93章 魔法学校編
90.章 魔法の再テスト、ドラマは幕開ける。
──正午の少し前。巨大な時計塔が聳え立つ、マジック•マウント魔法学校の校庭。
今まさに、ここマジック•マウント魔法学校の校庭で、カリナ•オルデウス、ゾエ•エラン両名の魔法学校入学の再試験が行われようとしていた。
──その試験の直前。カリナと書記のリステアは短い立ち話をする。
「今回も来ていただけたんですね。リステアさん」
「ええ、一応。理事長が卑怯な細工をしないか心配だったから……ね」
リステアは、そうカリナに答えた。
「何から何まで、お気遣いありがとうございます」
カリナはお礼を述べると、リステアは少し口籠る。
「それとアルテ地方で、ちょっと困った事が起きてね。」
「困ったことですか?」
「まあ、そうね。伝染病が発生したのよ。それの調査のついでに寄っただけだから。あまり気を使わないで。」
リステアそう言って笑顔を見せた。
そうしている内に、試験開始時刻は刻々と迫ってきている。
試験を受ける2人は、校庭の真ん中でぽつんと立ち、少し離れた所に女理事長トレメインと試験官の教員が5人ずらりと並んで立っていた。
また、公正な試験が実施されているか見届けるため、魔法協会書記のリステアが腕を組んで一連の行程を見守っている。
試験を受ける2人は試験用の魔法の杖を持ち、緊張した面持ちで試験開始の合図を待っていた。
すると銀色のカートが運び込まれ、二つの大きな品物が2人の目の前に並べられた。
カートの上の覆い布がとられると、2つの鳥籠が現れ、そこから試験官から試験内容の説明が始まった。
「この鳥籠の中をご覧下さい。これは魔法の黄金ツバメ。魔法で作られた人造動物です。
今回の再テストはこの金色のツバメを使って行われます」
カリナもゾエも、急に出てきた人造動物の登場に一気に緊張感が増す。
「これから1人一羽ずつ、金色ツバメを空に放ちます。
その金色ツバメが校庭を5周する前に、何らかの攻撃で撃ち落とす。それが今回のテストの内容となっております。」
腕を組んで一連の様子を見ていた、リステアは説明を補足するように繰り返す。
「空を周回して飛んでいる魔法のツバメ──。金色のツバメに魔法攻撃を加えて撃ち落とす。それが再試験の内容ってわけね」
リステアは目を上げて、気になる部分を指摘する。
「攻撃はどんなものでもいいの?」
リステアが理事長と試験官を見比べて確認する。
「ええ。それは、どんな方法でもいいです。魔法で具現化した矢を飛ばしたり、飛行タイプの使い魔を放って攻撃させる事も可能です。
もちろん、火水雷どのタイプの魔法攻撃を使って攻撃しても合格判定になります。」
教官はここで言葉を切ると、声色を深刻そうにかえる。
「ただし注意して欲しいのは、この金色ツバメが【5回校庭を回るまでに撃ち落とす】こと。
もし、校庭を5周するまでに撃ち落とさないと、魔法で出来たこの金色ツバメは消滅するよう作られています。つまり、試験はスピード感も求められている事をお忘れなく」
聞いていた、リステアは独り言のように試験の狙いを推察する。
「なるほどね、これは魔法攻撃の基本。【魔法を一点に集中させる能力】と、それを【素早く正確に敵にぶつける能力】を見るための試験なのね」
そして、試験官は試験について最後にこう付け加える。
「要は、水でも炎でも圧縮した魔力でも、使い魔でも魔法攻撃が当たれば鳥は落っこちる仕組みです。よって、どんな方法で落っことしても合格判定となります」
「いろんなタイプの魔法使いに対応した、処置なわけね」
リステアは籠に入れられた、金色のツバメをじっと凝視する。
《じー……》
「……んー。まさかこの金色ツバメ、変な小細工してないでしょうね。」
「……もちろんです。」
その時だった──。
《ゴーン!ゴーン!ゴーン!》
校庭の時計塔の鐘が辺りに響く。その音に驚いて、一同はつい時計塔の方へ目が行ってしまう。
「……さあ、時間です。それでは、試験を始めて下さい!」
試験官は審判の時間だとばかりに、声を張り上げた。
女理事長のトレメインはカリナの様子をうかがいながら、こんな風にほくそ笑む。
『さあ、カリナ•オルデウス。私の仕掛けたトラップを乗り越えることが出来るかしら?』
カリナは、試験官の声に緊張しつつも、魔法の杖を構える。
スタンバイしていた、試験官は鳥籠のドアを勢いよく開け放ち、籠から放たれた魔法の金色ツバメは弾丸のように飛び出し、校庭の上空を急上昇していった。
《ピィーッ!!》
ツバメは鋭く鳴きながら悠然と、しかし黄金の風のように目にも止まらぬ速さで空を切り裂いていった。
──残り4周。
頭上はるか空高く、高速で飛ぶ金色のツバメ、カリナは、緊張と焦りで魔法の杖が震えてきてしまう。
『だめ……。金色ツバメは思ったよりもずっと高くて速い。目で追いきれない』
そんなことを考えているうちに、ツバメは飛び去ってしまい、既に2周目にはいる。
──残り3周。
『どうしよう……どうしよう!狙いが定まらない!』
もう、2周目の半分に入りかけている。
『……そうだ!ツバメは雨の日に低く飛ぶんだ!』
