第六話 推し活、帝国上陸!
ギルドの掲示板に貼り出された一枚の紙。
それは、皇族ファンクラブ結成を知らせる告知だった。
しかも——『魔力持ち貴族女子限定』の人材募集!
そこにはこう書かれている。
通りすがりの女子たちは、足を止め、息をのんだ。
◇◆◇◆ ◇◆
《皇族ファンクラブメンバー募集!》
・魔力を持つ貴族女子(微小可)
※ほぼないくらいの微小でも、みんなで力を合わせるので大丈夫です。
・勤務は週1からOK!日数調整可/「推しごと休暇」制度あり
・通勤手当は、ギルドの転移トンネル無料!(※半径50km圏内限定)
「“本物の皇族”を推せる時代が来ました」
――そう、今この瞬間から始まるのです……!
◇◆◇◆ ◇◆
貴族女子A(下級)
「えっ、なにこれ……ガチの“推し活”じゃん!?」
「しかも、“微小可”って……魔力ちょっとでもいいの!?」
女子B(平民メイド)
「……令嬢様方が目を輝かせておられるわ。これは……一大事ですわね……!」
こうして、史上初(?)の女子向けワクワク採用情報は、
帝国津々浦々へと爆発的に広がっていった。
というのも――
ルヴェルディ帝国は、かつて魔法大国と呼ばれたが、今では魔力持ち貴族は希少。
だからこそ、“魔力を持っている”だけで選ばれる募集は、特別だった。
帝国中の女子が沸かないはずがない。
◇
私――ニコラ・グリーンレイズは、
マリシス皇太子殿下との謁見を終え、二つの大問題に直面していた。
ひとつ。「皇族ファンクラブをどう運営するか」。
ふたつ。「誰と、どうやって作っていくか」。
だって私、ギルドの正職員じゃないし。
本来ならギルド内で活動するのもアウト。
それでも支部長が「ここ使っていいよ」と場所を貸してくれた。
もう、それだけで奇跡。
……天国。
だってソッコー始められるじゃないの!?
ただし、私ひとりでできることといえば、皇族マニュアルの脳内速記くらい。
『ファンクラブ』なんて名前は立派でも、中身は手探り。
やるなら、人を募るしかない!
でも報酬はお給料じゃなくて――「推しと会える(かもしれない)権」。
……金銭じゃないけど、いいのか!?
私の良心が叫ぶけど、なりふり構っていられない。
《その他特典》
•グッズ社販(冊子・ポスター全部対象)
•誕生日祝いあり(アナスタシア皇女殿下特製ポーチ進呈)
•皇族に仕えるチャンス、あるかも!?
支部長はこれを見て、目を潤ませた。
「ニコラちゃん……そこらの正社員より待遇いい説あるよ、これ……!」
そうして今日、支部長から贈ってもらった看板の前で、
私はガッツポーズを決めている。
《魔法のお手紙発行所》
〜皇族応援ファンレター発行部〜
金色の文字がきらり。
超・皇族っぽい!
ちなみに発行所の奥には――
『お手紙魔力検閲課』の机が並んでいる。
魔法封印の動作確認や、うっかりラブポーション付着防止のためだ。
(※『バラの香り魔法』だと思ったら、ただのラブポーションでした事件!!とかあったら困る)
——言うまでもなく翌日のギルドは、ひそひそ声で溢れた。
「なんか……あの看板、本気ですよね……?」
「“推しクッキー販売予定”って……どういうこと?」
「え?あの幻の茶葉とセットで!?」
「ギルド公認なの?」
「ていうかあの子、受付嬢じゃなかったっけ?いつの間に支部長に……」
(うん、ざわつくのは想定内!)
でも私は信じてる、この事業イケる!!って。
なんと言っても――推しは、私たちの『生きる力』なんだから!!
◇
一方、離宮の執務室。
皇族兄妹は、ほぼ貰い事故レベルの衝撃を受けていた。
ハインリヒ(マリシスの影)
「殿下、ニコラ嬢がこちらを……どうやら人を雇うようです」
マリシス
「……なんだこれは。“至近距離スマイルに注意”……?どこの誰が……」
双子の皇女はそろって、フォークに刺したケーキをぽとり。
アナスタシア
「……わたしの部屋にまで推し菓子が届くのやめてほしいです。ふとっちゃう」
トリアージェ
「お姉さま、わたしより痩せてるじゃない」
唯一ポジティブなのは第二皇子ウィルフレッド。
風魔法でファンレターを竜巻のように舞わせる。
ウィルフレッド
「見て見て!『寝落ち王子ランキング』ってのがあるんだって!僕が1位なんだ!」
舞台役者のようにくるりと回る彼を見て、侍従レオナルドは満面の笑み。
「マリシス殿下も、ご安心ください。発行所はギルド公認で……転移便で全国対応です」
マリシス(小声)
「全国対応なら安心って……誰か俺にもわかるように説明してくれ……」
◇
そんな推したちの動揺も知らず、ニコラは掲示内容を見返して。
さらに加筆していくのだった。
——『私たちが守りたいのは、尊い日常』
——『さあ、あなたの“尊い”を、魔法で届けに行きましょう!』
「うーん!これでどうだっ!!」
そう言いながら書き足したのは、『応募方法』のところ。
目を輝かせる女子たちを想像して、ニヤリとしながらペンを走らせた。
◇◆◇◆ ◇◆
応募方法:この掲示を見てワクワクした方、ギルド本部西館のニコラまで!
※初回面談では“あなたの推し語り”を3分間お願いします。
(語彙力ゼロでもOK、目がキラキラしてれば可)
◇◆◇◆ ◇◆
たくさんのご応募、お待ちしております!