3.章 魔王編外伝
朱天楼閣から続く、長い格子の回廊を渡り、王座の間のある本殿へ2人は到着した。
そこからさらに、下の階層へ降り、魔王と三下の魔物は、威風堂々とした寺院造り、王座の門にいた。
「旦那、確かこの先が赤目の待つ、王の間でさぁ!」
そう言って精一杯力の限りを込めて、重い大扉を押し開いた。
大扉がぎいと音をたてて、大仰に開かれると、玉座に座る何者かが姿を現す。
そこには、悪鬼赤目が玉座に鎮座し、腕を組みつつ待っていた。
赤目は15スレード(15メートル)のでっぷりとした巨漢の悪鬼型の魔物で、八本の腕を持つ魔物だった。
「手下どもの魔力が一瞬で消えちまった。
まあ何かの間違いだとは思うが、人間型まさかお前の仕業じゃないだろうな?」
問われた、魔王は質問には答えず、逆に質問を返した。
「赤目と言ったか……。魔王四将の一角バアルという魔物を知らないか?」
「バアル……ああ、そんな奴が、いたかもしれん。だが覚えていないな」
「バアル………武人として矜持を持った男だったが。」
「……矜持!!全く、くだらねぇ!」
赤目は心底馬鹿にするように吐き捨てた。
「奴なんてどうでもいい……。
これ以上、俺の根城で好き勝手はさせねえ。ぶち殺してやるから、かかってきな!」
そう言うと、赤目は玉座から躍り出た。
「貴様が、クズなようで助かる」
魔王はそう言うと、雑念で心が乱れないよう、すうっと 息を吐いた。
抜刀に備え、集中するように刀に右手を添えた。
しばらくの間、魔王と赤目は静かに対峙する。
「…………」
「…………」
《ガッ!!!》
息を呑むような瞬間、火花が散ったように閃光が閃き、激しい斬撃がぶつかる。
赤目は腕力に任せ、巨大なパワーで魔王をねじ伏せようと、追い詰める。
赤目の巨漢が動くたび、楼閣は激しくゆれ、天井の梁から、巨大な木材と砂埃が落ちてくる。
三下の魔物は、隅に隠れながら、天井からの落下物に怯え、はやく過ぎてくれと祈るばかりだった。
「おのれ……!ちょこまかと動きおって!!」
赤目の多腕から繰り出される鋭い爪の攻撃、魔王は、刀で右、左と薙ぎ払う。
魔王は後退しながら、怒涛のラッシュを受け切った。
力に飽かせ動き過ぎた赤目が、崩れた城の建材で動きが鈍くなる。
魔王はそこを見逃さず、決定的な一撃で、赤目は壁際まで突き飛ばされた。
《ガッッ!!!》
大勢を崩した、赤目は脚を斬られ、ドシンと膝をついた。
間髪入れず、赤目の多腕の腕を一本一本と削り取っていく。
赤目の腕が残り一本になると、
魔王から冷徹な一言が出る。
「勝負はついた。死ぬ前に、魔王四将バアルの最後。お前の知っている事を話せ。」
「くっ……!」
魔王は、赤目の喉元に刀の切先をあてる。
「わ……分かった!俺が悪かった、謝るからやめてくれ!バアルの最後が知りたいなら教える。頼む命だけは……!」
「そうか」
魔王はそう言うと、刀を納めた。
それを見ると、赤目は心の内でほくそ笑む。
『クックック……馬鹿なやつめ!』
「なーんてな!死ねガキがぁ!」
「?!」
赤目は背中に隠し持っていた、まだ見せていない多腕の腕を、背後から素早く繰り出すと、魔王の体に打ち込んだ。
《ザシュ!》《ザシュ!》《ザシュ!》
不意打ちで、魔王の体は多腕の腕に貫かれる。
驚いた魔王の身体は、多腕が突き刺さり串刺し状態で、ぶらんとした。
「あはは!!死んだぞ!ばかめ!」
赤目の大声は、広い朱天楼閣に響きわたる。
「あの四将バアルと同じ!こうも簡単に騙されて。
そんなにバアルの最後が知りたきゃ教えてやる!
