くれない
1.2-tune
オーレ、オーレ、梓群サンバ!
ママもパパも私を見てよ。
ふふ、ドロシーはほんとに朗らか
はは、梓群は俺達の太陽だ。来てくれてありがとな
ビバビバ! へへ、秋葉原が無人になった。人除けの術に加えて、沈大姐にもらった一般人が卒倒する魔道具さえあるから当然だ。
はやくルビーを捕らえて哲人さんと腰を絡めて踊りたい。ミアモーレ!
「お姉さん、観客いないカーニバル!」
「ララ、魔導師の悲しき特権よ!」
「ドロシー様は術に嵌まる時間が長すぎです。邪な術でないので祓えませんし、二人から離れるべきでは? ……哲人様が心配でないのですか? 私だけでもあの方のもとへ送るべきです」
秋葉原の裏通りを陽気に踊り歩くソウサ姉妹。ハーブからは邪悪な腹積もりを感じる。
だけど、もうまんたい。行っちゃダメだよ過信だよ二度目は赦されないよ新月の今夜いなくなっちゃうよ、なんてオーレ思うはずないオーレ! ハーブこそ最強式神!
「はお! ハーブは私が何より誰より一番大切で愛しているマイオンリープレシャスダーリンを守ってね、レッツアミーゴ!」
「お姉さん、ドロシーちゃんは私達より素敵なステップ」
「根は明るい子だったのね。抑えているから余計に発散、セレスカンタビーラ!」
「へへへ、暑くなってきた。脱いじゃおイエーイ」
「あら? 馬がいなくなった途端サンドが来たわよ」
ガラガラヘビか……。ちょっと正気に戻れたビバアミーゴ。
「どこにいる?」
あれ? 私は浮ついている? 戦場なのにきょろきょろ。ルビーだって強敵だ。これでは勝てない。
「尻尾振るわせたけど、我に返ったように消えたね。何しに来たのだろ? はっははー」
私も我に返りなさい。ルビーの確保なんて後日でよいイージーミッションに、なぜ姉妹に付き合っている……。しかも下着一枚だけになっている。急いで着なきゃ……。しかもだよ、左手に持っていたはずの驚蟄扇がなくなっている…………。
「ひえええ!」
オタクが傀儡でたっぷりやってきた。老いも若いも男も女も白人も黒人も、あらゆるオタクが私を見ている……。
哲人さんはいない。なんで私は別れた。
「ふふん、追い詰められた悪あがき。ルビーはマリオネットの奥ね」
「ドロシーちゃんは服着たわね。では行きましょう。というかルビーの捕獲は任せるわ。私達だけだと返り討ち、ははーん」
「ま、待って…………」
姉妹が私を置いて傀儡をかき分けて行っちゃった……。傀儡は追わない。私に寄ってくる。……統制されたマリオネット。擦りこまれたターゲットは私。
「来るな。来ないで。祓え! 祓え!」
七葉扇を振るっても立ち去らない。強烈な傀儡の術。怖い。助けて。手をつないでないと無理。
しゃがみ込んでしまった。……仕方ない。秋葉原ごと消滅させてやる。そしたら哲人さんに去られる。千年を経て私はまた孤独。
「梁勲の孫や、戦いの場を間違えたのに気づけ」
この声は。
「老師助けて、ひゃっ」
初老のオタクがそこまで来た。エア胸揉みしている……。
私の両手に破邪の剣が現れる。師傅の護布が私の周りで旋回しだす。安堵。
「痴れ者! 操られた人を昇の護りで肉片にするつもりか。……貴様も性根を正せ。ゆえに松本でなく試練へ送ってやろう。将来のため、頼らずに済む足がかりとなるように、ひひひ」
「ど、どこでもいいです、ひえええ!」
「ひひひ、ならばここより死地を一人で切り抜けてみせろ。一番の敵はデモニオ・アドラド。奴が思玲を隠している」
汗だくの若いデブオタクが追い越しやってきた。やはりエア胸揉み。やだ、あそこを大きくしている。ドーピングの術まで……。
