92章 魔法学校編
89.章 再試験
「ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございました!!」
カリナは魔術協会書記のリステアに、深く、深くお辞儀をした。
「……いいのよ、そんな気にしなくて。
それより、例の事、よ、ろ、し、く♡」
「はい!先生に会わせる……事ですね。」
カリナは、リステアさんにあの師匠を会わせて、彼女が失望しなければ良いなと祈る事しか出来なかった。
「じゃ、ちょっと待ってて♬」
上機嫌でそう言うと、リステアは入学許可の書類を取りに行ってくれた。カリナはそれを校庭のベンチで待つ事になっていた。
そうして待っていると、何やら校門の辺りが騒がしい。
どうも学生風の女の子と、守衛のオジサンが何やら揉めている様子だ。
「……そんな!わたし、再試験をするって言われて田舎から1日半かけて、この学校に来たんです!今更、手違いで帰れと言われても……!」
「そう言われてもねえ。こちらは再試験中止の書類は、そちらに送ったはずだし…。」
「そんな……!」
「そもそも、書類が行き違いになる様な、ド田舎から、はるばる来られても…。」
「でも、本試験で魔法の杖が壊れていたから……。それで何とか不公平を訴えて、再試験をしてもらうって話しだったのに…!
「そう言われてもねぇ。まあ不服があるんだったら、魔法裁判所にでも訴えてよ。まあ、判決が出るのは、いつになるかわからないけど。」
魔法裁判所と聞いて、女の子はハッと絶望的な表情をする。
「魔法裁判所なんて…!判決が出るまで何年かかると思ってるんです!
……私は今、この学校に入学出来ないと、魔法の勉強が出来ないんです!!」
それを聞いて、門番のオヤジは女の子に、諭すようになだめる。
「まあ、諦めなよ。……今から、他の学校に編入した方が余程利口だと、俺は思うけどね。」
守衛のオヤジはそう言って、この学生風の女の子を追い出そうと手にした槌矛で行く手を阻んだ。
「そんなお金があったら、こんな遠い学校を受験しません!……この学校が、唯一の公立の魔法学校だって言うのに…。」
女の子はこの理不尽な対応に、今にも泣き出しそうだ。
「あのー、……ちょっといいですか?」
そう声をかけられ、守衛のオヤジは急に出てきた、カリナを睨みつけた。
「なんだ、お前こいつのお仲間か?とにかく、これ以上の問答は無用だ!ほら、帰った!帰った!」
そう言うと、守衛のオヤジは強引に槌矛で、女の子とカリナを門から押し出そうとする。
「……きゃ!痛い!」
そこに、先程の書記のリステアが戻ってきて、揉めているカリナを見つけてくれた。
「……あ!!カシウス様の弟子の子、探したのよ!」
そう言って魔法協会書記のリステアがカリナに駆け寄った。
「これは、魔法協会書記のリステア様、この不審者とお知り合いですか?」
「不審者ですって!この子はとーーっても将来有望な生徒なのよ!悪いけど、気安く触らないでもらえる?」
「は……はあ。」
そう言うと、守衛の親父はカリナ達を押さえつけていた、槌矛を下ろした。
『守衛のおじさんの態度が変わった。リステアさんって、やっぱり、凄い偉い人なんだ…』
カリナはそう思いながら、このお姉さんに関心していた。
しばらくして、みんなで近くのベンチに腰を下ろし、泣き出してしまった、女の子を落ち着かせる。
そうしてようやく女の子が落ち着くと、カリナとリステアは事情を聞くことにした。
「……ごめんね。話しを立ち聞きしちゃって。わたしは、カリナ・オルデウス。良かったら事情を聞いてもいい?」
そうカリナが、自己紹介をすると、泣いていた女の子は、おどおどと話し出す。
「……こちらこそ、助けていただいて。わたしは……ゾエ・エランっていいます。……ヘンビ村っていう田舎から、再試験を受けに来ました」
女の子は完全に落ち着くと、カリナと書記のお姉さんに、事情をぽつりぽつりと、話してくれる。
「入学試験で、試験用の魔法の杖が、壊れてしまっていて……。再試験を受ける事になったんです。
でも、いざ試験を受けに学校へ来たら……あんな風に門前払いを受けてしまって……。」
話しているうちに、女の子の声が、また涙で滲んでくる。
「もう再試験出来ない。……入学出来ないって言われて。家族に無理を言って入学試験を受けさせてもらったのに。……わたし…わたし、どうすれば良いか……」
それを聞いて、カリナと書記のお姉さんは、大いにゾエに同情した。
「酷い…!そんなの許せない」
カリナはゾエ・エランの話しを聞き終わると、そんな学校の態度に憤る。
この話しを聞いて、書記のリステアは自らの学生時代、苦労して魔法学校へ入学した事を思い出していた。
まだまだ、女の子が魔法の勉強するのは難しい時代、リステア自身にも思う所があった。
この時世、どうせ女の子は嫁いで、すぐ実家からいなくなる。お金をかけても無駄と思う家庭は多く、女子に学問は必要無いと思われていた。
それは、特に貧い下層階級に顕著だった。
従来、魔法は女子の方が神秘体験をしやすいため、太古の昔は女子の方が魔法技術に向いていると考えられていた。
しかし近世に入り、魔法も体系的な学問として研究され出すと、やはり社会的に男子学生の方が有利になっていき、魔法学校としても男子学生の定員が多くとられるようになっていった。
そんなわけで、苦学するゾエの気持ちが、リステアにも覚えがあった。
「お姉さんに任せて、必ず力になってあげるから!」
書記のリステアは力強くそう答えると、学校に抗議してくれると約束してくれた。
そうして義憤に駆られた三人は、再び理事長室に乗り込むことにした。
────
「なるほど、事情は分かりました。」
マジック・マウント魔法学校の女理事長はそう静かに答えた。
「本試験中に魔法の杖が壊れていたという訴えが受験生からあったと、確かにこちらにも報告が上がっています。」
「しかし、担当試験官はその様な事実はないと確認していますし、その旨の通知もそちらに通知しました。よって─」
この言葉に、ゾエはショックを受けて声をあらげる。
「事実は無いって……。そんな…酷い!……信じてもらえ無いんですか……!」
「……そうです。どちらかが嘘をついている。しかしそれを確かめる術は、我々に有りません。
なので貴女には申し訳無いのですが、当校としては、不合格という対応をさせていただくより、他有りません。」
「……酷い…。」
そう呟くと、ゾエは泣き出してしまった。カリナはたまらず、理事長に訴える。
「待って下さい!……それじゃあんまりです!
