94 章 魔法学校編
94章 処刑場の邂逅
マジック•マウント魔法学校の公会堂に、成績優秀者の名前が張り出されている。
生徒達はざわつきながら、その事について噂しあっていた。
「どうせ、カリナさんでしょ」
「あの人、なんかツンとしていけ好かない感じ!」
「しょせん、座学だけで実技は大した事ないのに優秀者を鼻にかけてるわね。」
「去年まで、生徒会長のムネーメさんが最優秀生徒だったのに……。先生方は何を考えているのかしら?」
その張り紙の最上部には、こう書かれている。
最優秀生徒カリナ・オルデウスは理事長室に来るように───と。
そうして、カリナは理事長室で不満げな理事長トレメインから説明を受けている。
「今度の王都ルティティアにて、王陛下から我が校の最優秀生徒たちへの謁見が許可されました。」
アルト地方ガリア国の国王は魔法学校を、優秀な軍事力開発機関だと位置付け、定期的に学生への視察をかねた謁見を行っていた。
例年までは生徒会長のムネーメが最優秀生徒総代に選ばれていたのだが、今年はそれをカリナに譲る事となった。正直、ムネーメはこの事に腹の虫が治らない。
そんな生徒会長ムネーメがカリナに皮肉混じりに話しかける。
「あら、カリナさん。貴女も最優秀生徒に選ばれたのね。しょせん座学だけで、実技は大した事なかったのに、どんな汚い手を使ったのかしら?」
カリナは、この嫌味にあえて何も言わなかった。何を言い返しても、ムネーメに言い訳がましいと一蹴されるのがオチだったからだ。
「あら、図星を刺されて何も言えないようね。それじゃ、王都での謁見の時にまた会いましょう。では、機嫌よう」
───ユーラ大陸の東、アルト地方ガリア国。
中央に魔の霊峰マジック•マウント山脈を有し、山からの豊かな自然の恩恵が与えられ、四季のハッキリした美しい国である。
広く沿岸部まで続く低地は農業に適した土地となっていて、第一次産業である農業が盛んに行われ、比較的豊かな土地柄といえる。
マジック•マウント山脈の麓からカリナ達を乗せた乗り換え馬車は2時間超に及び走らされると、王都ルティティアの様子がようやく見えてきた。
ガリア国国王の居城を有する、王都ルティティア、はるか高台に王城がそびえ、ふもとに城下の町並みがびっしりと先まで続いている。
その町並みを守り、王都をぐるりと囲むよう幅の広い水路が巡っていた。
その水路にかかった町と城外を隔てた橋を渡り城門をくぐると、石積みの城壁とその狭い土地ゆえに上へ上へとのびる、赤屋根の町並みが続いている。
カリナを乗せたマジック・マウント魔法学校の馬車は2台だてで町のメイン通りを王城へと進んでいった。
賑わう町の通りををぼんやりと眺めながら、カリナ•オルデウスは考え事をしていた。
『王様に謁見と言うけれど、街中はとても賑わっているわ。わたし達を歓迎という感じでもないし。王都ルティティアは、今日これから祭りでもあるのかしら?』
走る2台の馬車は、王城に入城するための立派な馬車に乗り換えるため、あらかじめ頼んでいた停車馬に向かっていた。
そして、乗り換えの停車場に着いた途端、ちょっとした問題が起こった。
カリナ•オルデウスは他の代表生徒達から引き剥がされ、引率の教師から王陛下に謁見する代表生徒から外れるよう言い渡された。
「わたしだけ、ここに残るのですか?」
結局は補欠みたいなものよねと、代表生徒達からヒソヒソと噂される。
「あなたが最優秀生徒なんかに、選ばれる訳ないじゃない……!」
生徒会長のムネーメはこれ見よがしに、カリナに聞こえるよう嫌味を言ってきていた。
さすがのカリナもたまらず、引率の教師に説明を求める。
「一体どうして、わたしは、謁見の代表生徒から外されるのでしようか?」
カリナはそう言って、引率の教師に抗議した。
引率の教師は言い淀んで口籠もっていると、それを引き継いで女理事長のトレメインが話しをはじめた。
「どうもこうも有りません、貴女はこのまま独りで王都の城下町にて待機していなさい。
貴女を擁護する、教員がいる手前ここまで連れて来ましたが、ここから先は優秀在校生総代は生徒会長のムネーメさんに、引き継いでもらう事にします。」
カリナは納得出来ずに、理事長に食い下がる。
「それならば、はっきりとした、理由を教えてください!」
「理由ですか、それは、………貴女が何らかの不正を犯しているからです!」
「そんな?!わたし、不正などしていません!」
「では何故、貴女の魔力量を調べてもゼロの数値しか出ないのですか?」
「……っ、それは……。」
「教えて下さい。貴女は魔力計測器で調べても、魔力ゼロと数値がでています。なぜ魔力量ゼロで、魔法が使えるのです?
