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二十五 青空給仕好餌

 ガラガラヘビと見つめあってしまった時間は六秒ほど。


「うわあ!」

 俺は飛びかかろうとする。理性が瞬時に戻ったなんてものじゃない。いまのシーンだけはあの人に見せてはいけない。


 だけどサンドが消える。……今度はフロントガラスの向こうに現れた。視覚を飛ばしてくる。


「ルビー!」

「いやっ」

「好きなんだよ。最初に逢ったときからずっと」


 俺は無我夢中で押し倒しながらそんなセリフを吐いていたのか。下着を突き破りそうな視覚のものと違い、実物はみるみる萎えていく。

 なにより早くサンドを倒せ。消滅させろ。明確な目的ができてしまった。


「ルビー。返して」

「えっ?」


 俺は天宮の護符を奪いとる。狭い車内で掲げれば、いつもはチカチカだけなのに、やはり過去最大に青く輝く。つまり俺は、お天宮さんも同意するほど過去最大にとてつもなき窮地。

 しかも自分で自分を守るしかない逆境。


「逃がすか!」


「ひっ」運転手が俺の怒声に悲鳴をあげた。


 ドアを開けようとして結界の内側に妨げられる。


「解除して」

「いいのですか?」

「はやく!」

「ひっ、は、はい……」


 降りればサンドは消える。……冷静になれ。追っても逃げられるだけ。ならば近寄らせろ。九尾狐の珠を餌にしろ。


「ひっはー」

「やっちまえ」


 立川の野郎どもがやってきた。俺を見習えよ。沈着になれ。


「邪魔だ!」怒鳴っていいところだ。


「え?」

「へ?」

 野郎どもが静まってくれた。


「なぜ? 昼の極薄めだろうとサキュバスに吸われた人を。私のマリオネットのドライバーまで……」

 ルビーも車から顔をだした。

「哲人さんは何者ですか?」


 夏梓群の恋人であり続けたい者だよ。

 カメラマンが仕上がりの確認みたいに本人にも見せたから分かる。血走った目、鼻息、股間。

 ドロシーはうぶな十九歳だ。経験値が初恋の人とソフトなキスで止まっている。知識だけは年齢相応もしくはそれ以上に仕入れている。俺が百の言い訳を並べようとあれを見たら間違いなく引かれてしまう。怒って術をぶつけられるぐらい我慢するけど、絶対に立ち去られる。


ズドン


 ……吹っ飛ばされた。


 痛くはないけどそのまま宙に浮かぶ。調布のスタジアムを見おろす。……ルビーから離れるなり捕まっちゃったかな。これはヒューゴの浮遊の術かな。

 んなはずないだろ!


