表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/15

第四話 推し活講義、開講です!

鳴り止まぬ拍手のなか、

アナスタシア殿下が小さく笑いながら言った。


「ニコラさん、さっきスタンプを二回おしてましたね?」


「えっ!? そ、そんな……!」


周囲の空気が一気に和らぎ、ギルドのメンバーたちも笑い声を上げた。


「ふふっ、推しの前でやらかすなんて可愛いですね」


アナスタシア殿下の無邪気な笑顔に、私は救われた気持ちになった。


(これからの毎日、少しだけ楽しみかもしれない……)


そう思った瞬間、鐘の音がまた心の奥で鳴り響いた。



――あぁ……私の新しい物語、いま始まったな。




なおもギルド支部では、黄色い歓声が響いている。


「なんだか……すごいことになってるね」


「うん……推しって何だろう……」


隣で首をかしげるトリアージェに、アナスタシアは小さく息を吐いた。


「……推しっていうのはね、簡単に言うと、“全力で応援したい存在”のこと」

「存在……?」


「前世の世界では、芸能人とかアイドル、キャラクター、時にはパン屋の看板娘まで……何でも“推せる”って言って、好きになる対象に全力投資する文化があったの」

「キャラクター……?全力投資……!?」


「うん。応援して、会いに行って、グッズ買って、人生かけて……お金もたくさん使う」

「……人生!?」


「そう。“推しは命”って言葉もあったくらい」

「ひ、ひえぇ……」


アナスタシアは、あの狂熱のリリイベ(※リリースイベント)会場を思い出して、遠い目になる。


「……ここ、今まさにそれ。たぶん“皇族推し”の総選挙、始まってる」


トリアージェはなおも不思議そうな顔。


「えっと……じゃあ、わたしたちの“推し”って……?」


「うーん、レイモンドとアベルじゃない?……あ、アージェの場合、セシルか?」

「……なんか、わかった」


この時……きっと、

アナスタシアの守護精霊アベルはギルドの馬車寄せで、トリアージェの護衛騎士セシルは城の一室で、揃ってくしゃみをしたに違いない。


そうして渦中の二人——

マリシスは騎士志望の若者たちに囲まれ、なぜか人生相談を受けており、

ウィルフレッドの前には握手を求める列ができていた。



——姉妹はますます、置き去りにされていくのである。


「……それにしてもあの人たち、私たちの登録に来たんだよね?」


「……来たよ。たぶん……」


「……ま、結果オーライか」


静かにうなずき合うふたり。

騎士レイモンドだけが彼女たちの横にそっと並んで、ひとこと。


「お疲れ様でした。では、職人ギルドの許可証を受け取りに行きましょうか?」


「うん。私たちのギルド生活、ここから始まるんだもんね」


喧騒の中、三人だけが、静かにその場を後にした。


《ニコラのひとこと日記》

アナスタシア殿下、なんで「推し」の定義を知ってるんだろ?

え……もしかして、転生者の先輩? ……なんてことある??


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