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ありきたりな異世界転移展開とちょっとした説明回

どうも、有木多利です。

今回は少々長めの説明回になっちゃいました。

くどいかもしれないけれど読んでくれると嬉しいです。

「ようこそ異世界の方々。どうか世界を救ってはくれませんか?」


 その言葉を俺達は素直に受け取ることができなかった。

 それはそうだろう。さっきまでの俺達は交差点にいて、それもトラックに撥ねられる直前だったのだ。

 自分の体をペタペタと触ってみるが、目立つ外傷はなく、目立たない外傷もない。即ち無傷だった。

 現状を把握しようとした俺達は顔を近づけ、声を潜めて話す。


「なあ、俺達ってさっきまでトラックに撥ねられそうだったよな?」


「そうだな。確かそれで眼の前が真っ白になって……」


「私達は交差点にいたはずなのに、今ここにいるのよね」


「ということは、俺達は誘拐でもされたのか?」


「流石にあの状況から生き残るのは厳しいだろ。交差点にあった魔法陣と足元にある魔法陣からして、僕達は異世界召喚ってやつを経験しているかもしれんぞ」


「トラックの説明は難しいわね……。でも異世界っていうのは流石に早計じゃない? 漫画の読みすぎよ」


「でも俺達の眼の前にいるあの銀髪女は『ようこそ異世界の方々』って言ってたぞ」


「そういうお年頃かもしれないじゃない」


 俺達が持ち得る情報を精査しようとしても何も分からず終わってしまう。

 三人揃えば文殊の知恵というものの、文殊では太刀打ちできなそうだった。

 俺達は顔を見合わせた。

 仕方がない、あの少し手持ち無沙汰っぽく振る舞う銀髪女に声を掛けるしかなさそうだと思いそちらをこっそりと伺うと、目が合ってしまった。彼女は俺に向かって微笑んだ。

 非常に美人ではあるのだが、人生で初めて見るような銀髪美少女なのだが、心苦しくも正直に言おう、薄気味悪い。

 健全な男子高校生として、そしてオタクとしては大変好きなタイプの女の子ではあるのだが、状況が狂いすぎていてそれどころではないのだ。

 でもこんな現状を一番理解しているのは彼女だろうから、彼女から話を聞かなければいけないのだろうが話しかけにくい。

 一度こちらに声をかけてきているんだ、きっと友好的ではあるのだろう。

 世界を救ってくれとか言ってたし。

 それにしても、と俺は思う。なんだかこの光景は今朝見た夢に酷似している気がするのだ。

 何か分かるかも、もしかしたら皆同じ夢を見たかもと思って伝えてみる。


「……なんか今の状況、今朝俺が見た夢に似てるんだよなぁ」


「じゃあ僕達はこの後どうなるんだ?」


「この辺で目が覚めたからわかんない」


「そこからが一番肝心だろうが。漣は肝心なところで使えんやつだな」


「いやー、きっと学校がなければ二度寝してたはずだから学校が悪い。更に言えば小夜が起こしに来ないって分かってたら寝てるから小夜が悪いまである」


「ちょっと! 責任転嫁しないでほしいんだけど! それを言うならもっと早く寝てたらもっと長く寝てるだろうから、その先の夢も見れたんじゃないの?」


 結局夢を見ていたのは俺だけだったようで、何の進展もなかった。

 それに、俺達がいつまでも話し合っているため、銀髪女はこちらに割って入ってこられないように見える。

 どことなく不憫だった。


「おい、俺達のこと見てるぞ。きっともっとシリアス寄りにする予定だったのに、お前らが喚くから話が進まないんだ」


「喚いてるのは漣も一緒じゃない」


「いや、あれは僕達を見てるんじゃなくて僕個人を見てるんだな。きっと僕に気があるぞ」