あの死に損ないなら、人間と敵対して最後までみっともなく戦い、
終いにゃ、今みたいに、俺から騙され、裏切られて死んだのさ!」
赤目はそう言ってバアルを嘲った。
「時代の読めない間抜けなやつさ。
今の時代は共存の時代。
人間と魔族の共存こそ、お互いの幸せだろう?
俺が、魔物の子供を人間に渡し、人間が、俺に人間の美女を渡す。
見事なトレードオフだ。
俺が人間の肉で大儲けをして、人間は魔族の血で便利な生活を享受する。
世界人類の幸せな未来だろう?
馬鹿みたいに、仇だなんだと憎しみを募らせるより、お互い仲良くした方がよっぽど幸せだ。
古い魔族が人間と敵対して、日々の糊口をしのぎ、腹を空かせた生活をしているのに、
オレは、人間の美女や子供をたらふく食べられるってワケさ。」
赤目はそう言うと、今度は魔族全体を嘲笑った。
大柱の影から、三下の魔物は息を殺し、ことの成り行きを見届けるため、覗き込んでいる。
『………結局、旦那はやられちまった。赤目のやつ卑怯ではあるが、やはり歴戦の手だれか……』
三下の魔物は、そう独り言を漏らした。
赤目ははしゃぎながら、なおも独白を続けている。
「残念だが、もう貴様には何も聞こえないだろうがなぁ!」
そのせいで、背後に人影がある事にも気づかない。
「お前らのような屑を根絶やしにする為、我は人間と戦争までしたというのに、まだ害虫はしぶとく生きていたのか……」
赤目の背後から声がする。
「………?!」
「どうした、はしゃぐのは止めたのか?」
ようやく声の主が、魔王だと気付き赤目は驚嘆の声を漏らす。
「なにぃ?!」
『ここに、確かな手ごたえと、奴の死体が!!』
「あんな、ハエの止まりそうな不意打ちを喰らうか。
死体は、我が魔血で作った残滓だ……。」
赤目は狼狽し、言葉が出ない。
「なるほど、こうやって卑怯な手を使って、魔王四将バアルを殺したのか。」
赤目を前に、魔王は静かに怒りを抑えている。
「ま……っ、待て!俺を殺せば人間とのパイプも無くなる!
繋がりが無くなれば、また人間と対立するだけだぞ!」
魔王は、何も言わない。
「考えなおせ!プライドを捨ててでも、魔族が存続した方が、遥かに価値があるとは思わねぇのか!
一時の気持ちで、種族の未来まで捨ててどうする!」
《ザシュ!》
赤目の胴から首が落ちる。
─────。
黄昏時、奇巌窟の大穴にも、わずかばかりの陽光が、差し込んでくる。
地下迷宮都市、主を失った朱天楼閣はしんと静まり返っていた。
「なんだ、ついてくる気か?」
魔王は、自らを追ってくる魔物に声をかける。
「……へへへ、気づいちまいましたか?
旦那の強さをみてね。きっと只者じゃないと思いまして、あっしはコレでなかなか器用なんでさぁ、何でも言いつけてくだせぇ。
きっと、連れてって損は無いと思いますぜ」
魔王はしばらく考え、口を開いた。
「………我はもう以前ほどの力は無い。ついてきてもいい事はないぞ。」
「なあに、あっしは、これでも見る目はある方でさぁ。主人選びは間違えない、それが弱い魔族の処世術。
きっと旦那に付いていけば良い事あると思ってますぜ」
「……ふん、勝手にしろ」
魔王はすっと先へいってしまい、三下の魔物は急いで後についていく。
「……待ってくだせえ」
「名が無いと不便だな。お前、名は何だ?」
「あっし、ですか?ゾアル(村)のゲロスと呼ばれてますぜ」
「長いな。ゲロスでいいだろう」
こうして、魔王と三下の魔物のゲロスは、赤目の根城を、後にするのだった。
あとがき
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