「この野郎!」

「ひっ」


 俺は華奢な胴を両手でつかむ。そのまま右手を上へたどる。薄い胸を経由して、細い首にたどり着く。

 左手ではお天狗さんの木札が怒っている。


「ドイメだな? これは日本の怖い神様だ。もっと怒りだす前に俺を降ろせ」

 姿を見せない淫魔へ告げる。「そしてサンドを呼べ。お前と交換してやる」


「……ただの手から逃げられない。松本は何者?」

 忌むべき英語が目の前から伝わる。

「二度も捕らえられた。あの方が赦してくれるはずない。主との契約のため逃亡もできない」


 ドイメが姿を現す。ワンピース姿の白人少女と宙に浮かぶ俺。


「はやく決断しろ。さもないと消滅させる」

 どんな姿が相手であろうと、いまの俺ならできる。


「私にはヴァンパイアの血も入っている。倒すのは難しいよ」

「倒すではない。消滅させる」

「……私が消えたら松本は落下する」

「これくらいの高さ。この神様が守ってくれる」


 俺とドイメはしばし見つめあう。


「わかった。仕方ないけど」ドイメが笑みをこぼす。「すこしだけ本性をさらす」

 その口が横に裂ける。


「ひっ」俺は左手を更に押しつける。


 なのにこいつは余裕の面。


「まだ私に殺意はない」

 ワンピースがブラックフォーマルに変わったドイメが笑う。ぶっとい犬歯。首にかかった俺の手を引きはなす。

「力が増そうとたしかに松本は重い。でも頑張る」


 俺は上空へと引きずられる。町並みが広がっていく。……この高さから墜落したらお天狗さんでもどうかな。ドロシーの護りの術なら大丈夫だろうけど。


「さすがに疲れる。でも本性見せたくないし、落としても生き延びそうだし……」

 ドイメは体もひと回り大きくなっている。胸はふた回り。

「ちょうどいい。あれに移動してやる」


 今度はなめらかに調布上空を急降下。こいつが言うあれに気づけてしまった。

 離陸したばかりの小型プロペラ機。


「ふっ、人のつくりし頼りなき飛行」

 ドイメが機上へ着地する。俺から手を放す。

「私一人で倒せば名誉挽回。貴様へ害意なしで戦えばいい」


 それは言うより難しいぞ……。

 狭い機体に貼りつく俺。見おろすハーフ淫魔。俺達のためにバランスをくずしたのか、プロペラ旅客機がふらつく。調布飛行場を飛び立ったのなら、行き先はおそらく数十分で伊豆七島。

 高度を上げるまえに飛び降りろ! って無理。立ちあがる勇気さえ出ない。


 ルビーと離れたのは幸いとしよう。二度と絶対に会わない。さもないとドロシーに去られる。

 ルビーだって愛想を尽かしただろう。未練は微塵もない。ついでに夏奈への未練も断ち切れた。史乃とはただの友達になろう。金輪際、俺は夏梓群だけ。


「どうしたの? 半眠りの護符を押しつけなよ。穢れて弱まったら血を吸ってやる。精は遠慮しておくけどね、松本のは臭そうだから」


 あおられても耐えろ。狭い空中のスペースで、ドイメとタイマンする意味はない。それに吸血鬼に関係なく、どうせ黒いサザンクロスの忌まわしき加護で復活する。

 だが俺が怒りを込めて首を絞めれば……裂けた口がもとへ戻っている。服装もワンピースに。この姿へ怒りを持続できるほどドイメに恨みはない。臭そうなどと根拠なきを言われてもだ。

 捕らえてサンドとトレードが一番。そのためにおのれを餌にしろ。


「その姿だとかわいいね。なんかムラムラしてきた」

「術がかかってないのに、この体に? 松本はロリだったのか」

「……汗を舐めてよ。血も吸っていいから、こっちへおいで」

「きも! ベガスの多汗デブよりはるかに、きしょ! 本性さらすよ」

「そしたら胸も控え目でなくなるだろうね。体だけ本性さらせばもっと男を堕とせるじゃね」


 むかついて余計を言ってしまった……。ドイメもむかついたようで、その口がかすかに裂ける。牙も見えた。


Comedy duo( 漫才 )してる場合じゃない」

 すぐにもとの顔へ戻す。「主達が来たら私から殺される」


 こいつらは戦いのプロ。一人きりなんてでまかせで、アンヘラもヒューゴもハカに乗ってプロペラ機の隣にいるだろう。サンドは忙しく動きまわろうと、随時顔を見せるはず。

 囚われたのを幸いとしよう。蛇の口封じだけはする。さもないとドロシーがいなくなっちゃう。


「うーん。駄目か」ドイメが残念そうに俺の左手を見た。


 仕草だけはかわいいが、たしかに落ち着きを取り戻した右手の天宮の護符と違いお天狗さんは発動を持続している。害意を消しての攻撃どころか殺意満々だろ。少女の姿して何歳か知らないがやり取り不足。挽回のため必死すぎだ。