 英介がこんな時にバカなことを言い始めた。バカなので仕方ないがわきまえろよバカ野郎。


「じゃあ口説いてこいよ、美人だし文句ないだろ。ついでに情報貰ってこい」


「そうね、きっとそれがいいわ。彼女もいい加減にソワソワし始めてるし」


「許してよ冗談じゃん。それに冗談言ってなきゃやってられないって」


 お前が行け、いやお前が行けと押し付け合う俺達。しかしダチョウ倶楽部的に挙手が始まることはない。

 俺達の中でそれをやると、一番最初に手を上げた人物が本当に実行しなければならないからだ。

 仕方ないからじゃんけんにしよう、負けたやつが声をかけるんだという方向でなんとか話が纏まり、俺の渾身のグーが無情にも二人のパーに敗北した。


「漣ってじゃんけんマジで弱いよな。いっつも負けてねぇか?」


「まあ今日に限ってはありがたいことなんだけどね」


「……一人に押し付けるのってやっぱり良くないと思う。俺達は幼馴染として苦楽をともにしてきたじゃん? 一緒に声かけようぜ!」


「「いや、マジで無理」」


 というのだから薄情なやつである。

 幼馴染のやりがいのない二人だった。

 俺は他のやつが負けても一緒に声かけようと思ってたのになぁ、こいつらは違ったのかぁ。

 しかしどうやって声を掛けたものか。自慢ではないが人付き合いは特段上手いわけでもないし、ナンパの経験も一度としてない俺にとっては、初対面の女子に声をかけるのは非常に難易度の高いミッションなのだった。


「小夜が声かけたほうが女同士で向こうも気が楽だと思うんですけ――」


「敗者はさっさと行動しなさい」


 と最後まで言わせてもらえず切り捨てられてしまった。

 仕方がない、覚悟を決めよう。どうせ誰かが声を掛けなければいけないのだ。

 ずっと無視されていて部屋の隅でいじけ始めていた銀髪女に俺は近付いた。


「えっと、あの……。あ、今朝、俺と夢の中で会いませんでした?」


「…………。」


「おいおい、ナンパにしちゃ声の掛け方がありきたりすぎるぞ、漣。今どきそんなやついないと思うぜ」


 銀髪女には無視されるわ、英介にダメ出しされるわ散々な結果になったため、今のセリフは俺の中で無かったことにした。

 …………。よし、気を取り直してもう一度。今度は無視されないように肩をたたいて声を掛ける。


「あの〜、すいません。ちょっと状況飲み込めてないので良かったら教えてくれませんか?」


「…………。」


 返事がない。……こいつ、屍じゃないよな?

 今更だが言葉が通じないのでは、いやでも最初にこいつの言った言葉は理解できたよなぁ、と俺が心配し始めていたところ、銀髪女は軽くため息をついてから俺に対して口を開いた。

 そこから発された言語は日本語だった。


「……はぁ。まったく、最初からそうして応じていればいいのですよ……。まぁいいでしょう、お望み通りにあなた方の状況を教えてあげましょうか」


 丁寧な口調なのにどことなくウザさがあった。きっとそれは俺達に待ちぼうけにされたからだろう。

 それくらいで気が晴れるのならば受け入れようと、俺は特に追求することなく彼女に続きを促した。


「あなた達を『ニホン』と呼ばれる場所からこちらの世界に召喚した、ということです。……あぁ、あくまでも転移であって転生ではないので死んではいませんよ? まあとりあえず私としては、あなた達に魔王を倒して世界を救ってほしいのですよ」


 と、それだけ言ってこの女は黙ってしまった。

 俺達は――というか会話を試みているのは俺だけなのだが――続きを心待ちにしていたが、銀髪女は、私はもう説明を終えましたと言わんばかりの顔をしていて、もう口を開きそうになかった。


