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元公爵家執事の俺は婚約破棄されたお嬢様を守りたい 第4章(ランドの森)

元公爵家執事の俺は婚約破棄されたお嬢様を守りたい 第4章(10終)アルガーダ王国の精霊姫

作者: 刻田みのり

 強欲のラ・プンツェルのサークレットからマンディを解放することに成功したものの(なお、マンディの失われた魂は再構築されて輪廻の輪に戻った)、シャルロット姫がラ・プンツェル(本体)に捕まってしまった。


 ラ・プンツェルが身体の一部からサークレットを生み出し、それを使ってマンディの時のようにシャルロット姫の身体を乗っ取ろうとしている。


 シャルロット姫、ピーンチ!



 *



「シャリッ!」


 シャルロット姫を救い出そうとプーウォルトが動くが、その身体がピタリと止まる。


 ラ・プンツェルが一つ目を赤々と光らせていた。


 強烈な魔力による身体拘束だ。


「ククク、そなたが必死になればなる程、守れぬ時の絶望は深かろうよ」


 ラ・プンツェルからシャルロット姫へと悪魔の顔を模したサークレットがふわふわと漂っていく。


 そのサークレットの目が愉快げに赤く光った。


「この小娘の身体を使ってアルガーダ王国、いやこの大陸の女王となるのも一興。ふふっ、ちと思っていたのとは違うがマンディの願い自体は叶えられそうだのう」

「黙れっ!」


 プーウォルトが怒鳴るがラ・プンツェルは怯まない。


 むしろ挑発するかのように言葉を続けた。


「そなたに想いを寄せておったのに従姉妹のシャーリーに婚約(横取り)され、マンディは心底悔しがっておったぞ。もし自分が王女であったなら、いやいっそ女王であったならそなたと婚姻を結ぶことも可能だったはずだと思い込んでおったわ。女の嫉妬とは真に哀れなものよのう」

「嘘をつくなっ。本官とシャリの婚約はマンディも祝福してくれたのだぞ!」


 プーウォルトが吠えるがこの場にいる女性陣の反応がががが。


「うわぁ、プーニキ教官てば女心が全然わかってない」

「そんなの表向きだけ、ジュークだったら裏切った男に乱射!」

「ニジュウなら結婚式場乗り込んで花婿奪取する!」

「いやあんたたち……えっと、アミンも悲しいけど表面的には祝福しちゃうかなぁ。でも、だからって目の前でラブラブとかされたらそのうち我慢できなくなるかも。あっ、あくまでも可能性の話よ。別にジェイが他の女と婚約したりしてもアミンは(以下小声過ぎて聞こえない)」

「うふふ……私はシャーリー一筋(生まれ変わりも含む)ですので。それに私とシャーリーの間に割り込める存在なんていませんよ。もしそんなことをしようとする不届き者がいたら(以下ピーと長い雑音が入る)」


 イアナ嬢、ジューク、ニジュウ、アミン、そしてリアさん。


 いやウチの女性陣怖いよ。


 どうして揃いも揃ってちゃんと祝福できないんだよ。


 表向きとか表面的にはとか止めろよ。


 つーかジューク。


 乱射は止めろ乱射は。


 ちゃんと話し合おう。暴力からは何も生まれないし解決もしないぞ(そういう話ではないかもだが)。


 まあそれはそれとして。


 俺はマジンガの腕輪に魔力を流した。


 チャージ。


 ラ・プンツェルは女性陣のコメントをまるっとスルーした。


「マンディの父親が獣人の国から戦利品として持ち帰った(サークレット)をマンディに見せた時、マンディの嫉妬心はそれはもう強く発せられていたものだぞ。だから妾はマンディに契約を持ちかけたのだ」

「うるさいっ、黙れと言ったはずだ」

「おお、怖い怖い。そのように怒気だけで妾を圧してくるとはな。シャーリーを想っている癖にマンディにも気があったのか? ならばマンディにそのように伝えておけば良かったではないか」

「違うっ、本官はマンディの魂を貶めたくないだけだ」

「ふんっ、つまらぬのう。このようなつまらぬ男を想うとはマンディも……まあ良い。お陰で妾もマンディの嫉妬心を利用して契約できたことだしその後も楽しませてもらったのだからな。そういう意味ではそなたに感謝するべきなのかのう?」


 ラ・プンツェルの一つ目がいやらしそうに細まる。


「何が感謝だ!」


 怒鳴るプーウォルト。


 だが、依然として身体はラ・プンツェルの魔力に縛られて動かせないままだ。


「そなたはそうやって吠えておるが良い。さて」


 ラ・プンツェルがシャルロット姫の額にサークレットを当てた。


 あと一押しでサークレットがシャルロット姫の額に装着されてしまう。


「ふふっ、この小娘はどのような欲望を抱えておるかのう。まあ何であろうと妾が叶えてやるがな。その代わり魔力も魂も美味しく頂かせてもらうぞ」

「や、止めろッ! 止めろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「くふふっ、何という甘美な響き。ほれほれ、もっと叫ぶが良い」

