94 話 魔法学校編
91章 魔法工学
──4月マジック・マウント魔法学校。
うららかな春の日差しの中、魔女の帽子と呼ばれるスミレ科の高山植物が裏山に群生し、ピンクの花が一斉に開花しながらゆらゆらと揺れている。
こんな昼の微睡の時間に、退屈な魔法工学の講義を受けなければいけない、魔法学校の学生は、今が正に地獄だろう。
魔法工学の教室は階段状に席が配置されおり、そこに座る生徒達は老教授を取り囲むように、講義を受けている。
何人かの不真面目な生徒は、こっくりこっくりと船を漕ぎ、大多数の生徒は眠気と戦いながら板書にむかっている。
そんな中で一際、熱心に授業に向かう生徒、カリナ・オルデウスがいた。
教授の前の黒板には【マジックシリンダー】である、魔蓄管の図解が示され、生徒達が必死にノートを取っている。
その黒板の文字を写すカリカリというペンが走る音のみが、魔法工学の教室に響いていた。
魔法工学の老教授は15スレート(約15センチほど)の銀色のシリンダーを手に持ち説明をはじめていた。
「さて。諸君たちは、この15スレート(約15センチ)の魔鉱鉄製のシリンダー。これが、何か分かるだろうか?」
生徒一同に老教授は問いかけるが、誰も彼も教授を見つめるばかりで、発言をする者はいない。
それでも老教授は構わず、さも当たり前と言った調子で講義を続けていく。
「そうこれは、魔鉱鉄と魔強化ガラスで作られた銀色の円筒。このシリンダー内に膨大な魔力を圧縮し閉じ込めたマジックシリンダー。
これを我々は【魔蓄管】と呼んでいる。その事は諸君もご存じの通りだろう」
教授はそう言って、一旦言葉を切り、手に持った銀色の円筒を縦横に振り、生徒達に見せつける。
「今日、我々が使っている便利な魔道具、魔工機械はほとんど全てに、この魔力を圧縮し封じ込めた、マジックシリンダーが内蔵されている」
老教授はそこまで言うと、片眼鏡を手で押し上げ、神経質そうに位置ズレを戻した。
「それはつまり、魔力のない人間でも魔道具が扱える様になったという事であり、また魔力を温存したい戦争時などでも、資源さえあれば無限に魔工武器を使うことを可能にしたのであります」
そうして老教授は、生徒諸君に呼びかける。
「例えば、あなた方がこの学校へ、やってくる時に乗ってきた魔石炉型蒸気機関車これにも、巨大なこのシリンダーが搭載されているワケです」
「つまり、この僅か15スレート(約15センチ)のシリンダー。この大発明が、魔力駆動の全ての魔工機械を、魔力の無い人間でも扱えることを可能にした訳です。そして、その様な技術革新がここ数百年で起こったという歴史を覚えておいてもらいたい」
「まぁ、諸君が現代人なら、この魔蓄管が便利な魔道具の中に大体入っているのは、子供でも知っている常識でしょう」
「──さて、この便利な、マジックシリンダーは主に、ヴァルカン地方で生産され、彼の地は魔力の素養の無い者が多く、産業を起こすため仕方なく、この様な物を発明する必要があり──。」
カリナは教授の話を聞きながら、興奮気味にペンを走らせる。
『【マジックシリンダー】……そんな便利な物があったなんて。なんで、もっと早く分からなかったのかしら……』
魔法学に一角の知識を持ち合わせていると自負していた、カリナだったがこのマジックシリンダーである、魔蓄管は初めて知る技術だった。
しかし、それも無理の無い事だった。カリナの祖国、魔法都市アルドリア国は、このユーラ大陸の東にあるアルテ地方から距離的にかなり離れた地域だった。
また、魔法都市アルドリア国は、実際的な魔法学が主流だったため、この技術に関する情報が全く入って来ていなかった。
そのたため、この講義を通して、この魔蓄管にカリナは初めて触れたのだった。
魔力ゼロのカリナにとって、こんな夢の技術が存在した事に驚くとともに、自分は賢いつもりでも、本当に何もモノを知らないんだなと深く反省していた。
そして分かった事が一つ、祖国のアルドリア国を出て魔王とユーラ大陸に渡った外洋航海の船旅。魔法のコンパスを直した事をカリナは思い出していた。
──船長や航海士達が、大昔の魔法のコンパスの使い方が分からず、せっかく出航した船をもう一度港に引き返そうとして甲板で慌てていた時の事だった。
あの時、船長や航海士たちが、全く魔法のコンパスを使う事が出来なかった。どうして、彼らが、大昔の魔法のコンパスを扱えなかったのか。
──それは、魔力を込めるという仕組みを、彼らは理解出来ず、また魔力を込めるという技術も、持ち合わせていなかったからだった。
こうして、カリナはこの講義を通して、それらの真実に気づくのだった。
あとがき
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