「え、それだけ? もうちょっと詳しい話が聞きたいんだけど……」


「……あぁ、ここがあなた方にとっての異世界だという証拠がほしいんですよね。……確かニホンの方々は、魔法を見ればここが異世界だと納得してくださるのでしたよね?」


 まるで、疑い深い日本人に対してここが異世界だと何度も納得させたことがあるような口振りだった。

 作業的にそう言った銀髪女は、左手の人差し指だけ上に向けた状態で、その手を俺達の前に出す。

 何の変哲もない、ただの小さくて白い左手だ。

 魔法を見せるという言葉を疑いつつも、俺達は彼女の人差し指を見つめる。

 すると急に銀髪女の指先、具体的には指先から一センチほど離れた空気中に小さな火が灯った。

 何の種もないことは明白だった。いや、厳密には種はあるのだろう。だがそれは魔法という、この世界にとってはきっと当たり前のものなのだ。少なくとも俺達の知っているような類の手品ではないのは確かだ。


「えぇ? これマジ……?」


 俺はこういう時、残念な語彙力が露呈してしまうのだ。


「僕としてはこれも漣の夢の続きならいいと思ってるよ」


「まあでも現実なんでしょうね。少なくとも現実だと思って対処すべきなんでしょうね」


 彼女の対応は雑すぎた。あまりにも雑だった。

 少なくとも俺や英介が夢見ていた(小夜はあまりこういうジャンルに詳しくない)異世界モノの展開としては満足いくものではない。

 だが、魔法を見せられた時点で俺達の疑いの心は失われてしまったのだから、彼女の対応は、俺達に異世界転移という現実離れした現象を認めさせるという点では限りなく正解だった。

 正直認めたくはないが、認めざるを得ないという感じではあるが。というか、異世界という存在を受け入れてしまえば、トラックから始まった一連の流れは最早テンプレと言われても仕方のないくらいの始まりだった。

 つまりこの調子で行けば俺達、もしくは俺達のうちの誰かにチート的な能力が与えられ無双劇が始まるのだろう。

 万が一にも俺達にチートが無かったとしても、現代知識があれば十分暴れられるだろう。

 彼女の使った魔法だって使えるはずだ。

 世界を救ってくれと言われたのだから、きっとスローライフとはいかないかな?

 無双ができなくとも、ハーレムくらいはあるはずだ。

 だが、とりあえず異世界と分かったからにはやらねばならぬことがある。

 これだけは外せないと思っていた俺は他の二人に声を掛ける。


「お前ら、分かってるよな」


「勿論だとも」


「え? え? 何すんの?」


 小夜は置いてけぼりだったが俺達は小夜にかまってやれない。それくらいにソワソワしていたし、確認したかったのだ。

 やっぱりあれを見なければ、異世界とは言えないだろう?

 俺達は各々格好いいと思うポーズを取った。


「「ステータス、オープン!!」」


「二人とも本当に何してんの?」


 眼の前に自分の能力値やスキルが記されたものが出現する――ということはなく、俺達の盛大な掛け声と大仰なポーズは無駄に終わってしまったようだった。

 そうだ、よく考えればステータスオープンのないファンタジーもたくさんあるのだ。

 数値化された強さを見てみたかった、スキルとかあるのか見たかった。ただそれだけなのに、香ばしいポーズを取って叫んだだけの変な人になってしまった。


「ああ、転移したてのニホン人は奇行に走ることがあるってよく聞くけどこういうことなんですね」


 無常にもそんな風に呟く銀髪女のせいで、俺達の羞恥心は許容量を容易に超えた。


「「誰か殺してくれっ!」」




 俺達の自殺願望が薄れたタイミングを見計らって、銀髪女は口を開いた。


「まぁさっきの台詞じゃないですけれど、一応能力値を何段階化に分けるという取り組みはありますよ」


 俺達に希望が戻った。チートがなくてもステータスが高かったりするもんだ。


「つまり僕のチートスペックがバレてしまうということか……。まったく、やれやれだぜ」


 俺は英介の言葉に頷く。あぁ、どうやら俺にもチヤホヤされる未来が来たようだ。


「いえ、こちらの世界は、『ニホン』より過酷です。なのでおそらくあなた方はこちらの一般人以下ではないかと推測しますが……。それともそちらの世界では何は武芸を嗜んでいらっしゃったんでしょうか?」


