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死にたがりの僕

作者: 中性

4/27 15:28 僕は死んだ。






自殺だと思ってもらえるように、入念に部屋の施錠を確認する。窓が閉まってることの確認はこれで3回目だ。



遺書も書きたかったが、あいにく僕は字が汚い。人生の終わりぐらいはキレイに終わりたい。だから、僕はパソコンを開き、ワードを開く。これで字の汚さを心配する必要はない。



しかし、僕が死んだ後、パソコンがスリープモードになって、遺書が見えなくなるのは困る。そう思って、パソコンのスリープモードを解除する。そして心配性の僕は、スリープ解除がちゃんとできているか確認するために、画面を5分眺め続ける。「よし、スリープされないな」。ほんとバカみたいだ。僕は今から死ぬと言うのに、何をそんなに心配しているのだろうか。これだから世の中、生き辛いんだろうな、まったく。



時計の針は、15:19を指していた。



天井に紐も吊るしたし、椅子も準備した。首吊りの予習も完璧だ。あ、そうだ、最後にトイレに行っておかないと...。



首吊りというのは、想像よりも壮絶な光景だと聞く。なぜかと言うと、意識を失った後、全身の筋肉が緩む。その際に、膀胱も肛門も緩むため、その現場は尿と汚物まみれになるのだ。それを事前に調べていた僕は、被害を最小限にするために、昨日から絶食して水も一切取ってない。体の中はすでに空っぽだ。もはや、空腹と喉の渇きだけで死んでしまいそうだ。体に力はない。



そして人生最後のトイレを済ました。時刻は15:22。



椅子に登る。そして首に縄を回す。あとは飛び降りるだけだ。果たして、うまくいくのだろうか。そんな不安が体にこびりついてくる。足先から根を這うように、腰まで伸びてくる、そんな感覚。



僕はその不安に飲み込まれる前に、行動に移す。



15:24。僕は椅子を蹴り飛ばす。







こんこん・・・・

バンっ!!!!!!!!



そんな音が聞こえた気がした。そして僕の意識は、闇に溶けていった。





=======


『4/24 5:36』




なんで僕は、朝からこんなところにいるのだろうか。



大阪から夜行バスに乗り、淀んだ空気が漂う中、バスの振動に揺られながら、浅い眠りを続けること約9時間。新宿に到着。新宿の朝はむせかえるような静けさが漂っていた。路上では、昨晩、飲みまくったであろうネクタイを緩めたサラリーマン。多分、男の相手をし終わったであろう、風俗嬢らしき女性。眠そうにベンチに座りながら、意味もなく自分のネイルを眺める女の人。カラオケ終わりであろう、ガラガラ声の男女4人組。静かな雰囲気に全く似合わない人たちが、おとなしく街を歩いている。不可思議、極まりない。



え、僕がなぜ新宿にいるかって?



それはとあるサイトが関係している。



「自殺通信」



いわゆる自殺願望者が集まるネット上のスラム街みたいな所。サイト作成者は不明だが、コロナが大流行した2020年4月、突然ネット上に出現した。



君は「地獄少女」というアニメを知っているだろうか?。あらすじはこうだ。



___

世間では、ある都市伝説めいた噂が流れていた。 「午前零時にだけアクセス出来るウェブサイト『地獄通信』に晴らせぬ怨みを書き込むと、地獄少女が現れて憎い相手を地獄に流してくれる」。 しかし、その噂は真実だった。

___




そんな内容だ。これはただのアニメの内容だが、これをマネて作られたサイトが「自殺通信」だ。なんとも滑稽というか、安直というか。誰がどう見ても、子供のお遊びみたいな、まさに「釣りサイト」の典型とも言えるものだった。そう、最近までは。



1週間前に、とある投稿が上がった。




「飛び降り自殺を生配信します。日時は・・・」そんな内容だ。なんでも女子高生2人が彼氏に浮気されて、人生に絶望して....みたいな経緯だったと思う。あまりに衝撃的すぎて、すぐ情報が削除されたので僕もうる覚えなのだ。



ここまでは今まで通り、構ってほしい女子高生の自演だと思われていた。しかし、数日後、本当にマンションから飛び降りる瞬間が生配信されたのだ。その映像は自演するには、あまりにはリアリティがあり、鈍い衝突音が記録されていた。僕自身、人が飛び降りた時の、衝撃音なんて聞いたことはないが、本能でそれが"本物だ"と言っていた。



翌日、女子高生2人の飛び降り自殺のニュースがテレビ局、ネットニュースに取り上げられ、さらにあの映像が本物だったのだと思い知らされた。



そう、自殺通信は釣りサイトではなく、本物に変わってしまったのだ。そして昨日の夜11:00に、こんな投稿がアップされた。



___

私はこの「自殺通信」を作った作成者です。

4/27 15:28 私は自殺し、このサイトを閉鎖します

___



これまで、サイト作成者は投稿に一切関与してこなかった。今回、始めて作成者を名乗る者が現れ、囚人たちからの書き込みは白熱する。あ、囚人とは自殺通信でコメントをする、いわばリスナーのことだ。誰が最初に言い出したのかは定かではない。



