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3. 月夜の美少年

その夜は門番小屋のすみっこで寝せてもらえることになったが。小屋は狭すぎる。ゲンカンはエビのようになって寝ていたが、途中で身体を伸ばすために、門の外に出てみた。


 人々が眠っている都は静かで、誰も歩いていない通りは広く見える。

 ゲンカンは塀に寄りかかって薄い月を見ていたら、いつの間にか眠ってしまったようだ。


 ゴトゴトという馬車の音が聞こえたので、ゲンカンは片目を開けた。馬車が門の前で止まったので、今度は両目をあけてみた。

 すると、扉をそろりとあけて、白っぽい衣を着た人が下りてきた。

 長髪をなびかせたその人は美しい西洋系の顔をしていて、まだ少年だ。


 彼はゲンカンを見て、

「エヴァンネリか」と呟くように言った。


 そして、その女神のように美しい顔をそっと近づけた。なんだか嗅いだこともない高級な甘い匂いがした。


「えっ。何ですか、エヴァ……」

 ゲンカンは彼の発した言葉が何語なのかもわからなかった。


「きみの名前は」

「ゲンカン」

「男なのか」

「そうだ。おれは男だ」


 その時、馬車の中から、見るからに高貴そうな年上の男性が静かに出てきた。

「どうしたんだい?」

 彼がやさしい声で訊いた。

「人違いでした」

 そうか。そうだろうと年上の貴人が頷いた。


「ハミルが友達かもしれないなんて言うから、驚いたよ」

 年上のほうが長髪の少年の背中にやさしく手を添えて、馬車に戻った。経験したことのない不思議な雰囲気である。


 といっても、ゲンカンにとっては、世の中はまだ経験したことのないことばかりだ。


 ハミル、ハミル……、

 ゲンカンが眉をしかめた。


 その名前はどこかで聞いたことがあるような気がする。


 馬車が宮廷にはいっていくと、マルキおじさんがあわてて駆け寄った。

「大丈夫だったか」

「はい」

 マルキおじさんは、第二王子のところの美少年を見るのは初めてなのだと言って驚いていた。


「ここには、たくさんの王子がいるんですか」

「3人おられる」


 王宮には、国王、第一王妃、次の国王の王太子、王太子の王妃、国王の第二王妃、第三王妃、国王の第二王子、第三王子が住んでいて、8つの宮殿がある。

 東の門からはいるとそこが厩舎で、その奥が第三王子の宮殿。さらにその奥が第二王子の宮殿。


「これまで、第二王子の宮殿には近づいてはだめだぞと言われているんだ」

 マルキの声が小さくなった。


「どうしてだ」

「あそこには白い幽霊が住んでいて、夜になると、時々出るんだ」

「幽霊って、おばけか」

「そんなもんだ」


「幽霊は人間を食うのか」

「腹がすいていたら、食うかもしれない。おまえは大丈夫だろう」

「どしてだ」

「骨ばかりで、食べるところがない」


「おじさんは、その幽霊を見たのか」

「見てはいないけど、笛の音を聞いたことがある」

「幽霊が笛を吹くのか」

「おれは聞いたさ。なんとも悲しい音色でな、幽霊でなければあんな切ない音はだせん。もしかしたら、あの笛を吹いていたのは、今夜のあの少年だったのかもしれない。彼はおまえに何って言ったんだ」


「エヴァンなんとか、さっぱり意味がわからん。名前を聞かれたから、ゲンカンと言ったら、帰っていった」

「おまえ、ゲンカンというのか」

「そうだ。家の玄関のゲンカンだ」

「変な名前だな。親がつけたのか」

「工房の親方がつけた。玄関で拾われたから、ゲンカンだ」

「単純すぎるだろ。センスのない親方だ」


「織子がたくさんいるから、親方は名前が覚えられのじゃ」

「ポンコツか」

「親方は絨毯ことは詳しいが、人の名前がだめなんじゃ。だから、覚えやすい名前をつける。名前は自分じゃ、つけられないから、仕方ない」

「それはそうだ」


「この名前、前はきらいだったけど、今は好きだ」

「どしてだ」

「それは秘密だ」

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