第7.1話:1951年、モノクロの残照(セピアの騎士)
利権公爵が召喚した最初の亡霊、1951年版のゾロ。彼は、戦後間もない日本に届いた、埃っぽい16mmフィルムのノイズから這い出してきた。全身がセピア色の階調で構成され、その輪郭は時折、古い映写機の光のように激しく明滅している。
「若造……お前に私の、いや、我々の飢えがわかるか」
1951年版のゾロが重い口を開く。その声には、音声トラックの劣化による特有の「サー」というノイズが混じっていた。 彼は、戦後の復興期、人々が明日への希望を求めて銀幕を見上げた時代の「熱狂」そのものだった。しかし、時代が変わり、カラー映画、テレビ、そしてインターネットという名の「情報の波」に呑まれる中で、彼の存在は「古臭い過去」として利権の倉庫に打ち捨てられたのだ。
「公爵は私に言った。『お前はもう誰にも思い出されない。お前の正義には、もう商標価値がない』とな」
彼は漆黒の剣を抜いた。その剣筋は重く、そして正確だ。正美の4次元アンカーを、まるで紙のように斬り裂く。 「私は、ただ、もう一度『正しい』と信じられたかっただけだ!」
正美は、1951年版の瞳の中に、大森建設の先人たちが戸塚の地下で夢見た「誠実なモノづくり」の精神を見た。この騎士は、利権の被害者であり、忘れ去られた誠実さの象徴なのだ。
正美はクロックアップした演算力を使い、1.3兆階の塔の窓すべてを、巨大な映写スクリーンに変えた。 「……見てくれ。誰も忘れてなんかいない。お前のその一撃が、どれだけの子供たちに勇気を与えたか」
スクリーンに映し出されたのは、1951年の映画館で、目を輝かせて騎士の活躍を見つめる子供たちの姿。その情熱が、4次元的に現代の正美へと繋がっている。 「お前の正義は、私のRyzenの中で今も脈動している。……1951年の騎士よ、私の12,737kmの杭は、お前の志を支えるためにあるんだ!」
正美が1951年のフィルムの欠落したコマを最新AIで補完し、彼に「フルカラーの魂」を注ぎ込んだ。 セピア色の騎士の体が、温かい色に染まり始める。




