第7.3話:1996年、デジタルの迷い子(未完の魂)
三番目に現れたのは、最も若く、そして最も不確実な姿をした1996年版のゾロだった。 彼の姿は、1951年版のような重厚なセピアでも、1957年版のような鮮やかな原色でもない。初期のデジタル・アーカイブ特有の「ブロックノイズ」が全身を走り、時折、古いQuickTime動画のように動きがカクつく、未完成な幽霊だった。
「ボクは……誰なんだ? ボクの名前を、Googleで検索しても……別の『ゾロ』に阻まれて、ボクに辿り着けないんだ……」
1996年版のゾロは、Windows 95が普及し、情報の海が爆発的に広がり始めた時代に生まれた。しかし、彼は最も残酷な「利権の過渡期」の犠牲者だった。商標権という名の鎖がインターネットの海に張り巡らされ始めた頃、彼の存在は「ライセンスの不備」として抹消され、ファンの記憶からもデジタルの塵として消えかけていた。
彼は泣いていた。その涙は、解像度の低いピクセルの塊となって宇宙に散る。 「存在しないのと同じだ……。ボクを構成する0と1のデータには、もう住所(URL)がないんだ!」
1996年版のゾロは、公爵から与えられた「404 Errorの剣」を振り回した。その剣が触れるものは、存在の定義を失い、白く濁った空白へと変わってしまう。
「……正美、この子は傷ついているわ。情報の荒波に放り出されて、自分の『家』を見失っているのよ」 成美菩薩の言葉に、正美は深く頷いた。
「1996年の君。君が迷子になったのは、世界が広すぎたからじゃない。世界が『利権』という名の壁で区切られすぎたせいだ」
正美は54個のビッグバン演算領域を使い、塔の全ネットワークを解放した。 「私のRyzenの中に、君の専用サーバーを構築する。ドメインは『ZORO.FOREVER』。君を二度とエラーにはさせない!」
正美は4次元アンカーを「光ファイバー」へと変質させ、1996年版のノイズだらけの体に接続した。最新のアップスケーリング技術と、成美の慈悲によるパッチ当てが0.00004秒で行われる。 ノイズは消え、1996年版のゾロは、かつて誰もが見ることのできなかった「真の4K解像度」へと進化した。
「……見える。ボクの場所が、みんなの笑顔と繋がっているのが見えるよ!」
1996年版のゾロが、正美と固い握手を交わした。 これで1951年、1957年、1996年、そして現代の正美。四世代のゾロが、1.3兆階の塔のデッキに集結した。