「……いえ、怠惰な生活を送っておりました」


 そう言われてしまえば、俺は英介とともに撃沈するしか無いのだった。

 言われてみれば当然の話なのだが、お約束に囚われすぎていたようだ。


「じゃあ俺達この世界で無双できないって……こと?」


「きっとそういうことになるな。僕達のハーレムは無いのかもな」


「いやいや、常識的に考えてハーレムは強くなくても形成されるから」


「確かにそうだな。この僕が危うく絶望するところだったぜ」


「そんなわけ無いでしょ。ていうか英介はともかく、漣にもそんな願望があったのね……。侍らせるなんて誰に対しても不義理じゃないの?」


「小夜が僕のことをどう思っていたかよく分かったよ」


 小夜は何も分かっていない。日本では優等生であったとしても、それは異世界事情における優等生とはイコールではないのだ。


「俺は皆幸せにしてみせるぞ!」


「なら初対面の女子にまともに声を掛けられないのに、どうやってハーレム築く予定なのか私に教えてよ」


 と言われてしまえばやはり撃沈するしか無いのだった。

 英介は俺の言動に同調し、そしてともに撃沈してくれた。


「まぁそんなバカな話はおいておくとしても。今の話を聞く限り私達は、私達から見た異世界人、つまりあなた達のような現地の人よりも数段劣る存在だと思うんですけど、それならなんで召喚をしたんですか?」


 そう言われれば確かにその通りだった。

 つまり俺達には物理火力がなくとも魔法的な火力があるのだろう。思えば異世界モノは魔法がメインのことが圧倒的に多い。

 これは最下位の魔法だが?とか言ってドヤ顔が出来る、そういう展開の世界なのだろうか。

 魔法は派手だしあまり傷つかなくて良さそうだから、正直なところ肉体的な強さよりもこちらのほうが嬉しいくらいだ。


「じゃあ僕達には何か、とてつもない魔法の才能があったり魔力が凄まじかったりする、そういう感じの話ですか?」


 英介と思考が完全に一致しているのは少し癪だが俺が聞きたいことを代わりに聞いてくれたので良しとしよう。

 英介は固唾を飲んで彼女の返答を待っていた。

 俺はといえば勿論英介と同じなのだが、なんとなく余裕ぶってあんまり興味がないようなふりをしていた。

 大した意味はない。

 それを知ってか知らずか、銀髪女の台詞はある意味期待通りであった。


「あなた達の世界には魔法がないのでしょう? ならばあなた達は魔法を使えません、魔力がないのですから」


「「畜生っ!」」


 もはや撃沈どころの騒ぎではなかった。

 上げては下げ、上げては下げと俺達の純情は弄ばれていた。

 ステータスも低い(おそらく筋トレ等で多少改善できる)、魔法は使えない(改善不可)となってしまえば俺達に残された希望はないのだ。


「ならなんで俺達を召喚したんだ! ……ちゃんと元の世界には帰れるんだろうな?」


 そう言って思ったが俺達は元の世界、つまりは日本に帰る方法について何も議論していないことに気がついた。

 死んでいないのならば帰りたいものだ。まだ攻略していないゲームもあるし、来月発売のラノベの新刊だってある。

 今度の俺の言葉には英介だけではなく小夜も共感してくれたようだった。

 それに、別れすら告げていないのは寂しすぎる。俺達にだって家族や友人がいるのだ。恋人はいないが。


「召喚したのにはちゃんと理由がありますよ、焦らないでください。元の世界に帰るというのも不可能ではありませんし」


 と言うので下げられた俺達の気持ちがまた上昇するわけだ。だがきっと叩き落される。もう信じないぞ、という俺の気持ちは、またも綺麗に裏切られることになった。


「あなた達異世界人には、『特能』という概念的な、魔法を超える超常的な、上位的な力が備わっているのです」


 銀髪女の言葉はただただ純粋に、俺達異世界人がステータスが現地人より低く、魔法が使えなくとも『特能』とやらで活躍しうるだけの可能性を示す言葉だった。

 それはきっと俺達風に言えば、チート能力なのだろう、と俺(とついでに英介)は喜ぶ。

 ハーレムの道は開けた! 異世界無双の道も開けた!