この私の問いに答えられますか?」
「えっと……それは……」
理事長はなおも、カリナを攻め立てる。
「貴女が魔蓄管か、何か魔道具を使って不正をしているとしか考えられない。
そんな得体の知れない人物を、国王陛下に会わせる訳にいきません」
───こうして、カリナは独りで城下の街にとり残されることになった。
しかし、いつまでも落ち込んでもいられない。持ち前の好奇心と前向きさで気を取り直し、カリナはこの新しい街を観光がてらに見て回ることにするのだった。
カリナははじめ、町の通りにあまりにも人出が多く、何かお祭りでも行われているのだと、勘違いをしていた。
しかし、それはお祭りなどではなく、罪人を公開処刑するための特別日なのだと分かった。
カリナは、あれよあれよという間に町の中央広場に設けられた囚人の処刑場に、人混みに押されて辿りついて来てしまっていた。
中央広場は広く石畳が敷き詰められ、石畳の溝には血溜まりが流れてこびりつき、人々は柵の向こうの|木造の櫓に似た処刑台に注目している。
柵の前には王立騎士団と魔術師がおり、大勢の人ごみの中の魔族や反乱分子を警戒していた。
そして、カリナは柵に張り出されている、罪人の覚え書きを眺めながら、驚愕の事実を知ることとなる。
ほとんどの罪人は、些細な罪で捕まっており、これから可哀想な囚人が、処刑される場面にカリナは遭遇してしまっていたのだ。
そばの小さな子供が楽しそうに話す。
「あーあ!はやくアイツら、ぶっ殺されないかなぁ!母さん、こいつはパン屋で盗みをしたそうだよ。捕まって、全くざまぁないな!」
人々は口々にこれから起こる処刑ショーを楽しみにしているようで、あまりの野蛮さにカリナは頭がクラクラとした。
そして、ガリア国は一見豊かな国の様でいて、民草の生活は決して楽ではなく、常に、娯楽という気晴らしを求めていると知ることが出来た。
よくよく、観察すればスラムの様な貧民窟が王都の郊外に存在し、カリナ達も馬車でそこを通ったはずではあるが、人というのは中々そこまで考えが回らないものだった。
なので重い税の負担に苦しむ、民草の娯楽は、ここのところ、この処刑ショーくらいでしかなく、国王も民草の鬱憤を逸らす為、無理な理屈をつけてでも処刑ショーを続けなければならない事情があった。
例えば今、引き出されて来た、この囚人は墓掘り人で昼間に埋めた墓を夜中に暴き、その死体を闇の商売人に売り渡したという罪だった。
ちなみに、その闇の商売人から買い取った死体で蝋燭を作ったり、剣の試し切りをしたり、魔術師が胎児の死体を秘薬にしたりして、なかなかに死体の用途は多岐に渡る。
また他の者はパンを盗んだとか、せいぜい1000F盗んだとかいうケチな盗人位しかいなかった。
泣き叫び、助命を懇願する死刑囚と、それを楽しそうに見物にくる大衆。処刑場には様々な食べ物屋の屋台が建っていて、まるで本当のお祭りのようだった。
泣き喚く死刑囚は、処刑人によって煩わしげに麻布を口に押し込まれると、大概大人しくなった。そうして、流れ作業のように雑に首を刎ねられていった。
斬首された生首は、興奮する観客に投げら入れられ、野次馬たちはそれを弄んで、仕舞いにボールゲームを始める始末だった。
酔っ払い共は、それを賭けの対象にして大いに盛り上がり、賭けの胴元は帽子をまわして、掛け金を回収して回っている。笑い、歌い、そして喧嘩が始まるのが、この催しの常だった。
───何人かの処刑が終わり、しばらくすると、群衆たちの間で、何か特別な期待感のような熱気が帯びはじめていた。
処刑人が、本日最後の囚人の登場だと読み上げ、今日のメインイベントとばかりに、人々は歓声をあげ、期待が一層高まっているのが分かった。
しばらくすると、何の罪も犯していないような、普通の初老の男性が警備兵によって刑場に引き立てられてくる。
囚人の紳士然とした上品なその風体にカリナは不思議と疑問を感じていた。
「あの方は、何をしてあそこにいらっしゃるの?」
誰に言うともなしに、カリナはそう独り言を漏らしてしまう。
それを聞いていた、近くのみすぼらしい老女はカリナに向かってこう答えた。
「アイツかい?あいつは村のみんなの為に水路を引いたり、荒れた山を開墾して村人の為に共同農地を作ったり。
