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人間の味、侵食はその味をも忘れる

グレイは別の世界へ行った、動機は単純。


一休みしたいから──


”セクター・034”

奴隷制度が存在する現代世界。

現代技術はあるため、スマホやパソコンもあり、人間中心の社会を築けている。


グレイは自然に囲まれた山のど真ん中に扉を開け、S034に姿を現す。


木々に囲まれた場所に立って、先ほどの騒々しく、機械が集まった空間とは真逆の場所に居た。

花は咲き、小鳥たちもさえずっている。

そんな場所でグレイが一番最初の行動は…


「都会に行こう。」


シュォォンッ!!!

そう呟いて、グレイは残像と共に都心部へ向かう。


”中央都市、タームネル”


大きな都会の街で、SNSや流行りの最先端の街。

あらゆる人間がスマホを弄ったりして周辺の飲食店や街並みを楽しむ様子を見せる。


グレイは辺りを見渡し、カフェのような場所を探す。

他と比べ一回りビルの一番下にある数々の出店やチェーン店があるものの、お菓子、アイス、ランチなどを扱うばかりで、グレイの目的に合ったものは無かった。


「まだコーヒーは高級店扱いか、遅れてんな。」


一軒も見当たらないことからそう推測し、もう少し地位の高い人間が居る場所へ向かう。

中央都市は、中央に行けば行くほど、住人の地位は高くなると言われている、土地の価値が高い故のものだった。

予測通り、バーのような雰囲気のある店を一軒見つける。


グレイは人気のない建物と建物の間に身を投じて、既にそこに居たかのように、他の人間と似た動きで歩き出す。


店の前に着いては、そこに立ち尽くしてしまうグレイ。


「…まあいいか。」


グレイは少し迷ったが、何もせず店の扉を開ける。

店内の雰囲気は静かで、軽い音楽と共に、他の客はゆっくりとコーヒーを嗜んでいた。

店員には軽い挨拶と共に、人のいない端のカウンター席に座る。


「本日は、どういたしますか?」


店員の一人がグレイに話しかける、優しそうな顔をした男性だった。

グレイは店について何も知らなかったため、少し思考を巡らせるように店内を見渡す。


「ここは来たばかりなんでね、オススメを3つ教えて下さい。」


身分を少し見せるような言葉で、グレイはそう聞く。

店員は頷いて、ずらりと並んだ少し大きなメニュー表をグレイに見せる。


だが店員がそれを言葉にする前に、一人の女性が後ろからグレイに言葉をかける。


「ここだと”ミルク・フォルテ” ”ヘーゼル・リッチブレンド” この二つがオススメですよ?」


優しい声と共に、赤い金の刺繍が入った、いかにも価値の高そうな服を着た人間がグレイに教える。

その背後には黒いスーツを着た護衛の人間が2人居た。

店員は状況を察して、黙々とメニュー表を片付ける。


「ミルク・フォルテは、バニラの甘い香りとコーヒーの苦みが丁度良い。」

「ヘーゼル・リッチブレンドは、ナッツの香ばしさと、濃厚なミルクの味がたまらないのです…」


色気のある声でゆっくりとグレイの隣に座ってグレイの横顔を見つめる。

説明を聞いたグレイは横目で少し眉を下げて頷く。


「じゃあ…そのヘーゼル・リッチブレンドを一つお願いします。」

(俺、オススメを三つって聞いたんだけど…)


気まずそうに店員に向き直り、注文をする。

注文の品を用意している間、女性は口角を上げて見つめるだけだった。


「…注文しないのか?」


魂胆が読めたのか呆れたようにグレイは女性に問いかける。

それを聞いて女性は意外そうな顔をする


「私のは、もうこっちに来ているの。」


そう言い、女性はコーヒーの入った透明なグラスを見せびらかす。

中に入ってたのはラテといった甘いものではなく、ブラックだった。


「なんの用で俺を訪れる?」


次にそう聞くと、女性は微笑む。


「あなたみたいな人、揶揄うのが好きなんで。」


それを聞いたグレイは目を逸らす。

次に女性は、逆に質問する。


「あなた、私の奴隷にならない?」


その問いに、聞いた周辺の客は関わらないように、その女性を拒絶する。

不気味な笑みと共にグレイの回答を待つ。


「何言ってんだお前。」


当然の回答だった。

グレイはその問いに対して、不思議な表情と共にそう答える。

女性は席から立ち上がると、その大きな胸に手を当てる。


「私はプリエロース・デブリ、グラスプール社の社長です。」

「戸籍が存在しないってね。こちらの基準だと扱いやすいのよ。」


自己紹介と共に、グレイの戸籍情報が無いことが、奴隷に誘った理由だと教える。

グレイはその予想外の問いに納得して席を立つ。


「答えは ”イエス” よね?」


首を傾げ、笑顔で手を差し伸べる。

グレイは口から深く息を吸う、自分を落ち着かせるように。


「ああ~10秒、待ってくれ。」


待て、と手を前に出しそう言うと、周辺を見渡し、他の人間を表情を伺う。

焦りや不安など怯えたような顔が他の人間に見られ、この”奴隷になる”というのが魅力的でないことを理解する。


「10秒、経過しましたが…?」


デブリはそういい、グレイの回答を促す。

後ろの護衛の腰には拳銃が差し込まれ、直ぐに撃てる用意がされていた。


グレイの答えは決まっていた。


「死ね。」


ドゴォッ!!