「さて、ここには『特能』を調べるための準備があるのですが、誰から調べますか?」


 そう言って銀髪女は占いで使われそうな大きさの水晶玉を取り出した。

 俺達は先程のようにじゃんけんをして、俺は執念のグーで小夜と英介のチョキを破り、最初に計測する権利を得るのだった。

 小夜はあまり気にしてなさそうだったが、英介は血の涙でも流せてしまえそうなほどに悔しがっていた。

 僕が一番最初に見たかったのに……、と呟いていたがそれは俺も同じなのだ。


「僕は絶対お前より強い能力を引き当ててみせるからなっ!」


「そりゃ無理な相談ってやつだな。俺には俺にふさわしい、優れた能力が出るに決まっている。対してお前にはバカ野郎にふさわしい、可哀想な能力が出るという寸法だ」


「……漣、その辺にしておかないと余計なフラグが生まれそうよ」


 という忠告がなければ僕は余計なフラグを立てて絶望するところだったかもしれない。

 危なかった、小夜に感謝である。……この時点でガッツリフラグが立っているような気がするのは気の所為だ。


「では水晶に手をかざしてください」


「それだけでいいのか?」


「ええ、そうしたらあなたの眼の前に『特能』の名前とその『代償』が浮かび上がってくるはずです」


「じゃあ早速……」


 俺は一度深呼吸をして精神統一をした。ソシャゲのガチャを引く際にもするのだ。俺のジンクスというやつである。

 深呼吸で落ち着いてから、俺は自分の右手を水晶にかざした。

 すると眼の前に、ステータスオープンの掛け声で浮かんでほしかったような、ゲームのウィンドウ的なものが出現し、僕の『特能』と『代償』をはっきりと文字にして見ることができた。

『特能』は『必中』、『代償』は『渇き』という読むことができた。

 他の情報は何一つなかった。


「で、どうだったんだよ」


「大丈夫? フラグは立ってなかった?」


 英介はソワソワしながら小夜はオロオロしながら俺に結果を求めてきた。


「こういうのは皆の結果が分かってから同時に発表するほうが良くないか?」


 と、俺が提案する。一人終わるごとに発表していたらなかなか進まなそうだと思ったからだ。


「本当はしょうもない『特能』だったから言いたくないんだろ?」


 と英介は言ったがその言葉は口だけで、普通に納得してくれたらしく、銀髪女に従って英介、小夜の順番で水晶に手をかざす。

 俺は二人の診断が終わるのを待った。

 だが、ただ待っているのも面白くない。そこで俺は、与えられた『特能』と『代償』について考えることにした。

『必中』と書いてあるだけで具体的な効果の記載はない。こういうものなのかもしれないし、俺が特異なのかもしれなかった。

『特能』として表記された『必中』。

『必中』と言うからにはきっと能力は、『攻撃が必ず当たる』ということなのだろう。

 それは悪くない効果だが、そもそも訓練を積めば誰でも攻撃を当てること自体はできるはずで、そういう意味では俺の『特能』はハズレに思えてならなかった。

 勿論相手が高速機動型の敵ならば俺の『特能』は非常に強力なのだろうが、先程魔法を見せられた日本人の心境的には、なんだか地味な能力を引いたと思わざるを得ないのだった。




 しばらくして、皆の結果が出た。

 俺達はせーので自身の『特能』と『代償』を言うことにした。

 どうせ一度に言っても理解できやし、聞き取れもしないだろうが、気分的にそうしたかったのである。

 せーの、の掛け声で俺達は一斉に口を開いた。


「『必中』と『渇き』」「『吸収』と『飢え』」「『反転』と『貧血』」


 案の定聞き取れなかったので一人ずつ紹介していく。だが、とりあえず皆何かしらの能力表記があったということは分かった。

 水晶に手をかざした順で紹介するのが順当だろうということで俺から話すことになった。


「『特能』は『必中』って言うくらいだし、きっと攻撃が当たるんだろ、絶対にな。『代償』の『渇き』っていうのもそのまま読み取っていいなら、水分が体から出ていくってことだと思う。まぁ、そのまま過ぎるかもしれないけどな」