貧しい者、病人などを看取る養老院を作ったり、揉め事を納めたり、そんなみんなの為になるような事をしていたのさ。
アイツはそのおかげで、あたしらの村で村長に選ばれ、たくさんの人間に尊敬されていた人物なのさ。」
老女は、そう言うと忌々しげに吐き捨てる。
「だのにあいつは結局、わたしら村人を騙して村長をしていやがった。本当のやつの正体は、魔族だったのさ。」
カリナはそれを聞いて、酷く驚愕した。
「それというのも、村に長雨が降り、土砂崩れが起きた時、ヤツは魔物に変身して村人を何人も土砂の下から救い出した、それで正体がバレたわけさ。
ヤツとしては、村人が感謝してくれるだろうと思ったろうが、あたし達、村人たちはそんなお人好しじゃない。結局は捕まって異端審問所送りってわけさ。」
老女はそう言うと、カリナに細に入り密に入り説明はじめる。
「まったく、せっかくみんなで尊敬して親切にしてやっていたのに、わたしらは全員裏切られてたのさ。
そして、村人がこうして異端審問所に引きずって来て。こうして、斬首になるのさ。」
老女はそう言うと、田舎者特有の変に開き直った下品さで吐き捨てるように続けた。
カリナはその話しを聞くに恐ろしく、なにかこの処刑に、一抹の正当性を見出せないかと、恐る恐る老女に尋ねた。
「あの人が、誰かを……傷つけたのですか?」
「まさか!なんにも抵抗しやしないよ。村人を恨んじゃいないなんて、強がり言って。
最後まで愛想よくしてて、気持ち悪いったらありゃしない。」
老女は再び吐き捨てるように言うと、カリナの様子がおかしい事に気づく。
「おや、どうしたんだい?顔色が悪いね。まあ上品なご婦人にはにつかわしくない催しさ。」
カリナは口元を押さえて青くなる。
『………もし、わたしが魔族の眷族だと分かったら、わたしもあの人のように殺されてしまうの?』
そうこうしているうちに、哀れな囚人は今まさに、枷にかけられ処刑が執行されそうになっている。
周りに王の兵士や魔術師が沢山いて、とても助けてあげられなそうにない。
『………どうしよう。このままじゃ、あの人は殺されてしまう!』
冷や汗が滝のように流れて、近くの老女はカリナを怪しげな目で見始めていた。
「………一体どうしたんだい?あんた……」
『……あの人に罪は無いのに、正しい事をしたのに殺されてしまう……!』
捕まった魔族の老紳士は、大した危険のない魔物ではあったが、一応、魔物の処刑を前に、断頭台には王立魔術師達が警備として集まって来ていた。
刑場を警備する兵士、柵の前で民衆の中に紛れている魔族を警戒する兵士、囚人を取り囲み警戒する魔術師、一斉に緊張が高まる。
今まさに、処刑が始まりつつあった──。
『──助けてあげたい、でも、わたしどうしたら……!!』
カリナが祈る様に目を伏せると、
〈〈《 ドォォォォン!!! 》〉〉
───聞いたこともないほど大きな爆発音が、そして少し遅れて衝撃波が、瞬間に波紋のように轟いた。
驚いて目を上げると、刑場の広場に大きな爆発が起こっていた。
宙に舞う粉塵。人々は何事かと逃げ惑い、近くの兵士は急いで囚人に駆け寄ろうと集まった。
──それら兵士を、一瞬で薙ぎ倒す黒い影。
よく見ると黒いマスク姿の怪人が刑場に乱入し、囚人を枷から助け出そうとしていた。
ますます、兵士達は四方から集結し、黒いマスクの男を取り囲んでくる。
この黒衣の怪人は、手をひと凪して、黒い炎の魔法を繰り出すと、集まった兵士達はその場から一掃された。
王室付き魔導士たちも、慌てふためき、黒マスクの怪人相手に魔法攻撃を詠唱しはじめた。しかし、すべて間に合わず、魔導士達は黒い炎で焼き焦がされていく。
この惨状を刑場で見ていた、聴衆の1人が呟く。
「魔族だ……!」
1人がそう呟くと、恐怖が伝染したように他の聴衆も叫び出す。
「魔族だ……!!殺せ!」
聴衆たちは、魔族であろうこの黒マスクの怪人に次々と手近な石を投げはじめる。
「殺せ!!」
聴衆は口々に殺せと叫びながら、投石を続けている。
「殺せ!!」
しかし、投げられた石たちは虚しく怪人の身体を擦り抜け、先の石畳へ転がっていってしまう。
黒衣の怪人をよくよく見ると、身体が半透明であり、実体の無いアストラル体──つまり霊体である事が分かった。
