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第二話 皇子登場、その時ニコラは思い出した

「やあやあ、間に合ったみたいだね。書類はここにあるよ、レイモンド」


ふたたび、ギルドの扉が開く。


金髪の青年。

軍装に身を包み、外套を揺らしながら静かに歩を進める姿。


その瞬間、空気が変わった。

張り詰めたような静寂が、一気に場を包む。


(……あの服装……その顔……えっ)


「ま、マリシス様……!? 皇太子、殿下っ……!?」


(うそ。あの“寡黙皇子”が……昇格してる……!?

 えっ、皇太子って、ちょっと……えっ、無理、無理、尊い……)


気づけば私は、思わず声を上げていた。


ギルドの空気が揺れ、ざわめきが走る。


「え……あれって本物?」

「ちょ、まって顔が整いすぎじゃ……」

「皇太子様!? マジで!?」

「でも落ち着いて……いや無理、落ち着けるわけがない……!」


受付フロアに、ひときわ強い視線が集中する。


「軍服、やば……似合いすぎる……」

「推せる……いや、もう推してた……!」


民たちのささやきが次第に熱を帯び、

ギルドはちょっとした“騒ぎの渦中”と化していた。


(うそ……どうしよう……)


私の鼓動も、どんどん早くなる。


そのとき——


頭の中に、ディンゴンディンゴンと鐘の音が響いた。


そして、目の前のその人の姿と、

どこか懐かしい感覚が、私の記憶をつなぎ合わせていく。


(この顔……この立ち姿……剣の角度まで、見覚えが……)


(ま、まさか……)


(この人……私が前世で、命を懸けて“推してた”……伝説の推し様!!うそでしょ!?……なんで、よりによって今!?)



——記憶が戻ったのがこのタイミングってどういう……運命……?



(なんで!? いやほんとなんで!?)


けれど、目の前の彼は、変わらぬ涼しい表情で歩を進める。

そして当然のように、こう言った。


「レイモンド、提出を」


「はい、殿下。こちら、登録用の正式書類です」


騎士様が丁寧に書類を差し出す。


私はそれに、精一杯の笑顔で対応する。

ぐらぐらしちゃうくらい動揺してるけど、でも、私は受付嬢だから。


(いまは……ギルド職員として、ちゃんとしないと……!)


仕事モードの自分を必死で保ちながら、私は震える手で書類を受け取った。


(落ち着けニコラ……これが“日常の仕事”……たぶん……)


そう言い聞かせてからもずっと……

頭の中では、鐘の音が鳴り続けている。



そうして一気に爆発する民の推し活魂。


ギルド内の空気が、なお一層ざわつき始めた。


「え? 本物だよね!? 本物でしょ!?」

「マリシス様の顔、小さすぎて近づけない……」

「やっぱり王族のオーラって違うな……」

「私の王がこんな近くにいるなんて信じられない!」

「今日から推し活本気出すわ!!」


女子たちが次々と前のめりになって、羊皮紙を落とす。

ギルドの受付カウンターは、一気に“推し活会場”に早変わり。


「これ、記録しなきゃ! 『ギルドで推しに遭遇した記録』って!」

「もう心臓が追いつかないよーー!!」

「殿下ーー! サインください!」


歓声というより、熱狂に近い声が飛び交う。


全員、ギラついた目でマリシスをロックオン。

奥の書記官女子がスケッチボードを取り出し、無言で描き始めた。


「……これ……練習用……いや本番だ……額装しよう……」


その様子を横目に見ながら、私は自分の役目を思い出す。


(ああ、これも仕事の一部なのよね……)


内心は興奮しつつも、受付嬢としての責務はきちんと果たすべく気を引き締めるのであった。


《ニコラのひとこと日記》

前世“寡黙皇子”として命懸けで推していたマリシス様が、今日はちゃんとお喋りしてくださった。

しかも……皇太子にご出世されてて、もう感無量!!

(……推しって、現実にいると破壊力が倍増するんだなぁ)


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