もしその試験官の人が、嘘をついていたらどうするんですか?!」
そこへ協会書記のリステアも、援護をする。
「この子のいう通りです。その言い草では、学校側の落ち度も、突っぱねれば無かった事になってしまいます。それじゃ不正のし放題。引いてはこの学校の信用問題になりますよ!」
協会書記のリステアの一言に、魔法学校の理事長は眉根を上げる。
そうして魔法協会書記のリステアは言葉を重ねる。
「信用問題となれば──魔法協会としても、調査を──。」
書記のリステアはそう言いかけると、理事長は観念した様に口を開いた。
「わかりました。処分を再考しましょう。」
この言葉に、泣いていたゾエもカリナもホッと安堵する。
「……では改めて、再試験をする。それでよろしいですか?魔法協会書記のリステア様──」
そう言って、書記のリステアに念を押す。
「……ええ。ご対応、ありがとうございます。」
しかし、理事長はカリナとゾエを前に、改めて言葉を重ねる。
「──ただし、条件があります。」
そう言って、理事長は一呼吸あける。
「カリナ・オルデウスさん。──貴女も、その再試験を受けてもらいます。」
「……えっ!?」
当惑する3人をよそに、理事長は話しを続ける。
「もちろん。カリナさんあなたが、この再試験に不合格ならば、
同校の入学相当の実力不足として、入学許可を【取り消し】にさせてもらいます。」
協会書記のリステアは慌てて、声を上げる。
「……なんですって!そんな条件、カリナさんが受けるわけ無いでしょ!」
そう言って、書記のリステアは理事長の無理難題に抗議した。
「だって、その仮試験に不合格になったら、せっかく合格したカリナさんまで、不合格になるじゃ無い!」
「そうです。そもそも、入学枠は一つしかないんです。無理を通すのであればそのくらいの、理不尽は飲んでもらいませんと。」
理事長はそう言って書記のリステアに向き直り、釘をさす。
「そもそも、リステア様。魔法協会の書記といえども、これ以上強権を振るって無理を通すなら、出るところに出て訴えを起こします」
そう言って、書記のリステアに脅しを重ねる。
「貴女だって、現協会長のマーリン様はじめ、副会長も揉め事は、お嫌いなのを知っていらっしゃるでしょう?」
「………!」
それを聞いて、書記のリステアはぐぐっと言い淀んだ。
「では、どうします?カリナ・オルデウスさん。貴女もふくめて、お二人で再試験を受ける。その条件なら、ゾエ・エランさんの再試験を実施しましょう」
理事長は、あらためてカリナの意思を確認する。
「…………。」
カリナの表情を読みながら、理事長は思いを巡らせる。
『さぁ、どうする?カリナ・オルデウスさん。自分が不合格になるかもしれないのに、この子──ゾエ・エランをあなた、助けられるかしら?』
カリナはそんな計略を知ってか知らずか、これに即答する。
「わかりました。わたしも再試験を受けます。」
「そう。──ご立派ね。でも、もし不合格なら、入学は取り消しという条件は、守ってもらうわ」
「もちろんです。でも、わたし達2人がどちらも合格したら、2人とも入学を許可して下さいね。」
「ええ、もちろん。約束は守るわ」
そう言って、理事長は魔法の契約書を取り出した。
こうして、カリナとゾエは入学をかけて、マジック・マウント魔法学校の入学試験に再び挑むことになった。
『──本当に馬鹿な子。あなたの様な不穏分子を、我が校に入学なんてさせないわ。
どんな手を使ってもね──』
そう思いながら、理事長トレメインは独りほくそ笑んだ。
あとがき
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