33話〜34話
33.章 同衾
こうして、船に大いに貢献した、カリナに敬意を表して、特級の貴賓室を、空けてもらえる事になった。
そして、魔王とカリナは同じ船室に通されてしまう。
ひとつしかない、ベットにうろたえる魔王。
そりゃそうだろう、乗船交渉の際に、夫婦と言ったんだから。
魔王は思う、だから交渉の時に兄妹だと言おうとしたのに。
しかし、カリナはいそいそと、寝巻きに着替えると、安心してベットに潜り込み、すーぴーと寝てしまう。
信用されてることを喜べは良いのか、異性として見られてないことを悲しめばいいのか。
あまりに意識されないと、それはそれで男として悔しくもある。
戯れにキスでもしてやれと近づくと。
寝言で、こう呟く。
「魔王さま、助けてくれてありがとう…むにゃむにゃ。」
魔王はコレを聞くと、
脱力して、結局、何も出来ずに寝てしまった。
34.章 病弱な少女ククル
──翌日。
穏やかな午後の航海で、カリナは船のデッキで魔術書を読み返していた。
「うーん…。どうして魔法が使えなくなっちゃったんだろう。
本に書いてある事は、何回も試したのに…」
──しばらくすると、乗客の中の咳をしていた、病気の女の子の叫び声と、その母親の声が聞こえる。
「ククル!お薬を飲みなさい!」
「苦いお薬なんか、飲まないもん!」
「そんなの飲んだって、全然治らない。…むしろ、どんどん痛くなってる!苦しくなってる!」
母親と女の子は、ケンカをしているようで、女の子は癇癪をこじらせ、大声をあげている。
「お母さんなんか、大っ嫌い!!」
「ククル!」
ククルと呼ばれた女の子は、猛スピードでこちらに向かって走ってきた。
そうして猛スピードの女の子と、カリナは盛大に、ぶつかってしまう。
「きゃ!!」
「いたーい!」
カリナはハッと気づき、女の子を心配して声をかける。
「…大丈夫?ごめんね。怪我はない?」
しかし、女の子はカリナに悪態をつく。
「……お姉ちゃん、どこ見ているの?どん臭いな!」
ククルの母親は、カリナに平謝りだ。
「本当にすみません、あの子が失礼を…」
「大丈夫ですよ。わたしがよく見ていなかったせいですから」
「あ…!」
目を離したスキに、ククルはカリナの本にイタズラをする。
いつの間にか、カリナの魔法の本はククルによって、クレヨンで落書きをされていた。
「ククル!!!」
ククルは悪びれる様子もなく、あかんべーをする。
ククルは、ぶつかった時にカリナが落とした、人形を拾い上げる。
「なにこの人形、ネズミ?」
「あっ!その人形は…!」
カリナは慌てて、その人形を返してもらおうと、ククルに懇願する。
「お願い返して!それは、本当に、本当に、大切なお人形なの…」
ククルは意地悪そうにカリナを見る。
「ふーん、こんな不細工な人形が…?」
ククルは少し考えると。
「いーらない!」
ククルはそう言うと、人形を海にポイと投げ捨ててしまう。
「……あっ…だめ…!!」
カリナは間一髪、手を伸ばし、人形を捕まえた。
しかし、バランスを崩し、海に落っこちそうになる。
「…きゃ!」
間一髪、魔王が、カリナの腕を捕まえた。
「…大丈夫か?」
カリナは人形を大事そうに抱くと、魔王にお礼を言った。
「魔王様……ありがとうございます」
ククルの母親は、それを受けて、ククルをキツく叱る。
「ククル!」
しかし、ククルは悪態をつき、言い返す。
「みんな、大っ嫌い!!べーだ!」
そう言って、どこかへ走り去ってしまった。
──しばらくして、
カリナやククルの両親は、逃げ出したククルを、心配して探している。
狭い船内だと言うのに、なかなか見つからない。
─ククルは、どこへ行ったのか。
耳を澄ますと、ゴホゴホと胸の悪そうな咳が、遠くから聞こえてくる。
咳は…食料倉庫から響いてきた。
船室の底、薄暗い貯蔵庫にククルは、ひざを抱えて座っている。
カリナはようやく、ひとりでいるククルを見つけることができて、ホッとした。
