0.章〜3.章 魔王外伝
0.章 魔王編外伝
───西アトラス海に浮かぶ、グレートアイランド島。その中央に位置する、魔法都市アルドリア国に、わたし侯爵令嬢カリナ・オルデウスは生を受けた。
魔法使いの名門オルデウス家に生まれながら、魔力ゼロで生まれてしまった、役立たずのわたし。
それでも幸運をえて、王太子様との婚約をつかむ。
しかし、聖女に嵌められ王太子様との婚約は破棄。不当逮捕からの処刑を逃れ、祖国アルドリアから、魔王様と共に逃亡した。
追っ手を警戒してユーラ大陸へと渡ろうとするも、船上で魔導士カシウス・オルデウスに襲撃され、それを撃退する。
ようやくユーラ大陸に入った、わたし達は港町の宿屋で別れ、それぞれの別の道を進むことになる。
───これは、わたしと魔王様が別れた後の、魔王様のお話し。
1.章 魔王外伝
乾いた砂埃、不潔な檻、泣き叫ぶ子供。
ガリガリの細い指は虚しく、空をつかむ。
───ここは奴隷市場、その中でも特にランクの低い、魔物の奴隷市場だった。
魔物の子供が数珠繋ぎに首輪をはめられて、市場に引きずり出され、競りにかけられるのを待っていた。
みな一様に、瞳の奥は暗く、涙の跡も乾ききって、髪は頬に張り付いている。
───いざ、その時になる。
魔族の子供はこの先に何が待っているのか、すでに察しがついており、
だからこそ全力で抵抗し地面に倒れなんでもいい、なにか棒などにしがみついた。
これだけ大量の魔物の子供を供給できるのは、魔物の子供を攫って流す、専門のブローカーが魔物側に、捌く人間側に、共にオペレーション化され存在していたからだった。
子供の魔族の命がけの抵抗、彼らは知っているのだ。自分たちが、人間の便利な道具、魔蓄管の原料になるという未来を。
2.章 闇商人
───暗黒大陸に程近いユーラ大陸のソドム地方、地下に張り巡らされた巨大な暗黒迷宮。
魔物の根城、奇巌窟に、魔王は姿を現した。
有象無象、魑魅魍魎の魔物の群衆は遠巻きに見ながら、この侵入者を警戒している。
侵入者が何者とも知らず、弱い魔物が魔王に絡んできた。
「何だ、おめぇは?
ここが赤目様の根城、奇巌窟だとわかって、無断で侵入して来やがったのか?」
「赤目はどこにいる?」
魔王はあまり相手にせず、弱い魔物に尋ねる。
「人間に擬態するような弱っちい魔物が、俺たちと対等に口をきくなんざ、とんだ勘違い野朗だ。
今、切り刻んでやるから、覚悟しなぁ!!」
弱い魔物がそう叫ぶと、侵入者に襲いかる。
───鋭い破裂音。
はじめ何が起こったのか、襲いかかった魔物自身には分からなかった。
「は……ひっ」
魔物が赤い血の霧になったかと思うと、ばっと壁一面に飛び散った。
辺りは血の海と化し、その魔物は魔王によって瞬殺されたようだった。
奥にいた、それなりに実力のある魔物はこの様子を見て、目の前の人間型にひれ伏した。
『………一瞬だった。瞬きもしない間にアイツらは弾けて、汚ねえ壁の血だまりになった。
この人間型只者じゃねぇ……。』
そうしてこの三下の魔物は、弾けた魔物の血溜まりを踏みつけ、この人間型に近づいていく。
『………まったく、相手の実力も分からずバカな奴らだ。』
そう思いながら、この人間に擬態した魔族に話しかけた。
「いやーお見事ですぜ旦那。全く馬鹿な奴らですよ。
お探しの、ここいら一帯のボス赤目なら、この根城の最下層だ。」
そう言って、魔物の根城、奇巌窟の最下層を指差す。
「ただ、旦那はなんで人間型でいなさるんです。……コイツらが勘違いするのも無理ねえですぜ。
人間形態をとるなんて、弱い奴以外は、魔物のプライドが許しませんよぉ。」
魔王は、三下の魔物を一瞥すると、威圧するように口を開いた。
「お前にそれを説明する必要があるのか?」
三下の魔物は、魔王にギロリと睨まれ、おもわずたじろいだ。
「そう、おっかねえ顔せんで下さいよ。ちょっとした好奇心でさぁ。」
魔王は、この三下の魔物には目もくれず地下へ進んでいく。
「旦那もここらじゃ見ないお方だ。きっと無案内でしょう。………どうです?