野生のツバメは本来、雨が降りそうになると、上空の湿った空気を嫌い、低空を飛ぶと言われている。カリナは、たった今それを思い出したのだ。
『今日は湿度が高い。あのツバメも本物のツバメを元に作られているなら、今日は低空で飛ぶ!!……必ず下に降りてくるはず!』
とうとう、金色ツバメの旋回は3周目に入りはじめる。
──残り2周。
『わたしが、しなければいけないのは!ツバメが飛びそうな、低い位置を狙って攻撃する!!』
カリナはそこで、素早く詠唱を開始する。
「輝くプロメア、
我と我が身に顕現せよ
汝の力、命運を刻み
咎人の頭上に普く降り注げ
閃光、果てなく! 」
金色ツバメは何周か飛ぶうち羽につく水滴を嫌ったのか、2周半ほどで低く飛ぶコースに急降下をはじめようとしていた。
カリナはそれを見逃さない、魔法の杖を一気に振り下ろし、魔法攻撃をお見舞いした。
「ライトニングアロー!!」
《シュババッッ!!!》
杖から放たれた、光の矢は容赦なく、金色ツバメを襲う。
この光の矢のような攻撃魔法は、丁度のタイミングで滑空する金色ツバメを猛追していく。
《ピィィィ!!》
金色ツバメは魔法攻撃に気づくと、回避の高速飛行を始め苦しそうに鳴き声を上げる。
光の矢はぐんぐんとスピードを早め、ツバメの横腹にクリーンヒットした。
《バシッィィ!!!》
「お見事!!やったわね。カリナさん!!」
見ていたリステアも思わず、大声が出てしまう。また中立のはずの他教官も、しまったという感じで、悔しさが滲み出てしまう。
一同は当然、地面に落下するだろうツバメを見ようと、頭上を眺めていた。
しかし、意外な事に一向にツバメは落ちてこない。
何故かこの時、空を飛ぶ金色ツバメは衝撃で失速し僅かながらによろけたものの、地面に落ちることなく飛び続けている。
「……どういう事!?攻撃が当たればツバメは落ちてくるはずよ!……まさか、理事長!……何か卑怯な手を使ったのね!」
女理事長はそんなリステアに、いかにも心外そうな顔をして答える。
「あら、リステア様。人聞きの悪い事を仰られては困ります。攻撃が当たらなかったから落ちなかった。それだけのお話じゃありませんか?」
しかし、そんな誤魔化しはリステアには通用しない。
「そんな訳ないじゃない、あれは攻撃魔法を弾いている……!あんな【防御魔法】学生のこの子たちに破れるワケないじゃない!」
「どういう事なの理事長!」
リステアは激して、理事長に詰め寄る。
「……あら?何をおっしゃっているの?【防御魔法】なんて何を証拠に?」
そう嘘ぶく理事長は、校庭の鐘が轟音を響かせ一同の視線がそちらを向いたスキに、金色ツバメを別物の【防御魔法のかかった金色ツバメ】にすり替えさせていたのだった。
『ふふ……どうする?カリナ・オルデウスさん。あと一周すれば、魔法で作った金色ツバメは消えて証拠も無くなってしまうわよ……。』
──残り一周。
ツバメの旋回もあと一周を残すのみ。一同は焦りと安堵で手に汗にぎっていた。
『……どうしよう。防御魔法破りの魔法は、高度すぎて今のわたしには使えない……!!』
カリナも焦り、無駄だと分かりつつ、もう一度の魔法攻撃をしようと構えた。
──その瞬間、一つの影が猛烈な勢いで中庭の空に飛び込んでくる。
それは、一羽の鳩で、矢のように金色ツバメを追っている。
「あれは!!わたしの鳩!」
カリナは思わず叫んだ。
その鳩が金色ツバメを体当たり攻撃し、金色ツバメはそのまま校庭へ落下していった。
理事長は、予想しなかった急な展開に焦り出す。
『なに?どういう事?!カリナに使い魔がいるなんて聞いていないわ……!』
リステアは落下したツバメを拾うと、理事長に鼻先に突き付ける。そして威圧する様に事の次第を尋ねた。
「どういう事かしら?この金色ツバメは【防御魔法】がかけられている。防御魔法を魔法で破壊するのは【高等魔法】でしょ?
それこそ、AAAの魔法使いの領域よ。学生の扱える範囲を逸脱しているわ。」
リステアは、どういう事かと理事長に詰め寄る。
「理事長まさかと思いますが、ワザと試験で落とす為こんなテストをした訳じゃないわよね。」
リステアはそう言って、さらに理事長を追い詰めた。
「ねえ、理事長。それって魔法教育倫理委員会はどう思うかしら?」
『……くっ!』
理事長は、悔しそうに心の中で歯噛みする。しかし長年学校運営に携わる、その老獪さで直ぐに言い訳を繰り出した。
「あら、ごめんなさいね。何かの手違いで教員試験の課題が紛れていたみたい。
……すぐに、本物の実技試験用の合成動物を用意させるわ。」
慌てて理事長はそう言うと、リステアの追及から逃れた。
そうして、再試験は仕切り直されることになった。
『ありがとう、ピッピ』
カリナは息が上がった自分を落ち着かせるように胸に手を当て、校庭の木に止まる愛鳥に目をやる。そして、心の中で鳩のピッピに感謝を述べた。
こうして、理事長の卑劣な手口はバレてしまい不正は行われなくなった。
そのおかげで、ゾエも危なげなく魔法試験に合格し、二人は晴れて魔法学校に入学する事ができるのだった。
あとがき
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