異形の三人、騒がしい日常のその先に
多少はマシな構造になってきました。
これなら私の作りたかった物語が作れます
「今宵!この国は我々が支配し、理想郷を創りあげる!」
野太い中年男性の声が響く。
そして様々なビル街の中、ビルに設置された巨大なデスクトップが男性の演説映像に強制的に切り替わる。
国全体に放送され、国民全員は不安や困惑に包まれていた。
”セクター・055”
略称 S055 現代世界だが、技術発展により近未来に近づいてきた世界である。
男性は志を高く宣誓した後、カメラの視点を変えて別の人間に視点を変える。
「こちらは現大統領、アスト殿である。」
狭いドアの無い個室の中に、口にガムテープのような堅い粘着テープが張られ、更に2人の武装した人間にライフルを向けられる両手両足を拘束された女性が居た。
現大統領で、この国を統べる張本人の哀れな姿をカメラに収める。
国民は冗談だと思う人間も居れば、本気と感じて悲鳴や逃げようと車を走らす人間も居た。
SNSは大騒ぎ、トレンドには”クーデター” ”テロ” など様々といったものだった。
”ありえないでしょ…” ”そんなことよりこれ見て~”
”コラだろ?” "世界はどうなるんだ?” "あ~、これダメっす(笑)"
反応こそ様々だったが演説は本物であり、カメラに居た大統領も本物で、今まさに一つの国が危機的状況下に置かれていた。
軍基地も占拠され、重要人物は捕縛、抵抗した人物の死者は数えられぬほどだった。
演説する人間が目を逸らしてカメラを自分に向ける。
「では、これからの国の方針についてだが…」
そう胸を張って話そうとし始める。
スチャッ
バアンッ!
絶望的な状況の最中、突然演説する男性が何者かに発砲される。
軍人の服装に帽子を被った人間が銃を持って現れる
バン!バン!
カラカラカラ…
その何者かはすぐさま大統領の側近にいる二名もすぐに拳銃で撃つと、二名の額に銃弾が打ち付けられ、撃たれた箇所から血が流れ、力を失い倒れる
帽子を取り顔を見せるその人物は、頬に何かの切り傷が一つあった。
そして黙々とカメラを破壊し、胸から小型の無線機を取り出す。
「標的消失、後始末頼む。」
大統領の方へ向きながらそう無線機に口を当て話す
「了解」のという低い声が無線機から聞こえ、通信が遮断される。
ガジャッ!
カメラを掴んで握りつぶそうと指を喰い込ませる。
ギリギリギリ…
ガヂャアッ!!
カメラは完全に潰され、機能は完全に失われる。
アスト一見何が起こったか理解していなかった。
その男は突然現れ、唐突に銃撃を始めたのだから。
男の名は”クリエスタ” この世界の住人ではない。
そして彼は組織のリーダー的存在だ。
「誰だコイツ?」
女性を見ながらそう言うクリエスタ。
するとしゃがんでロープの拘束をナイフを使って解き、口のガムテープを無理矢理ビリッと外す。
「あ…ありがとう、でもどうやって?」
アストは震えた手で足を動かし、ようやく立ち上がると、感謝と困惑で感情いっぱいになり、クリエスタに聞く。
クリエスタも立ち上がって質問に答えようとするが、絶妙に嬉しくないような表情をする。
「どうでもいいだろ、お前が何であってもな。」