その音と共に、拳がデブリの顔面に打ち込まれる。

 

ブシュッ!

バン!ドシャァ…


後頭部を壁にぶつけ倒れる。

それを見た護衛は、銃を取り出しグレイを射殺しようとする。


グレイは、偶然テーブルにあったグラスをガッと持っては護衛の一人に投げつける。


バリィン!


割れる音と共に顔面に命中し転倒する。

そしてもう一人の護衛に素早く近づく。


ドシュッ!


更にもう一人に対してはすぐに近づき、腹部に槍のような蹴りを入れる。

護衛2人は痛みによって気絶する。


抑える人間が居なくなったグレイは、護衛2人を哀れむかの如く深呼吸をする。


「俺を奴隷にしたいか。」


最初に殴り飛ばした女性の服を掴み、近づける。


「俺はお前を敵としよう。」


そう言い、グレイはデブリの首を掴む。


ガシャァン!


するとデブリの顔面を勢いと共にカウンターに打ちつける。

カウンターのテーブルは砕け、潰れてしまうとともに「ゴガッ…」と喉が潰れるような声がする。

口から大量の血を流し、顔の一部は裂けてしまい見るに堪えない姿であった。


グレイはそんなデブリから手を離し、放置する。

そして他の人間の様子を見ると、とても怯えて、身を包ませていた。


周りの人間が見る目は当然、グレイを化け物を見るかのようであった。


「多分、コーヒーっていう雰囲気じゃないよな…」


状況を察したグレイは、失念と共にそう呟く。

想定したことだったが、一休みできない雰囲気に気まずい様子を見せる。

いたたまれない気分になったグレイは溜息を吐いて、店の扉の方に向き歩き出す。

すると一人の声がする。


「あの…!」


勇気を出したような、でも怯えてるような様子で店員がグレイを呼び止める。

グレイはその声に気付いて再度店員に顔を向ける。


「ありがとう…ございます。」


縮こまるような声でそう言うと、頭を下げてグレイに感謝のサインを送る。

グレイはその言葉を聞いて笑顔で店員を見つめる。

少しした後「フッ。」って鼻で笑って微笑むと、店員のすぐそばに向かって肩をポンと乗せる。


「だから俺、人間は好きなんだよ。」


少し感動した表情でそう言うと、グレイは扉の方へ向かって歩いて行く。

そして再度後ろに向けて手を挙げると、グレイは静かに消えていった。

**********************************


一方で明るい、オフィスのような空間でカタカタとキーボードを打つ音が響く。

テーブルの横にはコーヒーが並々注がれたカップが置いてある。

小暮は異変を調べていた。

するとクリエスタが後ろから現れる。


「頼まれたものは…これでいいよな?」


ペラペラと音を立て持って来たのは、3枚の書類

異変に関する詳細が述べられたものだった。


小暮は白い手袋で受け取り確認すると、頷いて机に置く。


「恐らくセクター・091に存在する『特異個体』が発端だな。」

「人間ベースだが、どこか違う。」


二つの書類を確認しながら、今分かってることをクリエスタに伝える。

それを聞いたクリエスタは頭部をグレーに変える。


「そんな人間が…どんな異変創りあげるってんだ?」


顎に人差し指を当てて小暮に聞く。

クリエスタは少し考えこむと、頭部が青色になり驚いたような動きをする。


「その世界の”既存法則の崩壊”が起こる…」


青色から紫色に変わっていき、危機感をリアルに感じ取ると、顔を俯け落ち着かない様子を見せる。

小暮は椅子をクリエスタの方へ向けると、背にもたれて手を重ねる。


「更に言えば…別世界との侵食の果てに、混沌空間発生は避けられない。」


それを言葉にしたその時、クリエスタは頭部を赤くし焦りを見せる。


「…どうする?」


クリエスタはその言葉を絞り出すように言う。

小暮はその言葉を聞くと、椅子から立ち上がる。


そして人差し指を下にさげるようなしぐさをしながら口にする。


「こっちに招き入れればいい。」


それを聞いたクリエスタは納得したように頭部を白くさせる。

その次にはその白色が濁るように黒が入っていく。


「それは…俺らの仲間に?」


指を動かしてそう言うと、頭部の色に少し黄色が混ざる。

小暮はその問いにすぐさま答える。


「そうだ。」

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