35話〜36話
35.章 魔導士カシウス
古くから、船乗りや漁師などに伝わる、禁忌にこんなものがある。
赤月がぽっかりと浮かぶ、暗い海を見ていたら、
海の幻獣に魅入られ、海に引きずり込まれてしまう。
吸い込まれそうな暗い海に、船の軌跡、白波だけが筋をつける。
カリナ•オルデウスは、ものめずらしげに、それを見ていた。
境目を失った水平線と空は、全てを、地獄の深淵のように吸い寄せてしまう。
特に、この海峡はセイレーンの領域。迂闊に海を見ていては、いけなかったのだ。
─漆黒にうかぶ、赤い月に照らされ、黒い影がつぶやく。
「全ては動き出した。そろそろハルトに挨拶をしなければね。」
カリナは驚いて、声の方を見た。
『こんな乗客の人いたかしら?』
「こんばんは、お嬢さん」
そう言って、ひとりの人物は、
月明かりの前にすすみ出た。
そこには、魔導士のローブをまとう、上背の高い、男性がいた。歳はカリナと同じ歳くらいだろうか。
栗色の髪に真ん中分けの前髪、指で眼鏡を押さえている。
眼鏡の奥の瞳は、一見紳士を装っているが、隠し切れない、ズルさと、残忍さを秘めていた。
男は魔法の杖を握っている。
『あれ?この、杖の紋章?』
「逆さユリに双蛇の紋章、ウチの家紋と同じ?」
カリナは少し驚いて言った。
「もしかして、ウチのご親戚…オルデウスの一族の方ですか?」
「おっと…そうだった。私の名前はカシウス•オルデウス。そうだね、君の血族だよ。」
カリナはその名前に驚く。
「カシウスって、伝説の魔導士、白黒魔法を自在に操り、全ての魔導、魔術、死霊術、召喚を納めた方。
古の魔王を封印した、初代オルデウス公様と同じ名前ですね。」
魔導士はカリナの質問には答えない。
「ふふっ。輪環の腕輪が役に立って良かった。」
そう言ってカリナの頭を撫でた。
「ハルトとは上手くやってるかい?」
「え?誰ですか?」
「…そうだね。魔王かな。」
「はい。魔王様はとっても優しい人です。」
「とりあえず、今は挨拶だけ。」
そう言ってカリナに赤い小瓶を持たせる。
「えっと…あのっ。」
「見てごらん、赤い月。」
カリナの瞳に、血のように赤い月が浮かぶ。
月に魅入られたカリナは答える。
「…はい。」
36.章 使い魔
カリナは暗い甲板から明るい部屋に、帰ってきた。
そして明らかに、様子がおかしい。
顔は紅潮して、なんだか表情もトロンとしている。
「具合でも悪いのか?」
声をかけてみる。
魔王は不穏な雰囲気を察した。
カリナはそれには答えず、上着を脱ぎ、床にはらりと落とした。
おい、と近づくと、
息遣いが、荒くてエロい。
「魔王さま…」
カリナは寝室で、魔王を誘う。
「なっ…!」
魔王の手を握って、自分の胸に押しあてる。
「もっとわたしに触れて欲しいです。」
「おい!大丈夫か?」
「わたし、そんなに魅力ないですか?」
「どうした…?」
「それとも、こんな……いやらしい子、嫌いになっちゃいましたか…?」
カリナは涙を溜めて魔王をみる。
彼女の短く、荒い息づかいが、聞こえる。
嫌いとか…!
最高…じゃないか……。
ふわりとした、甘い髪の匂いが、する。
「魔王さま、すき…です。」
カリナは顔を真っ赤にしながら、おずおずといった。
「もっと、わたしをかわいがって…欲しいです。」
かわいい。
ほんとうに…かわいい。
細い折れそうな腰を抱くと、
カリナは目を潤ませながらこちらを見返す。
「もっと、ギュッとして下さい。」
さすがに、これ以上、チカラを入れたら折れてしまいそうだ。
唇がちかづき…触れあうと、
「んっ…んっ…。」
すこし、強引なキスをした。
ぢゅーとムード無く、吸い込むと、中から何かを引っ張りだ出した。
それらは、もくもくと、たちのぼり、エクトプラズムが現れた。
その形のない雲から、サキュバスが形作られていく。
「やっぱり、な。」
悪いが、うちの嫁は異性として、我に興味がないんだよ!(言ってて悲しくなるわ!)
一連のカリナの奇行は、サキュバスに操られていたゆえのものだった。
悪びれることもない、幼体サキュバス。
あかんべーをすると。
「ふん!魔王め、また来てやる!」
そう言って去って行った。
「もうくるなっ(怒)!」(…また来て待ってる♡)
カリナは何事も無かったように、すやすやと寝息をたてている。
「魔王さま…あそこに魔術書が…むにゃむにゃ。」
魔王は昨夜の事を考えて、ひとり思案していた。
『昨日のアレは、明らかにおかしい…。』
『こんな海洋の真ん中に、サキュバスがいるわけがない。
あとがき
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