「ハカは俺を飛行機ごと落とさないのか。ヒューゴは殺人鬼と聞いていたが、躾けがうまいようだな」

 隣で眺めているだろう魔導師どもへ問いかける。


「撃墜してほしいの? それくらい私でもできるけどね」

 ドイメが不本意そうな顔になる。

「私も我が主も人間嫌いよ。統制を取りたがるアンヘラ様が怖いだけ。そしてハカもいない。私だけで松本を倒す」


「せいぜい頑張りな」

 俺は這いつくばったまま笑う。

「それとな、俺は一人でない。いつでも大蔵司京を呼べる」


 大嘘にドイメの顔が青ざめた。


「ドイメちゃんガセでっせ。あの魔女は奥底にいまっせ。……俺でも近寄れないが」

 真横からハカの声がした。お前らこそ嘘まみれだろ。

「はやく終わらせないとお偉方を振り切ってルビーが来まっせ、ひひひ」


 惑わしばかり。ルビーに使い魔はいない……けど、こいつらにも主はいない?


「ハカ。飛行機を落とすけど松本の仕業にしてね」

 確定した。ここに魔導師はいない。

「ハカは乗客を食べなよ。もちろん秘密にしておく」


 魔物しかいない。


「そりゃサンド次第だね。黙っていてくれるか? …………さすがアンヘラ様直属。OKだとさ」


 空飛ぶガラガラヘビもいてくれた!

 俺の右手で天宮の護符が煌々と輝きだした。またもお天宮さんが、俺の未来のために発動してくれた。ならば戦える。


「……ハカ。やっぱ一緒に松本を倒そう。なんか嫌な予感がする。私だけで殺したと口裏合わせてね」


 ドイメが青い光に埋もれた俺の手を見つめる。御推察とおり、俺は異形を完全消滅させられる。


「ヒヒヒ、これまたサンド次第。大島に到着してから済ませるのも有り」

「黙れ! てめえらの相手はしない。サンドだけ来い。ひっ」


 俺は立ちあがり、すぐに腰を引く。それだけで機体がバランス崩す。小型飛行機って意外に華奢なんだ。青空に浮かぶ足場で異形を待ち受けようと、俺が転がるだけで墜落するかも。……露骨に指名して不審に思われようがサンドだけは道連れにする。さもないと生き延びようが梓群のいない人生。

 というか乗員乗客は道連れにしない。プロペラで首分断なんて狙われたら、お天狗さんに跳ね返され十中八九落下する。

 見おろせば江の島が見えた。すでに相模湾。やけに低く飛ぶな。速度は遅め……。

 俺は決断しろ。決断を。お天狗さんに身を預けて飛び降りろ!


「追ってきやがれ!」


 宙へ身を任せかけて思いだす。その動作で小型飛行機が傾いたが、忌むべき世界の護りは水に無力だった。水牢ほかで経験している。

 尻からしゃがみ、プロペラ機がまた揺れる。


「この野郎」下へ向かったハカが戻ってきた。


「フェイントに引っかかったな。心を読めぬとたいしたことねえ」

 そういうことにしておけ。そして近づけ。俺がハカに飛び乗ってやる。


「……どうしたサンド? ちっ、また現れやがったのか」

 ハカがつぶやいた。


「サンド。奴は何が狙い?」ドイメが何もない空間に聞く。「……なにそれ?」


 何かがいる? 青い空と白い雲しか見えない。大島なら近いよな。はやく着陸しないかな。


「やっぱり電波を歪まされた。ヒューゴ様と連絡とれない」

 ドイメがスマホを握っていやがる。人である俺でさえ持ってないのに。何度も破壊されたのに。


「はは、それは異形用ではないよな。貧乏人には(俺とドロシーを倒さぬ限り)無理だ」

「どうだろう。追手から奪ったもあり得るよね」


「ペース乱されてまっせ。ドイメはこいつの会話に付き合うな。そんでサンドはアンヘラ様へ報告に向かえ」

 ハカが余計を言った。俺の獲物に逃げられる。

「俺とドイメで終わらせる」


 ドイメが巨大サソリへふわふわ移動する。同時に両方の姿が消える。これをされるときつい。


「俺は知っているからな。お前ら異形や魔物にもたしかに賢い奴はいる」

 蒼天へ忌むべき声で叫ぶ。プロペラ音にかき消されるはずもない。

「でもずれている。端的に言えば馬鹿だ。この飛行機を巻きこんでみろ。お前らの飼い主はペットの所業と気づく。罰を与える。あり得ないと思ってないだろな。ねじくれようが忌むべき力を携わったものは、本質が正義だ」


