49. アーニャからの手紙
玄関がアーニャはどうしているのかなぁと思っていたら、そのアーニャから手紙が届いた。
玄関は3人に集合命令を出して、いつもの海が見える石垣に集まった。
3人が石垣に座り、玄関がその前に立って、アーニャからの手紙を読み始めた。地中海の心地よい風が、玄関の髪を揺らしている。
「げんかん、げんきか。こっちはみんな、げんきだ。
げんかんがいなくて、さみしい。でも、だいじょうぶだ。
この間、となりの国から、だい二おうじでんかがやってきた。
とてもやさしい人で、みんな、すきになった。
茶を出したら、しょうがとはちみつのはいったものがのみたいと言ったので、
みんなでおどろいた。げんかんがおしえたと知って、みんなでわらった。
げんかんが本がよめるようになったこと、字がかけるようになったことをきいた。うれしい。
でんかはたくさんのじゅうたんをちゅうもんしてくれた。みんな、よろこんだ。
海の見えるところにきゅうでんをたてるから、たくさんひつようなんだ。
きらきらのじゅうたんではなく、海にあう色がいいといった。むずかしい。
おやかたが色のことをまいにち考えている。
ラティハはせんせいになるがっこうにいく。ラティハがけっこんするか、せんせいになったら、わしはげんかんのいる島にいく。
さんぽとじしんもいくといっている。まっていてくれ」
うれしい、と玄関が両手を合わせた。
「よかったな、また会えるんだな」
3人の少年が玄関の頭をぽんぽんとした。
「アーニャはわたしのお母さんみたいな人なのよ。みんなのお母さんにもなってくれるよ」
ええっ。
「ぼく達にも、お母さんができるの?」
「おれに母さんが……、そんなこと、考えてもみなかったから」
とサナシスが眉をしかめた。
考えてみなかったから……、玄関が次の言葉を待った。
「おれ、うれしい。ずっと、母さんがほしかったんだ」
みんなが手を叩いて、喜んだ。
「第二王子はハミルのために海に宮殿を建てると言っていたけど。ハミルがいなくなっても諦めないで、宮殿を建てることにしたんだね。どんな建物になるのだろうか」
「きっと世界のどこにもないような建物だよ。ルシアンは高尚な目をもっているから」
ハミルが懐かしそうな顔をした。
「わたしも、そう思う。第二王子は特別に趣味がいいもの。ハミル、いつかその宮殿を見に行こうか」
「いいね。行く時は、みんなで行こうよ」
「そのルシアンっていう王子、宮殿を建てるくらい、そんなにハミルのことが好きだったのか」
サナシスが土を蹴りながら、下を向いてぼそっと言った。
玄関がサナシスの背中を叩いた。
「わたしね、王子にプロポーズされたんだよ」
「玄関は、王子にもプロボーズされたのかい」
今度はジャミルが驚いた。
「そうなの。わたして、けっこうもてるのよね。王子だけじゃなくて、ジュマ村でも申し込まれたし、でも、心配ないってば。わたしは、ジャミル一筋だから」
玄関が胸をはった。
「馬鹿だね」
とハミルが笑った。
「どうして」
「そういうことは、人前で言うもんじゃないだろ」
「どうしてよ?」
玄関が口を尖らせた。
「だって、ジャミルが赤くなってる」
「別に言っても、いいよ」
とジャミルががんばった。
「ほら、ジャミルがこう言ってる。ハミルだって、誰かさんに一筋なんじゃなくて。言えば」
「だれ?」
サナシスが心配そうに顔を覗き込んだ。
「だれだろうか」
とハミルがうそぶいた。
「やさしそうに見えるけど、一番強情で、わが道を行くよね、ハミルは」
と玄関が言った。
「そうなんだよな」
サナシスの表情がちょっと沈んだ。
「サナシス」
ハミルが海の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
「なに」
「この村に平和が戻ったら、旅に行くと言ったよね」
「うん。おれは世界中の国や人々を見てみたいんだ。ハミルは考え中なんだろ」
「とっくに決めてたよ。ぼくも一緒に行くって」
大きく頷いたサナシスの笑顔に、夕陽が注いだ。
海の真ん中には光の廊下が伸び、金色の絨毯が敷かれているように見えた。