「シャリ、シャリ! うおおおおおおおおっ!」


 絶叫するプーウォルト。


 愉悦に浸るラ・プンツェル。


 実に楽しそうだが……ま、もちろん放っておける訳ないよな。


 ほいじゃ、マジックパンチの発射といきますか。


 そう俺がラ・プンツェルに狙いを定めていると……。



「シャーッ!(猛虎気合い疾走(タイガーオーバードライブ))」



 黒猫の一声とともにラ・プンツェル目掛けて拳大の光弾が飛んでいく。


 右前足を突き上げている黒猫。


 その口がにいっと弧を描く。


 光弾がラ・プンツェルの一つ目にヒットし、激しくスパークした。


 ラ・プンツェルの一つ目が視界を奪われたからかプーウォルトの魔力による拘束が解かれる。


 さらに……。



「くいっくあんどデッド!」



 五つの光りが空を走り、あと僅かで装着といった状態のサークレットを弾き飛ばす。


 ギリギリのところでシャルロット姫は救われた。


 しかし、サークレットは破壊された訳ではない。


 宙を舞うサークレットを誰かが掴んだ。



「なるほど、こんなつまらん物で他人様の人生を滅茶苦茶にしとったんか。こりゃ、質が悪いけぇ、見過ごせんのう」



 エディオンだった。


 前足の爪で器用にサークレットを掴んで……いや摘まんでいる。


 サークレットに触れている爪からシュウーシュウーと煙が上がっているのだがあれは大丈夫なのか?


 エディオンが平気そうだし、大丈夫っぽい? どうなの?


 ま、いいや。


 俺はマジックパンチを撃った。


「ウダァッ!」


 轟音とともに左拳が飛んでいく。


 その射線上にはプーウォルト。


「!」


 おい。


 ラ・プンツェルにラリアットを決めようとしていたプーウォルトがはっとしてこちらに振り向き、横に飛び退いた。


 ラ・プンツェルも逃げようとしたがもう遅い。


 左拳がラ・プンツェルの一つ目にめり込んだ。


 それに続くかのようにプーウォルトが叫ぶ。



「食らえっ! ハイパーイースタン……」



『ブーッ!』



 天の声。



『プーウォルト、あなたにボスクラスの敵に対するラストアタックは認められていませんよ』



「……くっ」

「……」


 あれ?


 今の声、お嬢様の声になってなかった?


 あの中性的な声じゃなかったよね?


 もしかして、どこかでお嬢様がこれ見てる?


 俺が疑問に思っているとラ・プンツェルのまわりで魔方陣が展開した。


 先端に一つ目のある触手が伸びてプーウォルトを狙う。


「そなたの顔はもう見飽きたわ。死ねッ!」


 触手の一つ目から光線が放たれる。


 プーウォルト、絶体絶命。


 ……だが。



「この人は殺らせません!」



 七色の光りが壁となりプーウォルトを守る。


 きりっとした表情のシャルロット姫が沢山の精霊たちの光りに囲まれて浮かんでいた。


 さっきまで気絶していたとは思えぬくらいしっかりとした口調で宣言する。


「強欲のラ・プンツェル、あなたは世界に災厄をもたらすだけの存在。そんなあなたをこのままにはしません」


 精霊たちが一斉にラ・プンツェルへと群がっていった。


 様々な精霊たちの光りが重なり強烈な光へと変わっていく。七色の光りが流動的に移ろい、その煌めきを新たな煌めきへと変化させていった。


「こ、これは……か、身体が動かぬ。なぜ動かぬっ……妾はナインヘルズ第七層で最も高貴な悪魔。七罪を束ねる最強の悪魔であるぞっ!」


 その煌めきの中でラ・プンツェルが喚くが正直聞く価値もない。


 てか、まだまだ元気だなこいつ。


「あんにゃろ、この期に及んでまだそんなこと言ってやがんのか」


 ドンちゃん。


「うーうるさくて起きちゃった。あ、パンが七罪のリーダーなんだからねっ」


 パンちゃん。


「もうそれ誰だっていいよ。それにしても結構しぶといねぇ。やっぱり本来のシナリオ通りじゃないからこのあたりも変わっちゃってるのかなぁ」


 イチノジョウ。


 煌めきと変化を続ける光の中でラ・プンツェルの喚きが木霊している。


 これ、この分だとなかなか終わらないぞ。


 とか俺が思っていると。


 ラ・プンツェルの近くで歪んでいた空間がくるくると回り始めた。


 その回転が速まっていく。



「精霊たちが私に力を貸してくれています。あの悪い魔女さんの魔法で忘却界(リンボ)に行きなさいっ!」



 回転する空間がラ・プンツェルごと光の煌めきを吸い込もうとする。


 絶叫。


「こ、これは……い、嫌だっ。妾は忘却界(リンボ)になぞ生きたくないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


 煌めく光ごと回転する空間に飲み込まれるラ・プンツェル。


 こうして、ナインヘルズ第七層の悪魔にして七罪の一つ、強欲のラ・プンツェルは忘却界(リンボ)へと送られたのだった。


「……」


 て。


 あれ、俺って今回あんまり焼くに立ってなくね?