あっしを、お供にすればこの奇巌窟で迷わず、赤目の所へご案内しますぜ」
魔王は、それにも答えず、ずんずんと下へ進んでいく。何階層か降りたころだった。
ふと、思い出したように、魔王は、こんな事をその三下の魔物に話し始めた。
「この奇巌窟には、魔王四将の一角、バアルという魔物が居たはずだが、ヤツはどこへ行った?」
「へぇ、旦那そんな昔のことをよくご存知で……。
なんでも、人間に殺されたのか、なんなのか。
当時の魔王が行方不明になって、魔族軍は総崩れ、それでも最後まで徹底抗戦して果てたとか。
それ以来、魔物の子供を攫って売っ払う、闇のブローカーみたいな赤目が住み着いたんでさぁ。」
「なるほど。我が寝ている間に、ずいぶん好き勝手するバカが現れるようになったのか」
魔王はそう言って、三下の魔物と地下迷宮を下に下にと、降っていく。
「さあ、ここが最下層、朱天楼閣でさぁ!」
「…………。」
二人は暗黒迷宮を抜けて、荘厳な楼閣前に立っていた。
悪鬼赤目の居する、朱天楼閣、寺院建築で造られた、朱塗り五重層の城楼が構えられていた。
『魔王四将バアルの話題を出してから、旦那は一言も喋らねぇ。』
三下の魔物は、魔王の顔色を伺いながら恐る恐る、先を歩く。
『なにより、あれから恐ろしく巨大な怒りの圧が旦那から沸々と湧いてきやがる。
こっちは道を間違えでもしたら、いつ後ろから自分の首が落とされるのか。ずっと背筋がゾクゾクして気が気じゃねえ。』
その異常な魔力圧のせいなのか、魑魅魍魎の魔物たちも、こちらに近づく様子もなく順調に赤目の居する最下層に降りることが出来た。
『しっかし、何をそんなに怒っていなさるんだか。
壁のシミになった魔族を殺った時ですら、殺意なんて微塵も見せやしなかったのに』
朱天楼閣の正門に入ると、寺院造りの厳つい門構えがあり、その扁額には天童悪鬼と記されている。
望楼にいた、見張りの門兵の魔物が2人の侵入に気づいた。
「何奴!この先が赤目様の居城と知っての押し入りか!」
門兵の魔物は鐘楼をならして侵入者の警戒を発する。
2人が鐘楼門をくぐると、赤目の手下が数百、数千と楼閣からぞくぞくと湧き出てきた。
一瞬、魔王は三下の魔物を見やると言葉をかける。
「お前、死にたくなければ隠れていろ。」
「へ……へい!」
三下の魔物は一目散に逃げ、後ろの大柱の影に身を隠した。
魔王は、手下どもに向かって手をかざすと、指先から赤黒い魔血が湧き上がる。
魔血は手に纏わりつきながら形を為し、妖刀 五月雨を出現させた。
魔王はさっと五月雨を一振りすると、妖刀は禍々しい魔力を帯びていく。
怒号を上げ、数千という魔物の群れが土埃を上げて、魔王に牙を剥く。
大柱の影に隠れた三下の魔物は目を瞑り、ことの成り行きが、一刻も早く終わるのを祈っていた。
───叫び声と怒号、何千匹の魔物のバタバタとした足音だけが響く。
しばらくすると、ふっと音が消え、あたりは、しんとした。
三下の魔物は恐る恐る、表へ出てくる。
足の踏み場もないほどの、折り重なる死体の山。
三下の魔物が死体の前を通ると、
まだ息のある魔物が、何かを掴もうと指先を痙攣させ事切れた。
「……ひっ……ひえ…」
『なんちゅう、むごたらしい光景だ』
あたり一面死体だらけだ。
その真ん中に、魔王が立つている。
魔王は手にした妖刀をさっと払い、刀身の血を振り落とした。
魔王は、何事か考えているのか、ひとり思いを巡らせている。
『魔族同士の殺し合いは虚しい……。だが、これも魔族のさがなのだろう』
三下の魔物は、魔王を前に震えて先へ進めない。
『この旦那は、何者なんだ?』
ふと、魔王は三下の魔物に気づくと口を開いた。
「なんだ、まだいたのか?
とっくに、逃げたと思っていたぞ」
三下の魔物はたじろぎながらも、何とか返事をする。
「へへ……。なぁに、ここまで来たら、旦那の行末を見てみたくなりましてね。」
三下の魔物は、不敵にそう答えた。
あとがき
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