 俺がとりあえず纏めた自分の考えを話す。纏めたとはいっても大した時間もなかったのだから大した考えではない。書いてあることを読み上げただけに等しい。

 何もわからない俺に補足的に銀髪女が口を開く。


「いえ、おそらくレンの考え通りの『特能』と『代償』でしょう。『特能』である、『必中』に関して言えばおそらくはもっと深い意味があると思いますが」


 なぜお前が俺の名前を知っているのか、という疑問が湧いてきそうだったが俺達の会話の中で何度か名前が出てきているのだから不思議でも何でもなかった。

 銀髪女――よく考えてみると俺はこいつの名前も聞いていなかった――が続ける。


「基本的に『特能』というのはもっと広範なものです。レンが当たる外れると認識できるものには『必中』の力を適応できるでしょう」


「……? よく分からないんだが、それは例えば予言とかそういったものにも繋がるのか?」


 そうであればものすごいことだ。必中の予言というのは未来視に等しい。

 ぼんやりとした言葉でしかわからないのならばあまり実用性はないだろうが、はっきりと理解できるのであればそれはチートと呼ぶにふさわしい能力だろう。


「繋がりますね。ですが遠い未来を予言しようとすればするほど大きな『代償』を支払うことになるでしょう。『渇き』の都合上、大きな代償を支払うことは死に繋がりますし、現実的ではないかもしれません」


 どうやらただのチートを得るという訳にはいかないようだった。

 銀髪女は考察を続けながら、俺が腕を伸ばしても届かない位の距離まで歩いてきた。

 彼女は話を続ける。


「『特能』は世の理を歪める力です。例えばこの距離、本来ならばあなたは私を殴ろうとしてもその拳は当てられません。しかし、『必中』の力があれば別。当たらない距離だったとしても、当たっていなくとも当たったことにしてしまう。さぁ、試してみてはいかがですか?」


 そう言って彼女はどんとこい、とでも言うように両腕を広げた。

 俺は彼女を見据える。彼女は何度見ても銀髪美少女だった。そして残念ながら俺は、美少女を殴ることが出来るような人間ではない。

 だから俺は彼女ではなくもっと手頃な、殴っても罪悪感のないものを探そうと部屋を見渡した。

 …………! 丁度いいものがあるではないか。 俺は軽く拳を握り、それに拳骨をするイメージで拳を振るった。


「痛ぇ! おい、僕の大切な頭に何をするんだ!」


「男相手なら罪悪感がなくていいな!」


「僕への謝罪を要求する!」


「漣、バカに謝罪はいらないわ」


「ひどいっ!」


 俺は英介に向けて拳骨を放った。

 適度に距離があったため、本来は当たることのない拳骨なのだが、英介は自身の頭を両手で抑えているし、俺の拳にも殴った衝撃がちゃんと伝わっていた。

 『必中』を使ったことで、俺が攻撃を当てるために、体が自動で接近することで攻撃を当てるというわけではなく、ただただ俺の拳骨が、外れるはずだった拳が当たったのだ。俺の拳骨が必中であるが故に。