 **



 強欲のラ・プンツェルが回転する空間の歪みに吸い込まれて消えると、天の声が聞こえてきた。



『お知らせします』


『ランドの森エリア・キャンプ地付近にて臨時クエストボス「強欲のラ・プンツェル」が討伐されました』

『なお、この情報は一部秘匿されます』



 さらに。



『「強欲のラ・プンツェル」が討伐されたことにより臨時クエスト「ランドの森大決戦」が完全達成されました』


『参加された冒険者全員の魔力が20%上昇しました』


『臨時クエスト完全達成ボーナスとして、参加された冒険者全員の魔法によるクリティカル率が10%上昇しました』

『参加された冒険者全員に称号「七罪に挑みし者」が授与されました』



『シャルロット・レイ・デ・エーデルワイスに称号「シャーマニックプリンセス」が授与されました』

『シャルロット・レイ・デ・エーデルワイスの能力「魂のルフラン」の発動条件が変更されました』

『なお、この特殊条件の詳細は開示されません。ご注意ください』



『イアナ・グランデの能力「くいっくあんどデッド」の熟練度が規定値に達しました』

『以降、同時に六枚の円盤を遠隔操作できます』



『皆さん、お疲れ様でした』

『強欲のラ・プンツェルに関する臨時クエストはこれで終了ですが冒険はまだまだ続きますからね。くれぐれも精進を怠らないようにしてくださいね』



「……」


 天の声は最後にお嬢様の声になって終わった。


 うん。


 いろいろつっこみたいけどとりあえずラ・プンツェルによる災厄は防げたんだから良しとしておくか。


 それにしても最後はシャルロット姫にいいところ持って行かれちゃったなぁ。まあシャルロット姫っつーかシャーリー姫のやったことなんだろうけど。


 うーん、シャルロット姫とシャーリー姫は同じ魂なのにそれぞれ別の人格があるみたいだなぁ。


 魂って複数に分かれたりできるんだね。


 とは言え、きっと誰にでもできることじゃないんだろうけど。


 魔法を使えるからって皆が皆攻撃魔法をばんばん撃てる訳じゃないのと一緒かもしれない。人によっては回復魔法しか使えなかったり身体強化魔法しか使えなかったり……て感じで。


 あるいは才能的な?


 マリコー・ギロックは自分の分身体を作ったりしてたけどあれも魂の分化だったのかなぁ。


 ま、俺みたいなただの冒険者があれこれ考えても仕方ないか。


 うん、それよりお嬢様のことでも考えよう。


 お嬢様、今何してるかなぁ。


 ラキアと何かしているみたいだけど何をしてるんだろ。


 想像するのがちょっと怖いような。


 お嬢様って割と凝り性だしラキアはラキアで楽しみへの追求が貪欲だし……て、やばい。あの二人の組み合わせは「やらかし」街道まっしぐらだぞ。


 誰かストッパーになっててくれるといいんだけど。シスターキャロルとか……は無理か。お嬢様に追従してやらかしを酷くしている未来しか見えないよ。


 ええっと他は……ブラザーラモスとか?


 そういや、ブラザーラモスってまだ一度も会ったことないな。おれノーゼアに来て二年になるのに。


 教会に行っても外出中だったり何か用事があって手が離せなかったりで俺が会おうとしても会えないんだよね。お嬢様のことがあるから挨拶くらいはしておきたいのに。


 お嬢様から話を聞いているからなーんとなくな人物像は想像できるけどさ。あ、これ実際に会ったら「想像してたのと違うっ!」てなりそう。


 と、俺が現実逃避していると誰かが後ろから肩をとんとんと叩いた。


 ん?


 俺はその「誰か」に振り向く。


 サラサラの金髪をなびかせた長身の男がいた。


 浅黒い肌に白い歯が眩しい。


 俺を見つめるエメラルド色の瞳の目は全く笑っていないのに表情がスマイル全開だった。胡散臭いことこの上ない。


 ほいで服装はというと……ん?


 こ、これって前にお嬢様が絵に描いて見せてくれた「アロハシャツと短パン」では?


「えーと」


 つっこむべきか、しばし躊躇してしまう俺。


 男はニコニコしている。惜しい、目さえ笑っていればめっちゃいい人っぽいのに。


 それに割と美形。ああでも美形でこの胡散臭さはどうなんだ? お好きな人には堪らないのかな?


 あれだ、裏で絶対悪いことしてるタイプだ。油断したら騙されるぞ。


「お前、俺の悪口考えとるじゃろ」

「……」


 はい、とは当然言えず。


 言ったら怒るんだろうなぁ。


「まあええわ。じゃけぇ、その何か胡散臭い物を見るような目は止めろ。俺は至極まっとうな古代竜(エンシェントドラゴン)じゃ」

「はぁ」


 どうしたもんかなぁ。


 俺が困っていると(いやもうエディオンでいいや)が眉をしかめた。


 その右手には強欲のラ・プンツェルが遺したサークレット。


 接触面からシューシュー煙が上がっているのだがエディオンは全く気にした様子もない。地味に肉の焼ける臭いもするのだがそれ本当に大丈夫?