 そうではないと知っている。正反対の邪悪な魔道士も経験済だ。なんであろうと乗員乗客を犠牲にできない。なのに飛び降りたくない――


「え?」


 剣を上段にかまえたアンヘラが空から降ってきた。プロペラ機ごと両断する覚悟。でも違う。これは視覚。証拠に護符がブーストしない。ならばサンドはまだここに――アンヘラの燃えるような眼差し。


「くそっ」


 俺は飛行機から飛び降りてしまう。アンヘラには巨大サソリ以上に威圧がある。幻の存在だろうと覚悟を浴びせてくる。


 大の字で落ちる先は青い海。


どくん


 火伏せの護符が更に発動してしまった。これでハカにチョッキンされる恐れはないけど……墜落のプロである俺の経験則に基づけば、海面まで二十秒はある。近づいてからが早いんだよな。

 プロペラ機は去っていく。ドイメを乗せたハカは姿を現し寄ってくる。


「ハカ。激突で微塵になるか賭けよう」

「ルビーの護りは消えているぜ。即死に血のワイン十杯だ」

「あの飛行機には十八人乗っていたから二十七杯作れるけど、そんなに飲めない。でも殺戮を許可されたうえ、アンヘラ様と離れられる機会は滅多にない」

「ひひひ、松本の死を確認したらすぐにプロペラ機を追いまっせ」


 つまり一人につき血を1.5杯搾りとれる勘定か……。おぞましい会話をわざわざ聞かせるな。


「……分かったよ。松本を倒すのは見逃すが、ほかの人間を襲うは赦さない。そういうことだな」

 またハカが独り言をつぶやく。「あんたみたいな化け物と事を荒げない」


 ハカが恐れる何かがいる! でも俺を守ろうとしない。それでは意味ないけど、心当たりはある。


「ここに魄がいるのか?」楊偉天が。


「冥界にいたジジイのことか? ヒヒヒ、どうだろね」


 惑わされるだけ。どうであれ自力で切り抜けろ。それだけでは駄目。サンドを倒せ。

 そのためには更にお天狗さんを怒らせてくれ。さもないと賭けの対象のまま。……ドロシーのリュックにテントがあるはず。パラシュートになんて無理だよな……。

 この迷彩柄のリュックサックは以前より重い。そして明らかに強化されている。彼女が戦いで使うことはないけど……ひらめいた。亀で経験済だろ。

 リュックの奥まで手を突っ込めば、ずっぽり肩まで入った。この中に俺も入れるはず。でも自力で出られるのか? 海底に沈んだらどうなる?