「私は回復魔法も使えるので私を攻撃してくれても問題なかったのですが……。まぁ今試した通りです。それで『渇き』の方はいかがですか?」


「なんとなく渇いているような気がしないでもない、ってくらいだ。本当に『代償』を払っているのか不安なくらいだよ」


「推測ばかりですが、この場合は距離が短すぎたから、ほとんど認識できないレベルで少ない『代償』で済んだのでしょうね」


 例えばこれが何キロも離れていたならばもっと渇いたということなのだろうか。


「例えばだけどさ、俺が世界中のおっさんに拳骨をしたいと思って拳を振るったとしたらそれは世界中のおっさん全員に当たるのかな?」


「レンがおっさんと認識するであろう人に対して拳骨は当たるでしょうね。ただ数が膨大な以上、『代償』で死んでしまうことはほぼ確定でしょうが。」


「漣、あなたおっさんに一体何の恨みがあるっていうの……?」


「なんとなく思っただけだよ」


 育て方を間違ったかしら?と言い出しかねない面持ちになった小夜を放って置いて銀髪女と確認を続ける。


「それに対象が漠然としているならば、エイスケを殴ったときと同じ距離、同じ人数であったとしても支払う代償は大きくなるでしょうね」


「つまりは殴る相手がはっきりしている方がいいってことか」


 俺の言葉に彼女は頷いた。

 大体把握できた俺の『必中』という『特能』は想像よりも面白そうなものだったが、『代償』で死ぬ可能性があるというのだから、英介を殴ったようになるべく短い距離でちまちまと使ったほうがいいのかもしれない。


「じゃあ弓矢とかの遠距離武器よりも剣とかの近距離武器のほうがいいのか?」


「そうでしょうね。飛び道具であれば追尾するような攻撃になりかねません。実際に矢が追尾して飛び続けてしまえば、相手も攻撃をかわそうとするはずなので距離が伸び、支払う代償も大きくなるでしょう。それに近距離武器ならば、敵がレンの間合いの外だと考えて一息ついているところから奇襲できそうです」


 そう聞くと俺の『特能』は、かなり卑怯な能力のように聞こえた。

 相手の経験が豊富であればあるほど適切に、正確に間合いを読んでくる。しかし俺にはその間合いは意味がないのだ。武器の長さで間合いが決まらない『必中』は熟練殺しとまで言えるかもしれない。




「じゃあ次は僕だな。僕の『特能』は『吸収』で『代償』は『飢え』だった」


 俺の能力に関する考察が終わり、次は英介のターンとなった。


「『吸収』というくらいだし、敵の攻撃によるダメージとか、落下時の衝撃とかそういうのを吸収できるんじゃないかと思ってる。『飢え』ってのはなんだろうと思っていたけど漣の『代償』を聞いた感じ、僕の『飢え』も腹が減るだけって感じかな?」


「その通りだと思いますよ。ですがやはり『吸収』に関して言えばまだまだ掘り下げられそうです」


 俺も英介が言った用途くらいしか思いつかなかったが、銀髪女にはまだ思いつくものがあるようだった。

 よくもまあそんなに思いつくものだと俺は感心してしまった。

 彼女は日本を知っているようだし、きっと他の転移者の相手をしたり、『特能』やら『代償』やらに多く触れてきたのだろう。経験則というやつだ。


「例えば、あなた達ニホンからの人々は魔力を持たず魔法を使えないといいましたが、エイスケ、あなたは魔法が使える可能性があります」


「「何っ!?」」「良かったじゃないの」


 その言葉に俺と英介は強く反応せざるを得なかった。

 もしも俺達が椅子に座っていたならば、ガタッ、っと音を立てて立ち上がっていただろう。何なら椅子を倒していたかもしれない、それくらいの衝撃だった。

 小夜はあまり関心がなさそうだが、日本のオタク文化に触れてきた人間には俺達のこの気持ちが伝わるだろうと信じている。

 一度受け入れたとはいえ魔法に未練引きずりまくりの俺は英介が羨ましくなったので、喜びに溢れる英介の頭を軽く叩いた。

 当たったことになった俺の手を気にすることなく英介は銀髪女に食いつく。ちくしょう。


「僕に魔法が使えるかもってどういうことだ!?」


「落ち着いてください気持ち悪いですよ」


「気持ち悪いってひどくないすか……。でも不思議と心が苦しくない。……なあ漣、美少女に罵られるってむしろご褒美だよな?」


「そこで俺に振るなよキモいな」


 鼻息荒い英介に割と辛辣なことを言う銀髪女。美少女にこう言われてしまうと俺なら結構傷つくのだろうが、英介にとっては守備範囲内のようで傷ついている様子は見られなかった。むしろどこか幸せそうですらある。ちくしょう、傷つけよ。