「お前のせいで蛇の傀儡が解けた。身中の虫にしようとしたがアンヘラに感づかれ、ならばお前の駒にしてやろうとしたのにじゃ。……本来のお前のせいで松本達こそ死地だ。儂はそちらの手助けをする、ひひひ……」
「ひゃあ!」
オタクにほっぺを舐められる直前に亜空間に飲み込まれる。
数秒して私は空にぽつり現れる。
飛竜の靴下。護布は肩で待機していた。両手に剣……。
もう戦いたくない。
見つめ合ってくたくたになるまで踊り明かしたい。さっきみたいに心から笑いたい。それを哲人さんにも見てもらいたい。
だけど最強であるさだめを受け入れろ。いつか戦わずに済むために今夜を絶頂にしろ。
エルケ・フィナル・ヴェラノは大きくなっていた。はやくも反抗期手前の顔。他にも見覚えある化け物や見覚えない魔物だらけだけど、その中でひときわ綺麗なのは朱雀。
轟炸ちゃんだ。
なのに苦しんでいる。追い詰められている。
私の両手には破邪の剣。絶頂だろうと交差はさせない。心を響かせろ。
「殺しちゃダメだよ。噠!」
威嚇の紅。これでも歯向かう奴は倒さないとならない。老師が言っていた。ここは死地と。
そう何度も死にたくない。あれは結構苦しい。だから倒す。龍と朱雀と人、それと白猫ちゃん以外は。
私の死地なのに哲人さんはいない。だけど轟炸ちゃんの上に魏さんがいた。……アンヘラも。
「ドロシー加勢して!」
魏さんがアンヘラと睨みながら言う。
陣にこだわり続けた二人が遭遇している。戦いの匂いが薄い。
「魔女よ騙されるな。魏は裏切った」
朱雀が私に顔を向けるけど……。
「轟炸ちゃん、やめて」
「……ちゃん? 私に?」
怒らないの。私だってムカついた。
「そうよドロシー信じないで。この鳥は従ってない。魔女なら倒せる」
どいつもこいつも。
もう私は魔女でないけど……信じるなら120パー朱雀だ。
「誅!」だから左手の春南剣を魏へ突きだす。
扇でないから制御できず弱い人除けの術。どうせ避けられる。
あら、松本哲人の恋人は意外に雑魚? そんなはず
馬鹿め、私相手にかすかだろうと油断は致命を生じる。
「天誅だ!」右手の月神の剣を突きだす。
巨大で残酷な薄紅色が飛んでいく。貴様らにも絶頂へのステップアップだ。
「ドロ」
「オラッ……」
魏とアンヘラを飲みこむ。だけど轟炸ちゃんは平気。なのに驚き逃げちゃった。
ワンテンポ後に二人の悲鳴が響く。どうせあいつらは天誅にも耐えて回復する。
だから追撃して更に二発当ててやれ。半年は悪夢と一緒に寝込むだろうけど、それこそ天誅だ。また英雄となる私が処刑を認めないでやる。
だけど私はふわふわ浮かぶだけ。風軍より強い翼が欲しい――
「ふふ、真なる問答無用」
遠くから声だけ届く。「わらわはそなたを気に入っ」
躊躇不要。
「噠!」背後へと春南剣を振るう。首を噛まれるのを避けてから「噠!」
月神の剣を正面へ突く。ここから放たれる紅色は追尾する。敵が邪悪ならばそいつへと鋭角に曲がる。いまさら護布が旋回しだす。
「ぎゃあああ……」
鬼の悲鳴が遠のく。冥界へ逃げないのか? つまりそこに京がいる。さらに強くて狂ってるだろな。怖い怖い。
龍を喰らう睦め、次は直接斬ってやる。
さてデモニオ・アドラドはどこだ? あの念だな。弱そ。
冥界へ同行させて、京と一緒に思玲の居場所を聞きだすか。それから消そう、へへ。
へへへへへ……
「お、俺様はハカ達の加勢に行くぜ」
目が合うなり消えやがった。更に哲人さんが死地になった。でも老師が加勢してくれる。
「マドレによくも!」
え? エルケ・フィナル・ヴェラノが息を吸った。私へと躊躇なく吐く。
ドラゴンのブレスが来る。
だから螺旋でシールド。だけど両手とも破邪の剣。この子まで飲みこんじゃう。
枯葉色の吐息。
はやく逃げろ
