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21. ハミルの部屋

「ルシアンが書庫に本好きな子が寝泊まりしているって言っていたから、どんな子だろうと思っていたんだ」


「ルシアンって、第二王子のことだよね」

「うん」

「親しいの?」

「うん。仲がいいし、よくしてもらっているけど、サナシスほどじゃない」


「サナシス?」

「島の仲間だよ。覚えていないのかい」

「少しは思いだしてきているんだけど。サナシスはどんな子?」

「漁師で、歌がうまかった」


「どこにいるの?」

「わからないんだ」


「ジャミルは?」

「山羊を飼っていた。ジャミルは心がやさしくて、いつもエヴァのことを守っていたよ」


 玄関はジャミルのことを思うと、涙が出そうになった。


「エヴァはかしこくて、本が大好きで、いつも図書館に行っていた」

「わたしが本を読んでいたの?」

「うん。島一番の物知りで、いつも本を読んでいた」


「わたし、ここに来るまで、1冊の本も読んだことがなかった。読みたかったけど、本が近くになかったのよ」


「本が大好きだったエヴァが本を読めないなんて、それはつらかっただろうね」

「ここに来たら、第二王子が書庫に住んでいいと言ってくれたから、夢みたい」

「ルシアンはいつもものを書いているんだけど、エヴァが来てから、とても楽しそうだ。一緒に彼の本を読んでいるんだろう」


「うん。ハミルは本は読まないの?」

「本は読むけど、ルシアンの本は読んだことがない」


「なぜ?」

「ぼくのことをモデルにしているんだろ。そんな本、読みたいかい」


「悲しい物語が多いけど、ハミルのことはとてもきれいに書いてあるよ」

 そうなのかぁ、とハミルは苦い顔をしてみせてから笑った。


 ハミルは玄関を自分の部屋に案内した。


  この屋敷の中で、彼の部屋だけが雰囲気が違うようだ。子供っぽい。床に兵隊や戦車のおもちゃがころがっている。

 

 このクールな顔で、こんなおもちゃでひとり遊んでいるのかと玄関は笑った。

 

 部屋には広い庭がついており、真ん中に、オリーブの木が4本植えてあった。

「4本とも別の種類なんだよ」

「どうしてオリーブなの?」


「ぼく達の島は、地中海の西側、アドリア海に近いところにあって、『オリーブの島』と呼ばれているんだ。そこに、良質の4種類のオリーブがある。昔は漁を獲るだけの貧しい島だったけど、女神アテナがオリーブを植えさせてから、豊かな島になったんだよ」


「そこは女神アテナの島なの?」

「そうだよ。女神は多くの土地や島を治めているんだけど、この小さな島が一番好きなんだ」


「どうして」

「平和だからね」


「その平和の島を、わたし達はどうして出てきたの?」

「出たくはなかったけど、事情があるんだよ。ぼくたちは、追い出されたんだよ」


「どうして」

「それは、ちょっとややこしい」


 ハミルの庭には羊と山羊と、うさぎも飼われていた。

「どうして山羊と羊とうさぎなの?」

「島のことを思い出すからだよ。エヴァは羊飼いで、ジャミルは山羊飼い、サナシスは漁師で、ぼくは葦笛が好きで、浜辺で吹いていた時にスカウトされて、女神の宮殿で吹くようになったんだよ」


「宮殿の笛吹きだったの?」

「うん」


「わたしは羊飼い?」

「そうだよ、抜群な羊飼いだった。羊を飼うのも、赤ちゃんを取り上げるのも、うまかったよ」


 玄関はジャミルが羊の形をした飴をくれたり、時々、羊の姿が頭を通りすぎるわけがわかった。

「うさぎは」

「白いうさぎは小さい頃から好きなんだ。ぼくの友達だよ」


 ハミルは庭に下りていって、うさぎを抱いて撫でた。

 玄関はこういう光景を見たことがあったような気がした。


 青い空、青い海、白い砂、緑のオリーブ、だんだんと島の光景がよみがえってくる。





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