黒マスク姿の怪人はマントをはためかせ、魔法攻撃を仕掛けるように、腕を群衆に向ける。
「………!!」
群衆は怯んで、その場を一歩二歩と、後退りしはじめた。
黒マスクの怪人は、そんな群衆の思念に直接訴えかけた。
『───愚かな人間ども、
驕り高ぶるその行い、許し難い。
魔王は復活した。近いうち、厄災の日が訪れる。覚悟して待っていろ。』
その言葉を聞いて、カリナはハッと気がついた。
『あれは……もしかして、魔王様?』
〈〈《ドォォォーーン!!!》〉〉
怪人の言葉に続いて、巨大な漆黒の火柱が上がり四方へ燃え広がっていく。
その炎は意思でもあるかの様に、王立騎士団や魔術師にまとわりつき、次から次へと悲鳴が上がっていった。
群衆は、魔族からの突然の攻撃に逃げ惑い、蜘蛛の子を散らしたように処刑場から逃れていく。
カリナは急ぎ、その群衆から逆行するように飛び出すと、そのマスク姿の男に駆け寄ろうと走り出す。
「貴方は……!!……魔王様なのですか?!」
カリナがそう叫ぶと、黒マスクの男は少し驚いたような、素振りを見せた。
「……どうしてわたしの前から、急にいなくなってしまったんですか?!」
カリナは大声で叫び続ける。
「例え心臓がなくても、恋心が無かったとしても……。
わたしは、側にいてはいけないのですか!?」
マスク男は、一瞬躊躇したものの、カリナに背を向け、黙っている。
「……………。」
「貴方は……!魔王様なのでしょう?!」
カリナは涙まじりに、言葉に詰まりながら大声で叫ぶ。
「そんなにっ………、そんなに、わたしが……お嫌いですか!」
カリナは、声を枯らして叫んでいた。
「お願い……!答えて!!」
そう懇願するように詰め寄ると、マスク姿の黒ずくめの怪人は観念した様にカリナに向き直った。
「カリナ………。」
ぽつりと、優しげな魔王の声が聞こえた。
刑場の聴衆は、あらかた逃げ出し、刑場はしんと静まりかえっている。
カリナと黒ずくめの男───魔王だけが、そこにとり残されていた。
「我は、………しなければならない事がある。
それに、お前を巻き込む事は出来ない。」
カリナは、その言葉を聞いて魔王だと確信し、なおも質問を続けた。
「しなければならない事とは、何ですか。わたしでは、お手伝いは出来ませんか………!」
魔王は何事かを決意し、カリナに諭すように話し始める。
「魔族が──正しかろうが、悪しかろうが、我は奴等に対して責任がある。
奴等を率導かなくてはならない。
…………それが、我が生まれながらに与えられた立場という物なのだ。」
黒マスクで顔を隠した魔王はそう告げ、一方で内心はこう呟く。
『………たとえそれが、自分自身の幸せを捨て、己を乗り捨てる真似になったとしても……』
そうカリナに告げると、2人は暫くの間見つめ合った。
しかし、もたもたしていると魔王の攻撃で一旦引いていた王立騎士団や魔術師たちが立て直し、再び集結をしはじめている。
ジリジリと、黒マスクの魔王と紳士然とした魔族の囚人を取り囲みだす。
魔王はその囲みに気づくと、
今一度、悲しげにたたずむカリナを見つめた。
カリナの姿を忘れないよう心に留め、本来言わなければならない言葉を口にしょうとする。
『そんなに悲しむ必要はない、お前の魂の本来の相手は、我ではないのだから………』
魔王はそう言いかけて、言葉を飲み込み、名残惜しさを振り切るように素早く後ろを向いた。
そして、さっと老紳士の囚人を脇に連れ、その場から飛び去っていってしまった。
「………待って、話しを……!」
カリナはそう言って、魔王の方へ駆け出そうとする。
しかしその瞬間、何者かにぐいっと、後襟を引っ張られた。
「ちょいと!……あんた、魔族にそんな近づいたら危ないよ……!」
そう言って先程のお節介な老女が、マスク姿の男を追おうとするカリナを押し留めた。
『魔王様、やらなければならない事って………?
これから……何をしようとしているの………?』
カリナはそう思いながら、何時までも魔王が逃げ去った彼方を見つめていた。
あとがき
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「今後どうなるの!!」
と思ったら
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