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48. 玄関の出生

 エリクトニオスがすみやかに島を出ていったことを知らされると、予想外の解決の早さに、女神アテナは思わずうなった。

 女神はこれまで他の国とうまくやるには力で戦うか、和平交渉のふたつ。交渉というのは主に金で解決するかものだと思っていた。

 しかし、これからはもっと情報を集め、策略を練り、頭を使って交渉しなければならないのだと思った。

 

 女神は4人に島の復興に力を貸してほしいと頼んだ。

「もちろんです」

 とサナシスが答えた。「あそこはおれたちが生まれて育った故郷です。昔のように美しい島に戻したい」 


 サナシスは主に道の整備をすることになった。

 海賊の間ではサナシスは出世頭だから、仲間が喜んで資材を運ぶことを申し出た。


 ハミルはルシアン王子に手紙を書いて、マルキおじさんに庭のオリーブの苗木と種を運んでくれるように頼んだ。

 おいしい実がなるまでには種なら10年、苗なら3年ほどかかるが、女神のパワーを借りたらもっとと早く実ることだろう。


ジャミルは飼い主がいなくなって島中に散らばってしまった山羊や羊を集め、世話を始めた。

「すっかり弱ってしまった山羊や、病気の羊がいるから、薬が必要だ」

「ぼくが王子に頼んで、送ってもらおう」


 玄関はジュマ村から散歩とセレザールを招きたいが、工房の事情もあるから、すぐには無理だろう。

 いつか来ることができたら、散歩は子供達に絨毯の織り方を教え、セレザールは図書館を再建し、世界中の本を集めることだろう。


「この島が平和な姿に戻ったら、おれは旅に出ようと思っているんだ」

 とサナシスが言った。「今までは海から眺めていただけだから、今度は広い陸地の中を旅してみたい。想像もしないようなものがあるんだろうな」


「誰か一緒に来ないか」

「ぼくは王宮の中しか知らないから、広い世界を、自由に所を旅できたらいいだろうな」

「ハミル、来てくれるのか」

「考え中。サナシスが文無しになったら、笛でも吹いて、稼いでやってもいいし」


「すごくいいね、そのアイデア。わたしもゴーシャン王国では、縫物で稼いだことがあったわ」

「玄関も来るかい」

「うーん、行きたいけど」

 「ジャミルはどうする?旅に行く?」

 玄関がジャミルを見た。


「ぼくはこの島にいて、山羊を育てたい」

 ジャミルは長い間市場で飴を作りながらエヴァを待っていたので、今は山羊を追いかけて、島を駆け回りたい。

「玄関はどうする?旅に出たい?」

「わたしも羊飼いに戻りたい」

 玄関は羊飼いに戻り、ジャミルのそばで暮したい。


「わたしには、病気の父さんもいるし」

 玄関が洞窟に迎えに行った時、父さんはすっかり身体を壊してしまっていた。でも、生きていてくれた。 洞窟に迎えに行った時、玄関は父親に言った。


「父さん、がんばって生きていてくれて、ありがとう」

「エヴァこそ、生きていたんだね。元気だったのかい」

 ぼろぼろの服を着た父さんは娘を両手に抱いて、おいおいと泣いた。もともと言葉の少なく、感情の出さない人だったので、泣いた姿は初めて見た。


「エヴァ、心配していた。つらいことはなかったかい」

「大丈夫だったよ。わたし、絨毯の織り方を習ったし、裁縫もできる。父さんに新しい服を縫ってあげるから」

「うれしいねぇ。ありがたいねぇ」


「父さん、早くよくなって。また一緒に羊飼いをしようよ」

「エヴァの顔を見たら、元気がでてきたよ。エヴァは苦労したんだろうね」

「大丈夫だって。それより、たくさんのいい人に出会って、いろんなことを教えてもらって、幸せだったよ」

「それは、よかった。父さんは毎日、エヴァの無事と幸せを祈っていたんだよ。島のみんなもそうだよ」

「そのみんなの祈りが通じたから、元気でいられた。ありがとう」


 玄関は家をきれいに掃除して、台所でスープを作った。

「父さん、訊きたいことがあるの。わたしはジュマ村では工房の玄関に捨てられていたから、玄関という名前で呼ばれていたんだけど、ここでは、エヴァンネリ。この名前は父さんがつけてくれたの?」

「いいや。その名前は最初からついていたんだ」

「最初からって、わたしはどこに捨てられていたの?」


「エヴァは舟に乗ってやってきたんだよ」

「わたしはこの島で生まれたのではなくて、海の向こうからやって来たの?」

「そうだよ。いつか見せようと思っていたんだ」

 父さんが引き出しの一番下から、紙に包まれたものを大切そうに取り出して玄関に渡した。


「これは、なぁに?」

 玄関が紙の包みをていねいにひらくと、そこには豪華な刺繍のついた絹の産着がはいっていた。

「これ、わたしの?」

 玄関はそれを手に取って眺めたり、触ったりして、その刺繍の出来栄えに目を見張らせた。


「すごい職人技。その匠に会って教えていただきたい。父さん、これはいったい誰が作ったの?」

「誰なのだろうか」

「最高級の絹に、こんな豪華な刺繍。わたしって、だれ? もしかして、金持ちの子なの?」

「きっとそうだ」

 と父親が笑った。


「でも、金持ちの親が、どうして子供を捨てたりするのかしら」

「わからない。父さんと母さんは子供がほしかったけど、できなかった。それで、子供をさずかりますようにと海辺で祈り続けていたら、ある日、女神アテナが、この子はエヴァンネリだと言って下された」

「あの女神が、わたしを?」

「そうだよ。エヴァは特別な子供だから、大切に育てよと言われたんだよ」


「わたしが特別な子なの?」

「そうだよ。それは言われなくてもエヴァが特別だというのはわかってたよ。父さんも母さんもとても喜んで、エヴァを大切に育てたけど、母さんはすぐに亡くなってしまった。だから、父さんがひとりで育てることになったけど、エヴァのほうが父さんを助けてくれたよ。エヴァがいなかったら、生きてこられなかった。ありがとう」

「父さん、お礼を言うべきなのはわたしです。育ててくれて、ありがとうございます」


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