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28. 少年達の裁判の記録 1

サナシスとハミルが風紀ルールを犯したかどうかという裁判で、茶色のフクロウが証言席に立った、


「ぺちゃぺちゃする音を聴いて飛んでいくと、少年ふたりが顔をくっつけてなめていたんです。それから、ふたりはキスをしたんです」

 茶色のフクロウは調書と同じ証言をした。


 サナシスは下を向いて両手で顔を覆い、ハミルはふくろうをきっと睨んでいた。


 傍聴席にいた大人たちは、サナシスもハミルも、これではフクロウに変えられてしまうだろうと表情を曇らせていた。


 いよいよ弁護側の証人尋問が始まった。


「その行為が行われていたという場所はどこですか。海の近くですか」

 

これが、エヴァンネリの最初の質問だった。

  

「波のすぐ近くではないので、波の音と間違えることはないです。フクロウは人間より、何倍も耳がよいので聞こえるのですから」

 フクロウは堂々と答えた。


「証人は余計なことは言わないで、質問されたことにだけ答えてください」


「……わ、わかりました」


「では、もう一度。はい、か、いいえ、で答えてください。その行為が行われていたのは、海の近くですか」


「はい」

 

 傍聴席の島民は、エヴァンネリが裁判というもののやり方を知っているのかもしれないと思った。 


「あなたは、ふたりがキスをしているところをその目で確かに見たのですか」


「それは唇と唇でキス、という意味ですか」


「そうですが、どうしてそんなことをわざわざ確認するのですか」


「いや、ちょっと」


「頬にチュッと挨拶をするくらいでは、風紀ルールには反したことになりますか」


「いや、あのう」


「その状況をもっと詳しく説明してください」

 

「色の黒いほうは後ろを向いていて、その前に白いほうの顔があり、こちらを向いていました」


「こちらとは、証人、つまりあなたのほうという意味ですね」


「そうです」


「続けてください」


「ふたりの背丈は同じくらいで、ふたつの顔が重なっていましたから、キスをしていたと考えられます」


「黒いほうはサナシスで、白いほうがハミルということですね」


「そうです。白いほうが、顔が濡れていたほうです」


「顔が重なって見えたからキスをしていたというのはどうなのでしょうか。それは、あなたの憶測か妄想ではありませんか。変な本とか読み過ぎていませんか」


「オブジェクション」

 異議あり、と検察側が言った。


「弁護人は証人を脅迫しています」


「質問を変えなさい」

 裁判長が低い声で言った。


「では質問を変えます」

 弁護人が咳をした。


「その日は風が強かったですか」


「強いというほどではありません」


「全然なかったですか」


「少しはありました」


「少しは砂が飛ぶ程度ですか」


「ビュービュー飛んではいませんでしたが、無風ではなかったです。強風だとフクロウは飛べませんから。少しだけ飛びにくい感じがしました。でも、私は任務を果たすために行ったんです」


「そうですか。フクロウさんは責任感が強い方ですね。任務、ご苦労さまです」


「当然の役目をはたしているだけです」


「その日は、フクロウさんがちょっと飛びにくいくらいの風だったのですね」


「はい」


「ふたりはどこに立っていたのですか。砂浜ですか」


「砂浜は砂浜ですが、波打ち際のそばではなくて、少し大粒の砂のところです」


「そこから、泉は遠いですか」


「泉って、あの水の出る泉ですか」


「そうです」


「泉は山の中ですから、海からは遠いです」


「川は遠いですか」


「オブジェクション」

 と検察側。「弁護人は関係のない話をもちだしています」


「では、話を変えましょう。フクロウさんは目に砂がはいったことがありますか」


「ははは」

 とフクロウが笑った。「フクロウは人間とは違い3枚の瞼がありますからね、フクロウになってから、そういう経験はないです」


「以前は人間でしたよね。その時には」


「覚えていません」


「そうですか。フクロウさんはよいですね。人間は瞼がひとつしかないですから、よくゴミとか砂が目にはいるのですよ」


「オブジェクション」

 と警察側。「弁護人は関係のない話をしています」


「関係があります。大事なところです」


「続けなさい」

 と裁判長。


「人間の目は砂がはいりやすいと言っているのです。あの時、ハミルの目に砂がはいっていたとは考えられませんか。彼の目を見てください。大きい切れ長の、大きな美しい目ですよね」


「はい。大きくて美しい目だと思います」


「風で、あの目に砂がはいったとは考えられませんか」


「それは、わかりません」


「人間は砂がはいったら、水で洗うのですが、海水では痛いですね。でも、泉や川は遠い。こんな時、どうしますか」


「わかりません」


「そういう時は、人間は舌でなめて取ります。よくあることです」


「私は見たことがありません」


「そうですか。人間の世界では、子供の目に何かはいった時など、お母さんがやさしくなめてやるということはよくあります。覚えがありませんか」

 とエヴァンネリが陪審員のほうを向いて、顔を少ししかめて笑った。


「あれ、痛いですよね」


 エヴァは少年を証人席に呼ぶことはせず、最終弁論ではこうまとめた。


「あの時、被告人ハミルの目に砂がはいり、もうひとりの被告人サナシスがその砂をなめてとろうとしていたのです。ハミルの頬に流れていたのは涙で、唾液ではありません。あれが消化液だという検査結果ですが、サナシスの唾液だという科学的証拠はありません。あれはハミル自身の涙です」

 

 傍聴者たちから、「おおっ」という声が上がった。


「静かにしなさい」

 と裁判長。


「少年たちの行為は『恋』とは関係がなく、友達が仲のよい友達を助けようとして行った医学的処置の行動であると考えられます。よって、風紀ルールを破ってはいませんから、ここにふたりの無罪を主張します」

 とエヴァンネリがしめくくった。


 陪審員は3人いて、それぞれの手に赤旗と白旗を持っている。赤旗は有罪で、白旗は無罪。


 3人のうちひとりでも白旗を上げると、「無罪」になるのだ。


 結果は赤旗がふたつ、白旗がひとつで、サナシスとハミルは「無罪」になったのだった。

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