第1.5話:戸塚の火花(回想)
数年前、神奈川県にある大森建設戸塚技術センターの地下実験室。外は土砂降りの雨だったが、室内は熱気に包まれていた。
「無理だよ、成美。三次元の物理法則に縛られている限り、銀座の地下にこれ以上の杭は打てない」
当時、学生だった正美は、ワークステーションのモニターを見つめたままうなだれていた。画面には、地下鉄、下水道、光ファイバー網が毛細血管のように入り組んだ銀座の地下マップが表示されている。既存の「アースアンカー工法」では、どこに杭を打とうとしても、インフラという「既得権益(利権)」に衝突してしまうのだ。
隣で複雑な数式をホワイトボードに書き殴っていた**成美(後の成美菩薩)**が、チョークを止めて振り返った。
「正美、視点を変えるんだ。空間が埋まっているなら、**『時間』**を借りればいい」 「時間を借りる……?」 「そうだ。三次元的な『場所』が重なっていても、それが四次元的な『位相』でズレていれば干渉は起きない。物理的な杭を打つのではなく、アンカーの固定点を『一秒先の未来』や『隣接する次元』に投射するんだ」
正美の脳内で、バラバラだったパズルが組み合わさっていく。 「……4次元アンカー。それなら、どんな過密地帯でも、地層の隙間さえ通れば地球の裏側まで杭を伸ばせる!」
二人は狂ったように計算を始めた。Ryzenのプロトタイプが悲鳴を上げ、冷却ファンの音が静寂を切り裂く。 その時、正美が書いた「最強拡底杭」の設計図に、成美がさらりと一行のコードを書き加えた。
『Origin: Zoro-Astir Engine』
「何だい、この名前は?」と正美が尋ねると、成美はいたずらっぽく笑った。 「いつか君が、本当の名前を取り戻す時に必要なキーワードさ」
実験室の窓の外で、激しい雷鳴が轟いた。その光に照らされた二人の影は、壁に投影され、実体の3倍もの巨大な守護神のように見えた。 この夜、多摩川の河原で1.3兆階の塔を建てるための、全理論が完成したのである。