「ん? これが気になるんか?」


 俺があまりにも見ているからかエディオンがサークレットをこちらに差し出してきた。


 悪魔の顔を模したサークレットは本体である強欲のラ・プンツェルが忘却界(リンボ)に送られてしまったからか完全に沈黙している。シューシューやっているのはあくまでも強過ぎる魔力があるせいらしい。まあラ・プンツェルから生み出された物だしね。そのくらい不思議でもないか。


「あのふざけた奴が遺した物じゃが俺は別に要らんけぇ、欲しけりゃやるぞ」

「いや、俺は要らな……」

「お、要らねぇのか?」


 ドンちゃんが飛んできた。


 その顔には「喰いたい!」と書いてある。それはもうはっきりと書いてあった。え、マジで喰えるの?


 俺の左肩に泊まったドンちゃんをエディオンが睨んだ。わぁ、めっさ怖い。


「あん? カラスの癖にこんなもん喰いたいんか?」

「おう、これすっげー美味そうな匂いがするぞ。あいつ、性格は最悪だけど魔力の匂いは良かったからな。これも同じ匂いだ」

「はぁ?」

「え?」


 ドン引きする俺とエディオン。


 あ、他にも何人か引いてる。


 イアナ嬢とかリアさんとかジュークとかニジュウとかアミンとか……シャルロット姫はわかってないみたいだな。


 て、女性陣ほぼ全員じゃん。


 とか俺が思っているとコメントがががが。


「え? 女性の匂いで美味しそう? このカラス変態?」


 イアナ嬢。


 なーんか変な受け取り方してるんだが、ドンちゃんはそういうつもりで言ってるんじゃないと思うぞ。


「ふふっ、わかります。私もシャーリーの匂いは大好きですから。特にベッドの残り香なんてそれはもう……あれだけでご飯三杯はいけます♪」


 リアさん。


 あーうん。


 リアさんはリアさんだからなぁ。


 でもロリの残り香を嗅ぐのは犯罪だと思います。


 この人本体が調整から解放されたらどうなっちゃうんだろ?


 ますますリアさんになっちゃうのかなぁ。すげぇ不安。


「カラスあの一つ目お化けのこと好きだった? うーん、趣味悪っ!」


 ジューク。


 こらこら、他人様の趣味を悪く言うのは止めなさい。


 と言うか「一つ目お化け」て。


「駄目駄目駄目駄目っ、いくら匂いが良くてもお腹壊すから食べちゃ駄目っ! ニジュウも昔マムにいい匂いのするキノコを食べさせてもらったけどお腹壊した」


 ニジュウ。


 そうだな、匂いに騙されたら駄目だよな。


 ……じゃなくて!


 おいおい、マリコーの奴何てことしてるんだよ。


 キノコはやばいだろキノコは!


 たぶん実験のつもりで食わせたんだろうけどキノコはやば過ぎるだろ!


 はぁはぁ……。


「ドンちゃんってそんなに鼻が利くんだ。うわぁ、アミン臭くないよね? いい匂いだよね?」


 アミン。


 こいつの場合、臭いがどうのと言うより直前に食べた物の匂いにまみれていそうなんだよなぁ。


 て、おい。


 俺が何も言ってないのに睨んでくるのは止めろ。


「?」


 こてんと首を傾げるシャルロット姫。可愛い。


 あ、リアさんが鼻血出してぶっ倒れた。


 ……とかやってるうちにドンちゃんが「んじゃ、いただくとするか」と嘴を開く。


「あ」

「あ」


 俺とエディオンが止める間もなくサークレットはキラキラと光の粒子となってドンちゃんの口内へと吸い込まれていく。


 最後の一粒まで飲み込むとドンちゃんはゲップをした。全く品性のないカラスである。


「え、えっと、美味かったか?」

「おう、すっげぇ美味♪」


 俺が尋ねるとドンちゃんが上機嫌に返してきた。


「ナインヘルズにいた頃は俺が縄張りに入る度にラ・ムーから雷撃喰わせてもらったりラ・ブームから爆炎喰わせてもらったりしてたもんだ。あいつらの魔力も美味かったな。縄張り荒らしてたのに気前良く魔力をご馳走してくれるんだからすっげぇいい奴らだって思わないか?」