胸もとから聞こえる。お天狗ちゃんがやっと回復した。まだ完璧であるはずない。
昇おじちゃんの布が私を護るべく廻っている。無理だよ。自衛隊基地で京の術を防げなかった。あれと同じ強さかそれ以上の、鍛え抜かれた凝縮されたブレス。
結界もなくぽつんと浮かぶだけなのに、私はなぜ躊躇した。
くすんだ金色。私は二重の護りのおかげで余計に苦しみながら溶けて死ぬ。ママ、パパ、哲人さん
もうひとつの護り。
私の右手から月神の剣が追いやられる。手のひらが紅に輝きだす。私を護るため、ダーリンの後ろポケットからやってきてくれた。
三重の護り。
私が関与しない戦いで何があったのか、お天宮ちゃんはアグレッシブだけでなくなった。紅いシールド。その中で私は存在を続ける。
だけど哲人さんは背後にいない。
だから振り向け。
「噠!」
「クエッ!」
護るための攻撃こそが本領。天宮の護符が突き刺さった感触。見えぬ突進さえ止める力。
悲鳴とともに、おおきなキーウィフルーツが現れた。
「雕ちゃんだ。助けにきてくれたのにごめんね」
主を裏切ってくれたんだ。あれ? だけど哲人さんの護符は紅く半端なく輝いている。
「おい、なぜ仲間と思える?」
朱雀のあきれ声がした。「雕は紅の魔女を襲おうとしただけだ。統制が取れぬうちにとどめを刺してやれ」
説教される前に気づけたって。二段目三段目の攻撃に備えるほどに。
轟炸ちゃんの背に、すでに二人はいない。振り落とされたのだろう。
魏の結界。アンヘラのタフネス。それくらいで死にそうな二人でない。それにエイジを乗せたキモい真忌とキショすぎる女郎蜘蛛が海へ向かったから、助けてじきに戻ってくる。
だけど満月の樹海で負傷者を運んでくれたキーウィの雕ちゃんを倒せるはずない。
だから春南剣も消す。私の左手にばあやの珠が現れる。もったいないけど。
「封!」
焼きフルーツになった雕ちゃんを死地から隔離させる。
天宮の護符を左手で持ち直す。……最善でしょ。どうせエルケ・ヴェラノ・フィナルはこの珠に閉じこめられない。
「ほらねんねしな」
「いたーい!」
轟炸ちゃんはエルケ・ヴェラノ・フィナルをなぶっている。だけど私と思惑は一致している。幼い龍は殺さない。
そらそろ睦が怒りを露わに……。げげ、女郎蜘蛛の旋がやってきた。こいつは邪悪系だから大嫌い。しかも八十年代アイドルカットでガングロメイクした五十代女性の顔の蜘蛛。全世界の敵だ。
旋回する飛び方もキモい。目がまわるから魏は乗っていない。
剣だけに頼ると、丸茂みたいに馬鹿のひとつ覚えになってしまう。だから七葉扇を右手に現す……。
驚蟄扇はサンドに奪われたのだろう。あの扇を使いこなせるのは私と大人だった思玲ぐらいだけど、耀光舞をだされたら厄介。無数の術の光に体をついばまれるなんて想像したくない。しかも魔人で死ねない体を永久につつかれたら、哲人さんでも弱音を吐きそう。
あれ? 旋が遠ざかっていく。誰も紅の核心へ近づこうとしない。ならば無理やりだ。
「噠!」旋回しながら飛ぶ蜘蛛へと扇を向ける。
「ひいい」
旋が旋回しながら私のもとへ引きずられる。邪悪系が好きになってきた。手加減なく消滅させられる。
だから唇を舐める。
「裏切りものめ、蜘蛛にもなれず消滅しろ」
「ひい、裏切ったのは我が主、私はすでに蜘蛛……」
「噠!」
護符で突けば、真忌よりキモいのが消えてくれた。……女郎蜘蛛が言い残した。やはり魏は裏切っていた。天誅を当てて潔白だったら抗争になるところだった。
だけど手加減は必要。さもないと私を護る護符が輝かなくなる。
「天誅」と見せかけて「死ぬほど照らせ!」
三人が乗った真忌を照らす。へへ、濃縮された人除けの術から回避するため、目を見開いただろ。網膜が焼けたな。