カリナはククルに声をかけた。
「…ククル、もう誰も怒っていないよ」
「だから、帰りましょう。すごく、お父さんとお母さんが心配しているわ。」
そう言って近づくと、ククルはさっと手を隠した。
カリナが何事かと、手のひらを開かせると、鮮血──。
「ククルっ!喀血しているじゃないっ…!」
「………。」
「この事は、お母さんは知ってるの?」
「………知んない」
「どうして、黙ってたの?」
「だって、お母さんたちが悲しむから…」
そう言ってククルはうつむいた。
『この子は、本当はすごく優しい子なんだ…。』
カリナはそう思うと、つまらないイタズラも愛おしく感じた。
「痛いの……我慢してたんだね。……偉いね」
「…………うん。」
カリナはそう言って、ククルに優しく寄り添った。
「どうして、ワザと嫌われることをしているの?」
「だって…ククルどうせ死んじゃうんだもん。」
「みんなに嫌われれば、ククルが死んでも悲しまないでしょ。」
カリナはククルの、気持ちを思うと、心が痛んだ。
少し思案して、ククルに尋ねる。
「ククルは本当に……それでいいの?」
「………。」
「……やだ。」
「…ひとりぼっちで死にたくない。」
「…本当は……みんなに忘れて欲しくない。」
そう言ってククルの瞳に、涙の膜が張る。
「……ぐずっ…。」
「きっと…お父さんも、お母さんもククルが死んだら、きっと…すぐ忘れちゃう。」
「お姉ちゃんだって、きっと…!」
そう言って、涙をこぼした。
「…ぐずっ……ぐずっ…うわぁぁん……!」
この女の子は、強がっているだけで本当はすごく不安なのだ。カリナはそう思った。
カリナは、ククルを落ち着かせるように、背中をさする。
小さな女の子が、自分の死を意識しながら、懸命にその恐怖と戦っていることに、カリナは胸を痛めた。
「ククル、ねずみの幽霊って知ってる?」
「…ぐずっ…ぐずっ…知んない。」
カリナはどうにか、この女の子の気持ちを和ませようと、話しを続ける。
「わたしが、子供の頃ね。すごく叱られて、倉庫に閉じ込められた時に、ねずみの幽霊さんに会ったことがあるんだよ。」
「ねずみの幽霊さんはね、それでね。わたしに、さっきの人形をくれたんだよ。」
「…ぐずっ…ぐずっ……なにそれ。…変な話し。」
「ほんと変な話だよね。」
「でもね。ねずみさんが、言ってくれたの。
お前が思うより、お前は弱くない。
でも思うほど強くもない。
だから、今はそばにいてやる。
ずっとじゃない。
ずっとなんて誰もお前にしてやれない。
いつかは、ひとりになる。
でも、ひとりでも歩いて行ける。
迷子になったら思い出せ、
お前はひとりでも歩ける、
って。」
「ぐずっ…そんなの、イミわかんない。」
「ふふっ…。そうだね」
カリナは手のひらに小さな、ねずみのぬいぐるみを乗せて、少し逡巡する。
そして、意を決してこう切り出した。
「はい!この人形あげる!」
そう言って、ククルに人形を手渡した。
「コレはね、その時の人形。4歳の時にねずみさんから、もらった。ずっと…一緒だった人形。」
ククルは人形をまじまじと見つめていた。
「ぐずっ…ぐずっ。………もらっていいの?」
ククルは、おそるおそる尋ねる。
「うん。もらって、くれると嬉しい」
カリナは、そう言って満面の笑みで答える。
「…ぐずっ……やっぱりブサイクだね。」
「ふふっ。ほんと、そうだね。でも凄く悲しい時に見ると、すごく面白くて元気が出るんだよ。」
カリナは続ける。
「わたしは、この人形を、絶対に忘れない。
そして、この人形をあげた女の子の事も、絶対に忘れないよ。」
「わたし、ククルのこと、絶対忘れないよ。」
ククルは人形を愛おしそうに抱くと、こう言った。
「ぐずっ…ありがとう、お姉ちゃん…」
そう言ってククルは笑った。
あとがき
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