その言葉を聞いてその人間は不安な表情を浮かべて少し怯えた様子をみせる。
「噓…私大統領だよ?」
様々な疑問と変な部分が色々混じり不安が頭によぎる。
それについて聞こうと「あの…」と質問しようとしたが、先にクリエスタが話す。
「詮索しようが無駄だ、この世界の既存のデータのみでは我々の存在は確立出来ない」
そう言いながら部屋を見渡し、死体が持っていたUSBを取り出しすと、クリエスタのポケットに入れる。
すると通信機から「ピッ」と起動音が鳴ると、先ほどの通信とは別の人間が反応する。
「周辺の人間は全員殺しといた、先に集合場所に向かう。」
ノイズのかかった若い男性の声でそう伝えられ、通信が切れる。
クリエスタがそれを聞くと頷くような動きをして「んじゃ」とアストに別れの挨拶する。
「あ、ちょっと…」
次に瞬きしたときには、既にクリエスタは居なかった。
そしてアストの手のひらに一つのメモ付きの紙が送られる。
メモの文字はとても綺麗で、機械で出力したといっても違和感が無いほどだった。
内容はこう書かれていた。
”出口は天井にある”
*********
クリエスタは外に出て、先ほどの集合場所へ向かう
集合場所は軍や組織ですら入らない荒野であり、人気が一切ない場所だった。
クリエスタは人間の姿をしていたが、やるべきことが終わったため姿を元に戻す。
帽子をそこら辺に投げ捨て、頭部が人間の顔から、何もない球体に変わっていき、肌は白く、血管は薄青く、皮膚の下を這っていた。
更に軍服は青いTシャツと黒いズボンに変わる。
最終的に謎の生命体という存在になって荒野を歩くいていく…
すると現場に一人の男性と一つのテントがあった。
一般的な人間から見たら細マッチョのような見た目であり、身長は186cm程。
だが日中なのに影が無く、呼吸の際の胸と顔の動きが無かった。
クリエスタはその姿を見て彼だと確信して声をかける。
「ちと遅れた、すまない。」
近くまで歩んでいくと彼もクリエスタに気付いて手を振る。
彼の名は”グレイ” 人間ではない上、クリエスタと同じくこの世界の住人ではない。
肉弾戦や多人数相手の殲滅を得意とする。
「言っても30秒程度だ、誤差だろ。」
グレイはそう言いフォローする。
そう会話しているとテントの中から、バサッと布を退けて人型の黒い煙がスーツを身に付け、襟を整えながら2人の会話に入る。
「くだらない征服ごっこだったな、やり方から場所まで全部が雑だ。」
低い声でそうテロ行為の連中に対し呆れた様子を見せる。
彼は”小暮” 見ての通り人外で、同じく別世界の住人。
グレイはその言葉を聞いて何とも言えない様子で眉を上に浮かべる。
「まあアイツらは、俺らのような生命体じゃないしな。」
そう諭すと、小暮はその意見に頷いて納得する。
その間にクリエスタが、何もない空間に手の平をパントマイムのように当てる。
「脅威は無くなったしな、とりあえず帰ろう。」
2人の方に顔を向けてそう伝える。
グレイと小暮はその言葉に頷いて、荷物をまとめる。
クリエスタが手を当て続けると、手の平の前方に一つの点が現れる。
その点は段々円となり、人が入れるサイズまで大きくなったその時
扉は、現れる───
ブォン!!!