「轟炸ちゃんはエルケ・フィナル・ヴェラノをよろしくね」
「私に命ずるな。ちゃんづけするな」
ツンデレ朱雀ちゃんは龍をつついてくれている。……エルケ・フィナル・ヴェラノが弱すぎる。アンヘラが乗っていないからか。
悪しき力で回復するアンヘラをどうやって確保する? 奴はマーキングのリボンを切断する。……死の手前まで弱めるしかないか。魏も一緒に。あいつは苦手だ。
「噠!」真忌へと光弾を飛ばす。心が感じる。距離だけは保て。「噠! 噠!」
へへ、近寄れないだろ。螺旋は乗る人がいなくなったときにぶちかます。不死身の水竜を破邪の交差で消す。
「あれ?」
女郎蜘蛛が旋回しながら復活した。アンヘラが黒い十字架の加護をかけたな。魏と組んだのが確定した。……今夜一発目か。
私の両手の魔道具が破邪の剣にチェンジする。ついでに悪しき鬼も心に念じろ。
癖を読むとか関係ない次元を見せてやる。濡れた舌で上唇をゆっくり舐める。
「噠!」
存在を許されぬ紅色が私の手から発せられる。その光からすれば巨大な蜘蛛はちっさすぎる。飲みこまれる。
わあ……。やっぱり東京は上海より香港よりビューティフルだ。
月なき夜に湾岸をも照らす光弾は忌むべき存在を永久に消し、上空へと鋭角に曲がる。……ぽつり浮かぶだけなのに。
決戦では絶対的な私。今夜最初の紅いエクスタシー。余韻に下唇を舐めてしまう。
「く、くるな……」
螺旋の渦が、上で私を狙う機会を待っていただろう睦を追っていく。逃げきれないよ。ターゲットを飲みこむまで消えない。だけど数分すればかすれだす。レジェンドなら生き延びると計算しておけ。
「魔女すまぬ。見惚れてしまった」
轟炸ちゃんが浮かぶ私の隣に来た。「金色の龍を逃した。主と合流される」
覚悟が必要になったか。また龍を殺す覚悟。また人を殺す覚悟。
「魔女よ悲しみをだすな」
「だしていない。ドロシーと呼んで」
「……ドロシー。私と組まないか? 対等の関係って奴だ」
轟炸ちゃんが私の下に来た。その朱い毛並みに乗る。夜空に冷えた私へ温かい。
並みの敵ならいまの攻撃を見て退散するだろうな。でも朱雀も私も感じている。戦いは今から始まりだ。
「ごめんね。イーブンにはなれない。頼れるペガサスのハーブも式神になってくれているから」
「そうか……。ドロシーは強い珠を持っているな。強いのを封じてある」
「へへ、よく気づけるね。これを開けたら龍を封じられるのにな」
上空の紅色の満月が消えた。ようやく睦を飲みこんだか。まだ消滅しないだろうな。強い鬼は聖なる魔道具で直接斬らないと……白銀の五鈷杵。
私は右手を空にかざす。現れるはずない。あの法具は哲人さんを選びなおした。かなりジェラシー。奪ってでもプレゼントしてもらうなんて思っているから、ダーリンの手に現れないのだろうな。
だけど二人が離れ離れの死地なら。影添大社もしくはこの国を守るシチューションに立ち会えたなら、君の手は白銀に輝くかもね、へへ。
「噠! 噠! ふう……。威嚇だけはしないとね」
「ドロシー、珠をだしてくれ」
「つい」
この夜空でぽつんと最強の私に断る理由はない。
私は右手に(私なら朱雀さえ封じられる)賢者の石を現し、また下を覗く。
……二手に分かれたか。アンヘラとエルケ・フィナル・ヴェラノ。真忌とエイジ。魏は龍の上だろう。睦は生き延びたら本性を晒す……まだだな。いまの姿で私に一矢報いてからだ。ならば滅びの光を避けるため、盾としてエイジと合流するだろう。
体勢を整えられたら厄介な連中だな。しかも魏から、手加減がデフォルトとばれただろうな。すでに白猫ちゃんも感づいていた。私から逃げる必要ないと。