「……」


 ドンちゃん。


 それ、魔力をご馳走していたんじゃなくて攻撃していたんだと思うよ。


 というか他人様の縄張り荒らしたら駄目でしょ。


 ドンちゃんは「ああ美味かった♪」ととても満足した様子でイチノジョウのところに戻った。


「もうドンちゃんは仕方ないなあ」とイチノジョウが眉をハの字にしている。


 パンちゃんは……あ、また寝てる。


 イチノジョウの右肩にぶら下がっている態勢でよくあんな寝られるなぁ。ある意味凄いよ。


「んーあれじゃな」


 エディオンがイチノジョウに目をやりながら言った。


「あのカラスにせよウサギにせよとんでもねぇ力を持った奴らを従えとるっつーことはあいつ只者じゃねーな」

「そうだな」


 まあ管理者だし。


 少なくとも俺のような普通の冒険者とは違うよな。


「あれか、この森のエリア全体を囲っとる結界はあいつが張ったんか?」

「いや違うはずだぞ。確か300年前の内乱の後で当時の術者が張ったって聞いたが」

「ほうほう」


 エディオンは感心したようにうなずくと俺に尋ねた。


「お前、なーんか知っとる魔力の名残があるのう。ええっと、名前は何じゃったか?」

「ジェイだ。ジェィ・ハミルトン」

「ああ、お前があの……」

「?」

「いや今の無し。忘れてくれや」

「……」


 え。


 何それ、めっちゃ気になるんですけど。


 エディオンが目を細めて「うーむ」と唸っている。


 俺を放っておいて何やら考え事を始めてしまったようだ。


 しばらく戻って来そうもないのでやむを得ず俺はエディオンから離れた。


「なあ、ちょっと聞きたいんだが」

「ん?」


 俺はイチノジョウに声をかけた。


 さて、いろいろ確認するとしますかね。



 **



 イチノジョウには聞いておきたいことが沢山ある。


 俺はこれからする質問のことを考えながら彼に歩み寄った。


 イチノジョウの頭の上に泊まっているドンちゃんがバサリと羽根を広げて威嚇してくる。


「おい、そんな恐い顔しながらこっち来んな」

「……え」


 指摘され、俺はつい足を止めてしまう。


 確かにちょい詳しい話とかも聞くつもりでいたので幾分か気を張っていた。


 でも、それが顔に出ていたとは。


「あ、いや別に俺は……」

「あ? まさか俺様の強さに興味を持って一戦交えたいとかじゃねぇだろうな?」

「……」


 どうしよう。


 用があるのはイチノジョウなのにドンちゃんがやたら反応しちゃってる。


 めんどい。


「イチノジョウ」


 俺が困っているとプーウォルトが駆け寄ってきた。


 めっちゃ怒気を発している。


 黄色い熊の仮面を付けているのに彼の憤怒が丸わかりなくらいお怒りだ。


「貴様なぜあのような真似をした?」

「あのような真似って?」


 イチノジョウの眉がさらにハの字になる。


「僕、何かしたっけ?」

「惚けるなっ!」


 プーウォルトが怒鳴った。めっさうるさい。


 あ、パンちゃんがビクッてなった。


 そして、イチノジョウが自分の両耳を指で塞いでいる。そうだよねうるさいよね。


「ちょっと、もう少し静かにして。パンちゃんが寝てるんだよ」

「そのウサギなどどうでもいいっ。おい、何故シャリをラ・プンツェルとの戦いに巻き込んだ? 彼女はまだ子供なんだぞ」

「それ説明したよね? シャーリーの生まれ変わりにラ・プンツェルを……」

「そういうことを訊いているのではない!」


 プーウォルトが怒りに任せて地面を蹴った。


 ごぼっ!


 してはいけない類の音を轟かせて派手な足跡ができる。もうこれは地面が削れたとかじゃないな。ちょっとしたクレーターだ。


「貴様が子供に危険なことをさせるような奴だとは思わなかったぞ。見損なった」

「えー」


 イチノジョウが不満げに声を上げる。


 ふんっ、と鼻息を一つするとプーウォルトは腕組みしてイチノジョウを睨みつけた。


 文句があるなら言ってみろといった態度だ。


「おいおい、あのガキが怪我した訳でもねーのにそこまで怒るのは違うだろ」


 ドンちゃんがプーウォルトを睨み返す。


「それにあれだ、あのガキには先代の精霊姫が付いていたじゃねぇか。闇の精霊王の寵愛もあるしそうそう滅多なことじゃやられたりしねーぞ」

「そだね。それに他の精霊王全員の守護も受けているしね」

「え」

「はぁ?」


 イチノジョウの言葉に吃驚する俺とプーウォルト。


 いや、ちょい待って。


 シャルロット姫が闇の精霊王(リアさん)の寵愛を受けているっていうのは知ってるよ。


 でもさ……え?


「待て待て、それはどういうことだ。シャリが闇以外の精霊王全員から守護されているだと?」

「うん」


 詰問するプーウォルトにイチノジョウがうなずくと意外そうに首を傾げた。


 おっと、こいつ頭に疑問符並べてやがる。


「あれ、もしかして気づいてなかったとか? さっきの戦い見てたでしょ? 闇だけじゃなく全ての精霊が味方してたじゃん」

「……」

「……」


 プーウォルトが絶句してしまっている。


 俺も何と言ったらいいかわからないよ。


 つーかとんでもないな。


 まさかリアさんの寵愛だけじゃなく他の精霊王全員の守護も受けているとは。


 ま、まあウェンディあたりならわからなくもない。前世で仲良しさんだった訳だし。


 でもさ、それ以外の精霊王からもって……意味わかんねーよ。


「お前らなーにぼけっとしてんだよ」


 シーサイドダックが目を吊り上げながらこっちにやって来た。


古代金流(エンシェントゴールドドラゴン)もぶつぶつ言っているしよぉ。せっかくラ・プンツェルを倒したっつーのにこれじゃ全然落ち着かねぇよ」

「ねぇ」


 アミンも駆け寄ってきた。


「闇の精霊王があの子から離れないんだけど」


 アミンの指差す方を見るとリアさんがシャルロット姫をお姫様抱っこしていた。


 また妖しげな魔法(能力かも)を使ったのかシャルロット姫はリアさんの腕の中で眠っている。


 わぁ、リアさんのあの幸せそうな顔。本当にシャーリー(転生後も含む)のことが大好きなんだね。


 それをふわふわ宙に浮かびながら眺めているウェンディが嬉しそうに微笑んでいるよ。


 その頭の上にポゥがいるけどあいつちょっと自分より上位の存在に慣れすぎてないか?


