第九話 離宮出張所、本日開設!
お読みいただき、ありがとうございます!
ほぼギャグ回のようになってしまいましたが、ウィルの人柄も見ていただけますし、日常エピソードとして本筋とは関係なくお楽しみください。
静かな離宮の一室。
この部屋は後に——『離宮出張所』と呼ばれるようになる。
第二皇子ウィルフレッドは、ローブをふわりとまとい、宙に浮かぶ無数の封筒に囲まれていた。
光る封筒が、宙に浮かんで舞っている。
「最近、ファンレターの数が増えすぎてさ。離宮出張所っていう専用の場所を作って、みんなの分まとめて受け取るようにしない?」
ウィルフレッドが提案すると、マリシスとレイモンドも頷いた。
「そうできれば、管理がずいぶん楽になる」
「写真集企画もあって、俺もファンの声が一気に増えましたし」
「わあ、また来た!」
ウィルフレッドが手を差し出すと、一通の封筒がぴたりと降りてくる。
封を開ければ甘い香り、そして柔らかな声が流れ出した。
『ウィル様へ♡ 昨日の笑顔、最高でした! ファンクラブ一同、次のご登場を心待ちにしています♡』
「うん、ありがとう……」
別の封筒も光りを帯びる。
『マリシス様にも伝えてください! “光剣の寡黙皇太子”の異名がすっかり定着しました!』
「異名……兄さん知ってるのかな」(小声)
——とその時、
廊下からひょいと顔を出したのはアナスタシア。
「お兄さま、扉閉めてって言ったでしょ。それに……なに、このラブレター台風」
「ファンクラブからのお手紙だよ。日に日に増えててさ」
「……まさか全部に返信してる?」
「もちろん!」
やがてマリシスが手にしていた書類を置き、眉をひそめた。
「ウィル、お前……魔塔主になる前に手紙屋の親方になりそうだな」
「でも、推されてるってあったかいんだ。頑張りたいんだよ。だから、兼業でもいいよね?」
マリシスとアナスタシアの声が重なった。
「ダメに決まってる」
そこへ、うさぎ型ポシェットを抱えたトリアージェが小走りで登場。
「兄さま!これ!“光の返信自動化魔法”作ったの!」
「なにそれ!?」
「ファンレターをまとめておいて、一週間に一度抽選して、当たった人にだけ直接返信を送るの。外れた人には、兄さまの声を録音したカードを渡すよ」
「え、それすごくない?」
「でしょ?これなら魔力量も減らないし、みんな喜ぶ」
封筒は光の帯に乗って流れ、当選者には本人直筆(魔法複写)の手紙が。
外れた人にも、ウィルの声で「応援ありがとう」が届く仕組みだ。
こうして開設された『離宮出張所(ギルド内“魔法のお手紙発行所”の)』は、この後、意外な発展を見せることになるのだが——。
詳しいことは、いつかのお楽しみ。
◇
——その日のギルド支部。
「返信きた……!録音カードもらっちゃった!」
「声まで優しい……これもう推しじゃなくて神……」
「外れたけど、声カードで死んだ」
《ニコラのひとこと日記》
「自動返信カード、便利だけど……離宮のだけ豪華すぎ。絶対アナスタシア殿下の仕業だ」