空間を無理矢理こじ開ける際、重低音が3人に響く。
無理矢理こじ開けた空間に見える景色は、先ほどの荒野では無かった。
明るく広い空港の様な場所があり、3人は見慣れたようにその扉へ入っていく。
3人が消えると空間は閉じ、いつもと変わらない静寂が荒野をこだまする。
まるで元々何も、無かったかのように…
扉を抜けた先は、先ほどの自然な太陽の明かりとは違う、ライトの明かりが3人を迎える。
色んな人型の生命体が、彼らの仲間と共に談笑しながら、長い旅行をするかの如く空間に入ったりしている。
単眼の肌の青い生命体、二足歩行の猫やシンプルな人間など多種多様。
正に自由な空間、それが3人の帰る家であり、重要な施設かつ組織だ。
グレイは帰って安心したのか、息を少し吸って吐く。
「疲れちまった、カフェにでも行こうかな。」
そう言い、頭の後ろに手を組ませる。
「お前らはどうだ?」
他の生命体の話し声が一つの騒音となる中、2人に顔を向けてそう誘う。
クリエスタは首を傾げ後頭部に手を当て、少し迷う様子を見せると頭部の色が紫色に変わる。
少し経つと元の白色に戻ってグレイに話す。
「あー…いや、やめとく。」
「見たいアニメがあるしな。」
それを聞いたグレイは眉を寄せ、肩を落とす。
「…ちなみにアニメはどういう奴?」
何かを言いたそうに敢えて質問するグレイ。
クリエスタは嬉しそうに語る。
「10年前の作品でな、結構ストーリーやらがしっかり作り込まれてんだ。」
それを聞いた小暮はシンプルに疑問を抱いて聞く。
「…ん?最近の作品では名だたるものがあったが…あれはダメなのか?」
クリエスタはその質問について少し考えこむ。
10秒ほど経つと段々と頭部が青くなる。
「最近のはなァ…似たような展開と作風で飽きたんだよな。」
「構造の発想は悪くねぇのに…勿体ないよな?」
腕を組んで、俯いては不満そうに質問に答える。
すると思い出したかのように小暮に顔を向ける。
「あ、そう言えば小暮、この後なんかあるんだっけ?」
クリエスタのその言葉を聞いて小暮は頷く。
「ああ、別世界について少し気になる点があったから、それについて調べる。」
クリエスタは少し気になる点があり、深堀りしようと聞く。
「何か、あったのか?」
そう聞くと、小暮は白い手袋をポケットから取り出し身に着ける。
その問いにどこか重圧を感じ、周辺の生命体の声が聞こえなくなる。
「実は、ある世界で異変発生とのことだ。」
「理由や詳細も未だ分からぬが、噂は確かめておこうと思ってな…」
その真面目な説明を聞いて2人は何とも言えないような表情で居た。
先ほどとは全く違う様子に少し不安な様子だった。
「じゃあ、何か分かったら教えてくれよ、俺は先に向かう。」
グレイは少し心配な様子でそう言い、逃げるように2人の元を離れる。
クリエスタはその異変について気になるところがあり、少し唸る。
「重要度はどれほどだ?」
少し間を置き、クリエスタが小暮に質問する。
小暮もまだ定かではないのか、考え込む様子を見せる。
結論が付いた小暮はその問いに答える。
「これは私の推測だが…」
「重要度は中~高、セクター自体の発展力といい、我々のどれか一体が向かう必要があるかもしれん…」
目線を下に向けそう言う小暮、その推測が伝わると、クリエスタは顎に手を置いて考える。
クリエスタもその異変について内心不安だったが、特別気にしないようにしていた。
「一応警戒はしよう、こちらでも対策要員も投入させておく。」
そう言い、ある程度会話した後、2人は離れる…
********
グレイは一人でスーパーマーケットのような構造をした空間を歩いて、行きつけのカフェにたどり着く。
コーヒーカップのマークが特徴のドアがあり、グレイは黙って開けようとする。
だが開かず、そっと下を見ると”CLOSE"の看板が掛けられていた。
「…マジでか。」
冷静にそう呟くが、内心凄い落ち込んでいたグレイ。
だがすぐに立ち直り、先ほど2人と別れた場所まで向かう。
「別世界…」
行き方は、機械にエネルギーを集中させる方法が主流だが、クリエスタ・小暮・グレイの3人はこれを一人で行うことが可能。
グレイも行こうと決め、人差し指を何もない空間へ向ける。
シシュッ!
十字に斬るように動かすと、空間を切り裂くように四角状の扉が現れる。
その扉が現れると、グレイはなんの躊躇も無くその扉を抜けて、別の世界へ飛び立ったのだった…
ここは”セクター・000(ゼロ)”
彼らの帰る場所であり、組織が世界であり、世界が組織という場所。
あらゆる世界、多次元宇宙の中継点である。
最後まで見ていただき感謝します。
セクター・ゼロ:多世界航行録
簡単に言えば異世界を旅する物語で、この3人をメインに進めていきます。
ヒロインは後々登場するかも…?