 以前ならビビって震えていただろうに。


「……」


 て、うぉい!


「ウェンディ、何でお前までいるんだよ」

「は? 僕がどこにいようと勝手でしょ」


 俺がつっこむと即で反撃された。何故だ。


「てゆーか、強欲のラ・プンツェルと決着をつけるんなら僕も呼んでよね。僕だってシャーリーの仇を討ちたかったのに。どうして除け者にするかなぁ」


 びゅんと飛んで俺に詰め寄ってくる水の精霊王。


 可愛い顔がむっちゃ恐くなってます。


 なお、ポゥはウェンディの頭の上から緊急離脱している。現在は俺たちの頭上を旋回中。


「いや、そんなのいちいち誘ってられないし」

「ええっ、酷っ! 酷っ酷っ酷っひどぉーっ」


 抗議の声がやたらエコーかかってるし。何なのこいつ。


 あ、そうですね。精霊王でしたね。


「まあまあ、どうせこっちに来てもルールで参戦できなかったんだしそんなに怒ることないでしょ」

「むう」


 宥めているのか煽っているのかよくわからないイチノジョウ。


 口をへの字にするウェンディ。


 て。


 おい、その頭上で形成されている水球は何だ。


 まさかそれを俺にぶつけるつもりじゃないだろうな。


「おおっ、それ美味そうだな。俺様腹が減ってたんだ。喰っていいか?」


 ドンちゃんが目をキラキラさせた。


 あ、ウェンディが露骨に嫌そうな顔してる。


「……」


 しゅるるるるるって擬音が鳴りそうな勢いで水球が萎んで消えた。


 こいつ、何をしたかったんだか。


 そして「ああっ、俺様のおやつっ」とがっかりするドンちゃん。


 ちょいうなだれて。


「ジョウ、おやつくれ」

「はいはい」


 イチノジョウが右手人差し指を差し出すとドンちゃんがその指にぱくついた。


「♪」


 イチノジョウの指から魔力(おやつ)を摂取するドンちゃん。


 それを横目にプーウォルトがウェンディに質問した。


「闇以外の全ての精霊王がシャリ……シャルロット姫を守護しているそうだが?」

「ああ、それね」


 ウェンディが目を逸らした。


「本来なら僕たち精霊王全員であの子を寵愛するところなんだけどリアがねぇ……下手に寵愛授与を強行すると全面戦争になりかねないから守護までにしておくことにしたんだよ」

「む、確かに無理をすれば危ういかもしれぬな」

「まあ、リアだしねぇ」

「あいつは全くろくでもねぇな」


 プーウォルトとウェンディが揃ってため息をつくとシーサイドダックが毒づいた。


 イチノジョウが何かに気づいたのかキョロキョロとあたりを見回す。


「勇者がいないんだけど。あと、聖女とちびっ子たちもいなくなってる」

「ああ、あいつらは強制的に亜空間に送ってやった」


 シーサイドダック。


 半笑いである。


「なーんかよぉ、対ラ・プンツェル戦での活躍がイマイチだったとかでウチに女神様の指示がきたんだよ。なんで速攻放り込んでやった」

「……」


 あ、イチノジョウが固まった。


 プーウォルトが額に手を当てる。


「そ、その何だ。そもそもあのミジンコどもは訓練のためにこの森に来たのだからな。ある意味本来の状況になったと考えるべきか」

「亡者のステージに送った聖女の姉ちゃんはアンデッドコボルトがどうのと喚いていたけどよぉ、んなもんウチには知ったこっちゃねぇからな無視してポイだポイ」

「……」


 イアナ嬢。


 きっとまたあの「浄化できないアンデッドコボルト」に付き纏われているんだろうなぁ。


 俺は会ったことないけど。別のステージにいたしね。


 ま、頑張れ。


 あと、せっかくだからプーウォルトたちに訊いておこう。


「ラ・プンツェルを倒したってことはもうあんたたちがこの森に留まる理由はないんだろ? これからどうするんだ?」

「どうするもこうするもウチらの居場所はここだぜ。このままここにいるに決まってるだろ」


 シーサイドダック。


 けど、こいつどっか出かけたりしてるんじゃ……あ、うん、つっこまないでおこう。めんどいし。


「う、うむ。それにこの森に封じられているのはラ・プンツェルだけではないからな。本官たちはそちらにも目を光らせておかねばならん」


 プーウォルト。


 アミンがポンと手を打った。


「あ、もしかしてウサミンたちが感じていた強い魔力の反応ってそっちだったり? アミン、ずうっとラ・プンツェルのことだと思っていたんだけど」

「どうかな。ウチらにはラ・プンツェルもあいつもそう大して変わらねぇぞ。まあ強いて言えばラ・プンツェルは内乱を起こした元凶(歴史的にはマンディの父親グーフィーが首謀者とされている)でもう一方は他所からこの国を滅ぼしに来た侵略者って感じでウチの印象としては後者の方が厄介だったんだけどな。マジもんの魔王級だったし」

「侵略者?」


 俺が眉を顰めるとイチノジョウが復活した。


「あ、それまだ話題にしちゃ駄目。劇場版の敵なんだから」

「劇場版?」


 何だそりゃ?



