9章〜11章 外伝
9.章 大勝負
ある晴れた日の正午過ぎ、ダノス家伯爵邸において、カリナの人生を賭けた、『ゲーム』がスタートする。
「何なの、この局面での妙な駒の動き。この子、全然セオリーを守らないのね。」
伯爵令嬢のオンファレは、チェスの盤面を眺めながら、少考する。
カリナは少し、退屈そうにアクビをすると、お嬢様に尋ねる。
「お茶を、もらっても良いですか?」
『…えっ?何なのこの子、余裕あるの?』
オンファレお嬢様は、カリナの余裕に押されて、動揺してしまう。
しばらくの間、2人が駒を動かす、カチャ、カチャという音だけが、談話室に響く。
─次第に、暮れていく、陽光。
余裕のあった、オンファーレお嬢様の表情が、焦りから、憂鬱に変わり、
諦めに到達すると、勝負は決した。
─カリナは、お嬢様との賭けに勝った。
「……あー、……負けたわ。良いわ、この男は好きにしなさい。」
お嬢様は少し悔しそうに、魔導士カシウスを指差す。
やったーと師匠が喜ぶものの、カリナは平然と言い放つ。
「そんなクズ野朗はいりません。」
魔導士カシウスは一瞬、えっと止まった。
「わたしが要求するのは、『元婚約者の奴隷、クレス様』です。」
それを聞いて、オンファレお嬢様は、急に焦りだす。
「……えっ!それはダメ!絶対、ダメよ!」
お嬢様の焦りをよそに、カリナは超然と言い放つ。
「何でもいう事を聞くと、言いました。」
カリナはそう一言いうと、こう切り返してくる。
「それでは、わたしに賭けで勝って下さい。」
「賭けるのは、あなた自身。それなら勝負を受けます。」
オンファレお嬢様は少しの躊躇いもなく、言葉を返す。
「……分かったわ。クレスは絶対に渡さないわ。」
こうして、お互いの人生を賭けたチェス勝負が再び、開かれる事になった。
10.章 ゆずれない想い
再び『魔法の契約書』を交わすと、第二回目の勝負がはじまる。
「あのー。……本…読んでも大丈夫ですか?
あと、喉乾いたのでお茶も、いただきたいんですが…」
カリナはそう言って、お嬢様にお願いする。
「はぁ!?何なのこの子…!こんな勝負しといて本読みたいですって!?
どれだけ、余裕なのよ…!?」
お嬢様はそう言って、驚愕した。
そうこうしている内に、あたりは暗くなってくる。
伯爵令嬢のオンファレは額に、手をやりながら難しい盤面で苦悩している。
─そして、カリナはまたしても、お嬢様との勝負に勝つ。
そして、カリナはオンファレ嬢に言い放つ。
「これで、オンファレ様は、わたしの奴隷です。ちゃんと『魔法の契約書』を交わしたので正式な取り引きです。
今後、わたしのお世話をして下さいね。」
「そうそう、男奴隷のクレスさんは、わたしの物なので、
ラブラブなところを、オンファレお嬢様に見せつけちゃおうかなぁ。」
「手はじめに、キスしちゃうとか…どうですか?」
そう言って、カリナはクレスの手を取る。
「……そんなの許さないから!クレスは私の婚約者なのよ。」
カリナの挑発は、なおも続く。
「今更、なにを言っても無駄ですよ。それとも、お嬢様はクレス様が好きなんですか?」
「……す…好きよ!!……なによ、悪い!?」
「へー……。みんなの前では、素直じゃなかったんですねぇ。
でも、今更、お、そ、い。」
「2人とも、わたしの奴隷です。」
オンファレお嬢様は、これを聞いて怒りで顔を赤くした。
そこに、師匠のカシウスが割って、話しかける。
「カリナちゃん、カリナちゃん。忘れてない?…そろそろ師匠の私も助けて。」
「えー…。先生は自業自得なのでどうしようかなー?」
そんな冗談を言いながらも、カリナは態度をあらため、オンファレお嬢様に申し付ける。
「コホン。……では、オンファレお嬢様のお父様を呼んで来て下さい。」
ことの次第を話すと、オンファレ嬢の父親、ダノス氏は憔悴する。そして、切実に訴えた。
「どうか頼む、大切なひとり娘を返して欲しい。」
「そうですね。では、わたしとチェス勝負してもらえますか?あなたの、……全財産を賭けて。」
「…………。」
ダノス氏は狼狽しながらも、娘可愛さで決断する。
「……いいでしょう、お受けします。」
ダノス氏は了承しながらも、条件をつける。
「ただし、私の代わりに、この国1番のチェス名人、ダニカン先生が対局します。」
「分かりました、娘さんを賭けて勝負ですね。望むところです。いつでも良いですよー♪」
聞いていた、師匠のカシウスはたまらず、カリナに話しかける。
「カリナちゃんずいぶん、馬鹿勝ちしてるけど、そろそろ止めた方が良いんじゃない?」
魔導士は、不安でおろおろしている。
「いくらカリナちゃんが強くても、…相手は国1番の名人だよ。」
しかし、カリナは意外なほど冷静にしており、自信を持って挑んでいる様子だ。
「大丈夫です、とりあえず様子を見ましょう。」
オンファレお嬢様は、怒りで頭に血が昇っていたが、
