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45. ベルセポネもアドニスが好き

アレスはゼウスと正妻ヘラとの嫡男で、体格もよく、そのルックスはアポロンに勝るとも劣らないと言われているほどの美男神である。

 血筋も、容姿も抜群なら、どれほどの人気があるかと思われるだろうが、オリンパスの神々の中で、人気度は最低である。

 

 父親のゼウスからは「どうしようもない」と見限られている。

 その嫌われている理由というのが、その性格の悪さからきている。本当にもったいない。

  アレスは暴力、残虐、破壊、人を困らせることが何より好きなのだ。「軍神」と呼ばれているが、「戦いの女神」アテナと違うところは、アレスは何かのために戦うのではなく、ただ暴れたくて戦うのだ。


 そんな彼の味方をしてくれる神がふたりだけいた。そのひとりが美の女神アプロディーテだった。

 人間の世界でも、どんな男でも手にはいる美貌で聡明な女性が、変な男を掴んだりするのだが、アプロディーテは悪い奴に魅力を感じるのだった。

 

 もうひとり、アレスを重宝したのは冥界の神ハデスである。

  ハデスはゼウスの兄で、地下に住んでいる。

 世界は、ゼウスが地上を、ハデスが地下を、もうひとりの兄ポセイドンが海を支配、つまり3兄弟で世界を支配しているのである。

 ハデスが性格の悪いアレスを好意にしているのは、アレスが冥途にたくさんの死者を送ってくるからなのだった。 


 アプロディーテには夫もアレスという愛人もいるのだが、森の中で美しいアドニスを見かけたとたん、恋の魔術にかかってしまった。すべてが楽しくて、すべてが悲しく思える少女のような恋だった。


 キューピットの矢が間違って当たったという人もいるが、そこはわからない。

 アプロディーテはアドニスに夢中になり、彼のことしか頭にない。

 

 アデニスのことが一時も忘れられず、愛に行くとすでに別れが辛く、別れるとまたすぐに会いたくなり、熱病にかかったかのようなのだった。アプロディーテは毎日毎日、憑かれたようにして森に通ってきた。


 そんなある日、ハデスの妻ペルセポネが森にやってきた。

  ペルセポネは「春の女神」で、アテナのように処女神として生きようと思っていたのに、冥界の神ハデスに誘拐されて、妻にされてしまった人である。この結婚にも愛がなかった。


 ペルセポネも美しい少年アドニスを見て、たちまち恋に落ちてしまった。ああ、なんて清らかで美しい少年なのだろう。美少年アドニスはおばさんキラー、いや女神キラーなのだった。


 というわけで、アプロディーテとペルセポネがアドニスをめぐって揉めたのだ。両女神とも一歩も譲らないから、最高神ゼウスに決めてもらうことにした。


 ゼウスは女神の戦いはおそろしいと思った。

 なんとか知恵を絞り出して、1年を3つに分けて、アドニスは春はアプロディーテのところで、冬はペルセポネのところで暮らし、残りの3分の1は好きに使うがよいだろう、という決断を下したのだった。


 その決定に従って、アプロディーテがアドニスと暮らしていたその春、女神に用事があって出かけなければならなくなった。


「出かけている間、イノシシには気をつけてね」

 アプロディーテはしつこいくらいに言った。

「大丈夫だから」

 とアドニスが答えた。


 その頃、アレスはアプロディーテの心が離れているのを感じ、その原因がアドニスにあるとことを突き止めていた。

 それで、ストーカー行為をしていて、アプロディーテが森を出た時に、アレスは大きなイノシシを送った。

  イノシシはアドニスを追い回し、その牙でアドニスの腹を突いたのだった。

  アプロディーテが森に戻って来た時、アドニスは血を流して倒れており、抱き上げるとすでに命が尽きていたのだ。


 アレスは嫉妬深い男で、今度はアプロディーテがサナシスに気があると察知して、海賊船を襲ってくるようになった。

 しかし、アレスは戦略的ではなく、ただやたらと力づくで戦うタイプなのだ。だから、経験のある海賊のほうが何枚も上手で、アレスはそのたびに逃げ帰った。


 ある時、サナシスは差し向かいで戦うことになり、アレスの腹に傷を負わせた。アレスは大ほら吹きだが、痛みにはめっぽう弱く、その叫び声は地中海に鳴り響いた。

 その戦いの話を聞いた女神アテナが、アレスに怪我をさせたサナシスに目をつけ、護衛に雇いたいと思ったのだった。


 それ以後、サナシスはアテナイの宮殿では護衛のひとりとして働いていたが、17歳になった時、側近に昇格したのだった。


   

               *



「ふたりの女神が、どうしてアドニスを好きになったのだろうか」

 とジャミルがサナシスに訊いた。

「わからない」

「ただ美しいというだけで、そんなに好きになれるものだろうか。アドニスって、どんな性格だったのだろうか」

 

「おれが見たアプロディーテは、アドニスのことを思って、はらはらと涙を流していた。本当に、アドニスを愛していたのだと思った。なぜ女神は、親子ほど年の離れた少年を、あれほど愛したのだろうか」

 とサナシスが言った。

 3人の少年には女性の心がさっぱりわからない。


「わたしはこう思うわ」

 玄関が裁縫の手を休めて言ったので、少年たちはそちらに注目した。


「アドニスは若さの象徴ではなかったのかしら。ふたりの女神は失われていく若さに恋をしていたのではないかしら」

 

 少年たちは驚いて、顔を合わせた。

 ああ、そういうことなのか。


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