 **



 強欲のラ・プンツェルとの戦いから一週間が経った。


 俺たちは当初の目的通りプーウォルトたちの訓練を受けており今日もそれぞれのステージで鍛錬を積んでいた。


 俺も浮島のステージで竜人やブルーワイヴァーンを相手に空中戦や対集団戦の訓練を受けている。


 魔法や能力の発動制限(人間は同時に二つまでしか使えない)が無くなった俺は飛翔の能力で空を飛びながらダーティワークを発現させてマジックパンチを撃ちつつサウザンドナックルで攻撃する、といった戦い方が可能になったのでより自由度の高い戦法を採ることができた。戦いの中で手数が増えるのは俺としてはとても有難いことだ。それだけ状況に応じて対処することができるからな。


 とは言え、やはりこれってより一層常人離れしてきているってことになるんじゃないか?


 俺、まだ自分のこと人間だと言っていいんだよな?


 お嬢様、いいんですよね?



 *



 夜。


 キャンプ地の広場でテーブルの席についてぼんやり夜空を眺めているとイアナ嬢がやって来た。


 当たり前のように俺の隣に腰を下ろす。


「強欲のラ・プンツェルの一件からもう一週間経つのね。一週間なんてあっという間ね」

「そうだな」


 ちなみにテーブルの上には俺の収納から出したエールのコップが一つ置かれている。


 イアナ嬢がウィル教の僧服の袖口から大皿とコップを出した。


 大皿にはバタークッキーの山、コップには湯気の立つ紅茶が注がれている。


 ごく自然な動きでイアナ嬢がバタークッキーの大食いを始めた。凄い速さでバタークッキーが消費されていく。


 一つの山をクリアしたイアナ嬢は袖口からバタークッキーを出して山を聳えさせるとまた食べ始めた。


 食べながら俺に声をかけてくる。


「この国って結構闇が深いわよね」

「ん? 何だ唐突に」

「だってそうでしょ、あたしこの森のことなんて知らなかったし獣人の国を滅ぼしていたことも知らなかったもの。グランデ家の家庭教師や教会で先輩僧侶から勉強は教わっていたけど、そういう過去の出来事を学んだ憶えはないわ」

「まあこの国にとっては不都合なことだからな。そりゃ特殊結界を張ってでも隠しておきたいだろうしそういった過去をなかったことにしておきたくもなるだろ」


 愉快な話ではないがな。


「でもきっと誰かは隠してある過去に気づくんじゃない? プーニキ教官が言っていたけどラ・プンツェルを倒したことで特殊結界が緩くなってるそうよ。だからこれから森の出入りも増えるみたい」

「ん? 確かこの森にはラ・プンツェルとは別に封印されてる奴がいるんじゃないか? 大丈夫なのか?」


 イチノジョウが言ってた「劇場版の敵」ってのがいたはずだ。


 俺が「劇場版って何だ?」て質問したらはぐらかされたけど。


 ただ、小声で「あのゲーム何故か携帯会社のCMに起用されてその後映画化してるんだよね。劇場版ときファン制作委員会とか立ち上がっていたし……僕もあのCM結構気に入っていたし映画化も歓迎したけどさあ、ちょっとあのメディア展開がねぇ。どうせならテレビアニメ化を先にして欲しかったなぁ」てぼやきだか何だかよくわからないことを口にしていたんだよな。


 意味不明過ぎて逆に耳に残っちゃったよ。


 詳しく訊こうにもあの後すぐにいなくなっちゃうし。


 まあ、イチノジョウたちはあくまで助っ人として来ていたんだから用が済んだら帰っても仕方ないんだよね。それは理解しているんだけど……うーん。


 いくつか謎が放置されてるよなぁ。


 それと……。


「おっ、お前らも月見か? 風情の欠片もなさそうなのに案外風流なんじゃのう」


 アロハシャツを着た金髪の男の姿をした古代金竜(エンシェントゴールドドラゴン)が向こうから現れて俺たちの反対側に座る。喋り方がちょいアレなのに動きはとても洗練されています。何かムカつく。


「エディオンはいつまでここに居るんだ?」


 できればさっさと帰って欲しいと願いながら俺は訊いた。


 一応相手は俺より何億倍も格上の存在なので敬語を使うべきなのかもしれない。


 だがどうにも胡散臭い奴だしラキアと話をしている感覚に近いものがあるので早々に俺は敬語を使うのを止めていた。


 エディオンがバタークッキーに手を伸ばした。イアナ嬢にまだ薦められてもいないのにむっちゃ自然な動作だ。


「そりゃ、お前らの特訓とやらを見飽きたら帰るぞ。じゃけぇ、なかなかに面白いけぇそう簡単には帰れそうもないのう」

「……」


 いや早く帰れよ。


 あんたみたいなのがいたら気が散るだろうが。


「それにできればアミンの奴も連れて帰りたいしのう。あいつはずっと一緒じゃった二人を失って一人になってしもうたけぇ、心のケアをしてやらんといかん。俺の浮島なら静かじゃけぇあいつもゆっくり静養できるじゃろう」