名人が代わりに勝負すると聞いて、少し安心したようだ。
『この国1番の名人、ダニカン先生なら絶対に勝てるわ…。』
オンファレ嬢は、冷静になり余裕の笑みを見せる。
『ダニカン先生は、ユーラ大陸の世界大会でも、上位の実力者なのよ。
いくら貴女が強くても、勝てるわけないわ。』
『もしそんな実力がこの子にあれば、とっくにチェスの世界で有名人になってる、ハズだもの。』
お嬢様はそう考えていた。
「すみません、お夕飯を頂いてもよろしいですか?」
オンファレお嬢様は、この発言に驚愕する。
「…何考えるのよ、相手はダニカン先生なのよ!そんな悠長な事してたら勝てないわよ。」
「…うーん。でもお腹空いたし。」
このようにして、オンファレ嬢の父親の代わりに、チェス名人のダニカンが勝負をする事になった。
急いで呼びつけられた、名人のダニカンは冷静に、カリナと対局をはじめる。
はじめ名人と対峙した際は、流石にカリナも緊張したようだった。
しかし、試合が進むにつれ、また余裕が戻ってくる。
「お茶とお菓子をいただいてもよろしいですか?」
名人は冷静な対局だったが、次第に焦りを見せ、駒を動かす手が荒くなる。
カリナの、何を考えているのかわからない態度にも、名人は苛立ったようだ。
─2時間半後。
「…私の…負けだ…」
名人のダニカンはそう言って、自分の負けを認めた。
なんと、国1番の名人ダニカンに、カリナはまたしても、勝利するのだった。
カリナは、一同に宣言する。
「………では、この家の財産も、事業も、みんな、わたしのモノです。」
そこまで言うと、クレスに向きなおる。
「でも、商会の運営も荘園管理もわたしの専門外です。……なので、全ての財産は奴隷のクレス様に管理を任せます。
利益の数パーセントを送って下さい。」
そして、クレス以外の全員に向かって話す。
「送られた利益以外は、お給料として、皆さんで平等に分けて、受け取ってください。」
カリナは、ここまで言うと言葉を切った。
「魔法の契約書を交わすので、ちゃんと守って下さいね。」
カリナは、その場の全員に向かって宣言する。
「という事で、皆さんは今まで通りに、働いて暮らして行って下さい。」
「そうそう、奴隷のクレス様のご両親と財産も買い戻します。やり方など、そこら辺はお任せします。」
それを聞いて、オンファレお嬢様は仰天する。
「えっ…!何なのその契約!」
「…あの、不満でしたか?」
「…だって、それじゃあんまり意味ないじゃない!」
「…それって、私達に有利すぎない?」
それでは…と、カリナは少し考え言葉をつけ加えた。
「じゃ、ペナルティを増やします。オンファレお嬢様が、素直になる事。特に、クレス様に対して。
あと、みんなに優しくする事を条件にします。」
カリナは呆然とする、聴衆に挨拶をすると、帰り支度をする。
「それでは、ご機嫌よう。あと、変態魔導士は、回収していきます。ご迷惑をお掛けするといけないので。」
そう言って、魔導士を引っ張るようにして、帰って行った。
11.章 種明かし
帰りの道すがら、師匠のカシウスが、カリナに尋ねる。
「……あ!あのチェス盤、もらってきたの?」
「はい。楽しそうだったので。」
「カリナ、何でそんなチェス強いの?」
「ふふっ……。知りたいですか?」
カリナは、含みのある笑みを見せる。
「実はこの家にあった『チェス盤』、ただの豪華な『チェス盤』に見えますが、大昔の魔具なんです。」
カリナはそう言ってチェス盤を持ち上げ、説明をはじめる。
「これは『いかさまチェス盤』と言って、魔力をセットすると、必ず黒が勝つように出来ているんです。
それさえ知っていれば、勝つのは簡単。」
そうしてチェスの駒を見せる。
「ちなみに黒を万が一取られても、イカサマな事を知っていれば、白と黒を魔法で入れ替える事が出来るので、簡単なわけです。」
それを聞いて、師匠は素直に感心する。
「よくそんな、マニアックな魔具知ってたね。」
「魔法知識だけは自信あるんです。」
カリナは、師匠に感心されて得意げだ。
「しかし、カリナもコレで大金持ちか…。全く羨ましい…」
師匠は、そうボヤく。
「何、言っているんですか!」
カリナは、慌てて言い返す。
「クレス様達が、ちゃんと結婚したら、財産はもちろんお返ししますよ」
「…えー。もったいない!」
カリナは、思い出したとばかりに、言葉を付け足す。
「あと先生、今後、奴隷になるといけないので、ツケでの女遊びは禁止です。」
「えー!」
そう言われ、魔導士は不満の声を上げた。
あとがき
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「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!!」
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