 二十秒なんてあっという間だ。海面が近づく。ここからが早い。やっぱり手を引き抜く。海水が入らぬようファスナーを閉じて……。二人をつなぐリュックサックは盾にしない。

 太平洋が目前。


どくん


 お天狗さんが激しく発動。更には海面がラベンダー色に化した。

 二重の護りだ。


 ふわっと、俺は海に着地する。濡れることなく浮かんだままで見あげれば、ラベンダー色に包まれたプロペラ機がアクロバットによろよろ低空飛行してきた。

 開いたままの搭乗口から顔を見せるのはルビー。長い黒髪が風に流れている。


「哲人さん!」


 必死な忌むべき声は風に負けない。でも手を伸ばされようとつなげるはずない。交差はマジで一瞬――のはずなのに。

 プロペラの音。起こす風音。瞬間を長く感じる。俺の体が海から弾かれるように空へ浮かび、知らぬ間に伸ばした手が彼女の手と重なりあう。


「えい!」


 頼りない腕の力。それでも俺を離さない。二人は機内へ転がり込み重なりあう。


「嘘をついてごめんなさい」

 俺の下で俺の目を見ながら、ルビーが真顔で言う。

「人に限らず、自身で殺生した温血動物になら屍術をかけられます。哲人さんを救ったのはドルフィンか小さなホエールでしょう」


 ホテルの寝間着ははだけて、胸もとは透けたネグリジェ。それよりも。


「パイロット」俺は尋ねてしまう。


「え?」

「パイロットは生きているよね」

「マリオネットなだけです。次のフライトの準備をしていたので、ふふ、ハイジャックしました。行先は本来のフライトスケジュールのままに三宅島というアイランド。航路変更は危険なので、きゃっ」


 機体が揺れる。墜落を狙ったハカの攻撃だろう。どいつもこいつも危険だらけ。でもずば抜けて滅茶苦茶危険なのは。


「ありがとう」


 俺は礼を言い、ルビーから体をどかし立ち上がる。無人の小さく狭い客室。開いたままのドア。そっちにも怖くて近寄れない。


「機体もプロペラも結界で守られているので、アンヘラでなければ破壊できない。ひっ、……でも揺らされますね。こうなったらパイロットの腕を信じるのみ」

「アンヘラ達は?」

「鳩達の相手をしています。……私を恐れ、私を味方にしたい理由」


 それでもチコに乗って追ってくるかな? ゾンビになった鳩は強いの?


「どうやって鳩やイルカを倒したの?」

 椅子に手を置き奥へ向かいながら、それだけを聞く。


「海面に顔をだしたのがイルカかどうかは分からなかったけど……私は致死の術を使える」

 ルビーも立ち上がりついてくる。

「でも無害な弱いものにしか通じない。……だけど哲人さんの護符があればハカにも」


 ルビーが右手に目を落とす。知らぬ間に彼女のもとへ天宮の護符は移っていた。

 今度こそ決断しろ。


「ルビーはハカを倒したい。俺はサンドを消し去りたい。協力しよう」

「なんでサンドを……さきほどの視覚ですか?」


 そうだよ。もはや俺は一人しか目に入らない。

 また揺れてよろけてしまう。俺は椅子に座りシートベルトを装着する。リュックサックを抱えながらルビーを見上げる。


「ルビーも体を確保しな。……俺が本気で怒れば異形を消滅できる。黒いサザンクロスがあろうとだ」


 俺の言葉にルビーは何か言いたげだけど。


「信じます。ならば二人で餌になりましょう」

「ああ。そして噛みつきバラバラに引き裂く」


 まずはサンドを。……至難だよな。頼りになる俺の飛び蛇はどこだよ。ドロシーはまだ来ないでくれ。疲れたら休むという、昨夏のままの自己都合を見せてくれ。


『現行速度では三分で着陸態勢に入ります』

 棒読みのアナウンスが伽藍洞の機内へ流れる。


「なんて言いました?」

 ルビーが狭い通路を挟んで椅子に座る。


「じきに三宅島だって」

「ふふ、貸し切りだと早いですね」


 腰にベルトを回しながらルビーが微笑む。笑えるはずない俺は窓に目を向ける。七月の白い雲。青い空。遠くに金色の点が見えた。きっと大きいだろう。

 夏を終わらすものが、連中がいう本性をさらして追ってきた。

 まだずっと終わらせない。そのためには。


「使い走りの蛇め、ここにいるか?」

 返事があるはずない。ならば。

「ルビー探せるか?」

 夏を潤す者へすがれ。


「……哲人さんの必死な理由が分かります」

 それでもルビーは護符を掲げる。

「焼きつくほどに照らせ!」


 機内がラベンダーだけになる。清廉な色。きっと悪しきものは照らしだされる。

 俺は網膜破壊するような光にも順応してきている。目の上に手をかざしながら機内を見わたす。……サンドはいない。


「なんと……」

 代わりに楊偉天が浮かんでいた。





次回「三宅有事」

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