 その様子を見て小夜はしっかり引いているようで、少し英介と距離を取り、少し俺のそばに寄った。


「……ねぇ漣? 英介っていつからああなっちゃったの……?」


「知らねぇけど多分結構前からあんな感じだぞ」


 俺がそう言うと、小夜は信じられないとでも言うような顔になったので、あいつの趣味は割と普通だと言うことは教えないことにした。


「連もあんな趣味あるの? ……もしそうならちょっと困る……。頑張るけど」


「俺にそんな趣味はないから安心しろ」


 後半は世界の宿命の如く聞き取れなかったのだが、小夜的には納得できる返事だったようで問題にはならなかった。


 英介が多少落ち着いてから銀髪女は説明し始める。


「この世界には魔力と呼ばれるものがあります。それは生き物の中にあり、空気中にあり、この世界由来のものには魔力がかならずあると言っても過言ではありません。私達は体内で生成した魔力を消費して魔法を使いますが、エイスケさんは空気中の魔力を『吸収』し、魔法を使える可能性があるということです」


「……エイスケで、つまりさっきのように呼び捨てで構わないんですけど」


 本気で気持ち悪かったのか、銀髪女と距離が開いたようだった。ざまぁ見ろ。


「……エイスケさんが『吸収』出来る魔力は空気中だけではないでしょうから『代償』も軽く済むでしょう。もしかすると、相手の魔力を奪って使うことも出来るかもしれません。空気と違って多少は抵抗されるでしょうから『代償』を大きく支払うことになると思いますけど」


「じゃあもしかしたら英介は、相手の攻撃魔法を、魔力として『吸収』できたりもするのか?」


「その可能性は高いでしょうね。勿論、一度練り上げた魔法を分解するのですから、それなりに『代償』を払うことになるでしょうが」


「『吸収』というくらいだし攻撃を引き付けたりもできそうだ。つまり僕は、魔法使い兼デバッファー兼タンクみたいなことが出来るってことだな。チート能力過ぎて笑えてくるな」


『必中』も未来視とか出来るから負けてないぞと言いたかったが、流石に英介の能力のほうが強そうすぎてやめておいた。




「じゃあ最後は私ね。『特能』は『反転』で『代償』は『貧血』だったわ」


「「…………。小夜のが一番強そうじゃねぇか!」」


 これが俺達の総意であった。『反転』とか広範すぎるだろ。意味を広く取れ過ぎちゃうだろ。

 俺達は憤りを、そして嫉妬を隠せなかった。だってそうだろう? 一番異世界に興味関心のない小夜が一番強そうで、汎用性が高そうな能力を持っているんだから。

 俺の必中がやっぱりハズレに思えてきたところで、銀髪女が口を開く。


「ご察しの通り、サヨの『特能』が一番力が強いです。ですが『代償』がレンやエイスケさんと比べ物になりません。お二人は飲み食いすれば回復しますし、軽度なものであれば我慢できます。しかしサヨの『代償』は軽度なものでも我慢し辛く、使用頻度はお二人よりも少なくなるでしょう。『特能』の強さである応用力と『代償』の重さは大体比例しているんです」


 使用頻度が少ないということは転移者のメリットを使う機会が少ないということであるが、俺達の力以上に、ここぞというときの逆転の力になりうるということでもあるのだろう。


「『貧血』と言ってもちまちまと使えば、すぐに倒れるようなことはないでしょうがね。」


 と言っていたのでポンポン使える方法もあるのかもしれないが。そう考えるとやっぱり便利そうだった。是非交換して欲しい。


「じゃあ例えば相手の血液を『反転』させて逆流させたりも出来るってことかな?」


 どこかの学園都市第一位が似たような戦い方をしていた気がした。そしてそれを素で思いついてしまう小夜がなんだか怖い……。


「可能でしょうね。あとは認識を『反転』させることで仲間割れを引き起こしたり、逆に一時的に仲間にすることも可能でしょう」


「「なにそれこわい」」


 小夜が味方で良かった、俺達は心からそう思った。

今回は説明ばかりでしたがご容赦ください。

誤字脱字がありましたら遠慮せずにご報告ください。

感想等も大歓迎です。

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