……覚悟。覚悟。二度と笑えぬ未来のために悪人を殺める覚悟。哲人さんにいてほしい。
「封じられた悪魔と会話した。短期契約をしたいそうだ」
「へ?」
轟炸ちゃんへ間の抜けた返事をしてしまった。
「解放してくれるならば、今夜だけは敵でなく味方になる。条件は我が主達を狙わないこと」
主達……。心が痛んだ。ルビー以外にいるんだ。
悪魔を解放……危険な匂い。
「オッケーと伝えて」
魏の真似してカピバラちゃんを裏切ろう。戦いが趨勢を決する手前で背後から珠を向けて封じなおす。
そしたら龍を入れてあげられなくなるか。九尾狐の珠は哲人さんの胸だし。
「即断だな」
「へへ、だけど私からも条件がある。消滅させてよい敵は真忌、デモニオ・アドラド、睦だけ。そいつら以外に二度と治らぬ重傷を負わすのは認める」
そうでなければ屈服する敵ではない……。「哲人さんへ殺意向けるものは、人だろうと何だろうと(私の代わりに)情け容赦なく消し去れ。願ってもないだろ?」
「すべて飲むそうだ。……わ、私からも頼みがある」
「阿轟なに?」
「それをやめてくれ。さきほどペガサスは呼び捨てだった」
「ハーベストムーンは私の式神だ。厳しく接する」
「そうか……」
朱雀が黙りこむ。私は賢者の石を天に向ける。さあ、ルビーと哲人さんの使い魔の力を私が見せてやる。
「ま、待て……もうひとつ頼みがある」
「もたもただ。戦いは待ってくれない」
のろまは思玲に蹴り倒されるよ。
「わかった……私を魔女の手下にしてくれ」
「私は魔女ではない。ドロシーと呼ばないものを従えない」
「ド、ドロシー様。私はあなたの力と心に平服します。ぜひ式神としてお使いください」
「今これより名前を皐月とする」
「えっ?」
へへ、驚き方がかわいい。
「それはこの国の朱色の花の名であり、あなたが私へと等しく忠誠を誓う人の誕生月だ。よろしくねサツキ」
「……重い名をありがとうございます」
初めて目を合わせたときから、なんとなく感じていた。だから名前も用意しておいた。
サツキが飛びながら首を垂れてかしずく。
「開封!」私は賢者の石から解放する。
「クルル、今宵はあなたの式神デす」
カピバラの蝋人形ちゃんが宙に浮かぶ。
「私もキャンドルと呼び捨てテください。そして紅色にお灯しクダさい。クルルルル……」
かわいい! それより
めちゃつよ!
あらためて見ればわかる。天竺鬼畜大鼠は書の説明が足らず、星五個に暫定的に区類した。お風呂に並んで浸かりそうなカピバラちゃんがそれであるはずないけど、伝説の災禍であるヒンズーの悪魔以上に強い。
そして凶悪だ。ルビー・ハユン・クーパーにお似合いだ。
「我が主、こいつを灯すのだけはお避けください」
私の新たな式神が早速進言してくる。
わかっているって。
私は見た目に騙されない。この邪悪ちゃんは新月の最中に消……躾けまくって私の配下にしておとなしくさせる。そしたら賢者の石にあの子を入れられる。
「誰も来ないね」
「当然でしょう」
サツキが答える。敵も様子見か。
今夜が満月でなくてよかった。その夜の私では、カピバラちゃんは珠で息を潜めるだけだった。……生理でもなくてよかった。睦でさえ私から逃げただろう。
次はピークと満月が重なっちゃうかも。真紅にして深紅。凶暴化した四神獣も大和獣人さえ私から逃げる。だから引き籠らないとならない。だから今夜終わらせる。
「どいつも逃げないね」
「ドロシー様、魏が厄介です。当然アンヘラも」
レジェンド二体と私なら、すでに死地を脱したはずなのに。敵は新月の私から尻尾を巻いてくれない。やはり今夜が頂点のさだめかな。
だからまだ哲人さんを問い詰められない。ルビーめ。
次回「松本軍団VSヒューゴ軍団」