にな」
「はい」
言われた通り、俺は慎重に周囲の土を取り除いていく。五分、十分。作業を続けるごとに、その「モノ」の全貌が明らかになっていった。
「なんだこれ……」
思わず呟いた。
それは、直径一メートルはあろうかという、巨大な石だった。完璧な球体。表面には、幾何学的な紋様がびっしりと刻まれている。そして何より、この輝き。まるで内側から光を放っているかのような、神秘的な翡翠色。
「高橋さん、これって……」
「ああ。間違いない」
高橋さんの声が震えていた。興奮なのか、恐怖なのか。
「縄文時代の遺跡で、こんなものが出てくるはずがない。加工技術が、あまりにも高度すぎる」
俺も同じことを考えていた。縄文人が、こんな完璧な球体を作れるわけがない。表面の紋様も、どう見ても意図的に刻まれたものだ。しかも、この光沢。研磨技術が、現代のものに匹敵するレベルじゃないか。
「オーパーツ、ですか」
「それ以上かもしれん」
高橋さんが石に手を伸ばした。その瞬間。
ヴゥゥゥン――
低い振動音が、遺跡全体に響き渡った。
「うわっ」
俺は思わず後ずさった。石が、明らかに反応したんだ。高橋さんの手が触れた瞬間に。
「高橋さん、大丈夫ですか」
「ああ、平気だ。でも、これは……」
高橋さんの目が、興奮で輝いている。
「ケンジ、これは歴史を塗り替える発見かもしれない。いや、間違いなくそうだ」
俺の心臓が、高鳴った。
考古学者の夢。それは、誰も見たことのない過去の真実を、この手で掘り起こすことだ。そして今、その夢が目の前にある。
「すぐに大学に連絡します」
「ああ。でも、その前に記録を取ろう。写真、動画、計測、全部だ。これだけの発見なら、マスコミも黙っちゃいない」
高橋さんがカメラを取り出す。俺も測定器具を準備した。
石の表面に刻まれた紋様を、できるだけ詳細に記録する。デジタルカメラのフラッシュが焚かれるたびに、石の輝きが増すような気がした。
「不思議だな」
「何がです」
「この紋様。どの文明の文字とも一致しない。まるで、全く別の言語体系だ」
高橋さんの言葉に、俺は背筋がゾクリとした。
別の言語体系。つまり、既知の文明とは異なる、未知の存在が作ったということか。
「先輩、これって本当に地球上のものなんですかね」
冗談半分で言ったつもりだった。でも、高橋さんは真顔で答えた。
「それを確かめるのが、俺たちの仕事だ」