「そうか」


 アミンは俺たちと異なり、プーウォルトの訓練を受けるためにこの森に来た訳ではない。


 内乱の一見があってリアさんやウェンディから逃げていただけだし、、マリコーのメメント・モリ大実験絡みで雇われさえしなければ最初に身を隠していたエディオンの浮島にいたままのはずだったのだ。


 エディオンがアミンを連れて帰るというならそれもアリなのかもしれない。まあ彼女がそれを良しとすれば、ではあるが。


「きっとシャルロット姫は残念がるでしょうね」


 イアナ嬢。


 大皿に盛られた山が大分小さくなっていたからか彼女は僧服の袖口からバタークッキーを追加した。


 バタークッキーの山が再び聳え立つ。おいおい。


 そして、じっとテーブルの上を見ていたエディオンの分の紅茶もそっと用意。こいつ準備がいいな。イアナ嬢の癖に。


 とか思っていたら足を踏まれた。痛い。


「おう、催促しちまったみたいで悪いな」


 エディオンが口角を上げる。


 二人がかりでバタークッキーの山が攻略され始めた。


 しかし、半分ほど山が崩れると追加されて山がその形を取り戻すため地味にエンドレスになっている。


 てか、おいイアナ嬢。


 お前、どんだけ食うつもりだよ。


 エディオンの方が先にペースを落としているじゃねぇか。


 古代金竜(エンシェントゴールドドラゴン)より大食いなのかよ。


 また変な称号が付くぞ。


「聖女の嬢ちゃん、えらく食うのう」

「そこに美味しい物があればあたしは食べますよ。それが作ってくれた人への礼儀ですから」

「ほう、それはええ心がけじゃのう」


 妙に感心した様子でエディオンがうなずいているけど俺は騙されないぞ。


 イアナ嬢、お前単に食い意地が張ってるだけだろ。


 なぁーにが「作ってくれた人への礼儀」だよ。


 だったら好き嫌いなく食えよ。


 俺は知ってるんだぞ。


 お前、クサ豆(ラッキョウみたいな匂いがする)が入ってると食べ残すだろ。


 つーかシュナの皿にこっそり移してたよな。あれバレてるぞ。



 *



 大皿のバタークッキーの山が残り数枚になった頃、エディオンが俺に話しかけてきた。


「お前のその腕輪、どえらい魔力を帯びておるのう。どこで手に入れたんじゃ?」

「これか?」


 別に隠すことでもない。


 つーか俺とお嬢様の大切な思い出の腕輪だ。


 俺は見せびらかすようにマジンガの腕輪をかざした。


「これは俺のお嬢様から貰った物だ。どうだ、いいだろ?」

「……」

「……」


 苦笑するエディオンと頬をひくつかせるイアナ嬢。


 あれ?


 反応が俺の思っていたのと違うぞ。


 なぜ羨ましがらない?


 お嬢様からのプレゼントなんだぞ。


 羨ましがれよ。


 お嬢様に大して失礼だろ(*意味不明)。


「ええっと」


 イアナ嬢がこめかみを指で揉みながら言った。


「左腕のはともかく右腕のは確かシスター仮面一号さんからもらったんじゃなかったの? あたしそうあんたから聞いたんだけど」

「……あ」


 やべっ、そういやそうだった。


 お嬢様が正体隠したかったみたいだからマジンガの腕輪(R)はシスター仮面一号がくれたってことにしてたんだよな。


 イアナ嬢の目つきが鋭くなる。


「ジェイ、どういうことかちゃんと説明してくれるわよね?」

「あ、いや、その」

「何じゃ、お前こんな可愛い娘がおるのに別の女とよろしくやっとるんか。けしからん奴じゃのう」


 エディオンの目つきも鋭くなる。


 わぁ、これどうしよう。


 お嬢様のこと話したら切り抜けられそうだけどそれはまずいよなぁ。


 うーん。




『説明しましょう』



 突然、天の声が聞こえてきた。



『ジェイさんのその右腕の腕輪はシスターエミリアさんが職人さんに作ってもらった物なのです。それをシスター仮面一号さんに代わりに渡して欲しいと頼みました。なお、シスター仮面一号さんが持っている間に不思議パワーが腕輪に宿ってしまったようですよ』



「はい?」

「へぇ、そうなんだ」

「不思議パワーか。世の中にはおかしなことが起こるもんじゃのう」


 俺、イアナ嬢、そしてエディオン。


 おいおい、こんな説明でイアナ嬢とエディオンが納得するのかよ。


 あれか、何かご都合主義的な力が働いているのか?


「まあそういうことならいいわ。それにしてもシスター仮面ってノーゼアにも姿を現すのね。活動範囲広くない?」

「……」


 イアナ嬢。


 もうちょいおかしいなぁとか思えよ。


 つーかこいつ大丈夫か。


 詐欺とかに引っかからないだろうな。


 うーん、心配になってきた。



 そんな感じで夜は更け、新しい朝を迎える。


 俺たちの訓練はまだまだ続くのだった。


 もちろん、イアナ嬢がアンデッドコボルト(浄化不可)に付き纏われる日々も続くのでした(ちゃんちゃん)。

 

 

 


 今回のお話で第4章は終了です。


 ここまでお読みいただきありがとうございました。

 

 

 


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