偽物か、そうでないかの議論が白熱していたが、僕はどうでもいい。そんなことよりも、僕は別のことを考えていた。



「なぜこのサイトを作ったのか?」

そのシンプルな問いだ。



僕は昔から漠然とした自殺願望がある。小学校の音楽の時間に、みんなの前でリコーダーを吹いて失敗した日。中学で野球部の先輩の名前を覚えられなくて、いじめられた日。高2の3月、クラス替えになって離れる前に彼女に告白し振られた、そして4月、同じクラスになって気まずくなった日。



あぁ、消えてなくなりたい。



そんなしょうもない理由で、死にたいと願ってしまう僕。そしてそれを実行する勇気がない僕。どうせ死ねないのだ。自分で「もう死んでやる!」と思いながら、そう思っている僕を想像して安心する。



時には「毎日、生きているからこそ、確実に死に近づいているよね」なんて、捻くれた思考をした時もあった。



僕はしょうもない人間なのだ。誰かを惹きつけて魅了するモノがあるわけでもない。自分から誰かを巻き込んで何かを取り組む熱量もない。かと言って、1人で寝中できる趣味があるわけでもない



ただ毎日YouTubeを開き、ショート動画をスクロールして、時間を貪り食っているだけ。命をただ溶かしていくだけの人生。



唯一、何か興味があるとすれば、「死とは何か?」という答えのない、ある意味哲学っぽいことを頭の中で、ぐるぐる考えることぐらい。



ただこの思考は誰かに共有するのは、ダメな気がした。だからずっと胸に秘めていたのだ。友達とは、流行りのスマホゲームやりながら、限定キャラのガチャ引くぜ!みたいな当たり障りのない会話をして楽しんでる。



だから僕は内心、嬉しかった。自殺通信というサイトが生まれたこと。そこには同じような思考の人たちがたくさんいると気づかせてくれた。自分は1人じゃないよ、と言ってもらえる気がした。まぁ、自殺願望の集団に「仲間」という価値観が当てはまるかは、ちょっと微妙だが。



だからこそ、僕は気になって仕方なかった。




「なぜこのサイトを作ったのか?」




この作成者も僕と同じで、漠然とした自殺願望があるのか?。なぜ今、自殺宣言をしたのか?女子高生飛び降り事件が関係しているのか?サイトを閉じる理由は?というか自殺したあとにどうやってサイトを閉じるんだ?



疑問は尽きない。こんなに何かを知りたいと思ったのは初めてかもしれない。




Twitterのとあるツイート「自殺通信の作成者は新宿近辺にいるらしいよ」。



そんな本当かもわからない情報を頼りに、僕は新宿まで来てしまった。全くバカ丸出しだ。この話は墓場まで持っていかないとダメだな、黒歴史すぎる。



そんなことを思いながら、近くのファミマで缶コーヒーを買う。新宿まで来たはいいが、ここから先の情報は全くない。どうして僕はこんなバカなことをしてるのだろう。



手がかりは全くない。やることもない。東京に友達もいないし、もちろん裏社会の情報屋みたいな知り合いがいるはずもない。



そこで僕は自殺通信を使うことにした。


___

4/24 6:47 件名:自殺通信の作成者に会いたい


1:誰でもいいので情報をください。棒は今、新宿にいます

___



我ながら間抜けな投稿をしたものだ。自殺うんぬんではなく、人探しの投稿。誰も反応するわけがない。そう思っていた。しかも誤字までしている。なんだよ「棒は今」って。本当は「僕は今」と打ちたかった。まだ寝ぼけているようだ。



___

4/24 6:47 件名:自殺通信の作成者に会いたい


1:誰でもいいので情報をください。棒は今、新宿にいます

2:池袋

___



「池袋」、その単語だけが送られてきている。僕の誤字にツッコミを入れられなかったことも、ちょっと悲しくなったが今はどうでもいい。


にしても意味がよくわからない。なんだよ一言「池袋」って。

しかし何もすることがない僕は、池袋に行ってみることにした。




___

4/24 6:47 件名:自殺通信の作成者に会いたい


1:誰でもいいので情報をください。棒は今、新宿にいます

2:池袋

3:やることないので、池袋まで移動します

___




こう返信して、僕は山手線に乗るためにJRへと向かった。



その後も自殺通信のやり取りは続き...。僕はついにとあるマンションの一室についていた。ここにくるまでに3日間もかかってしまった。何があったかというと、もうそれは到底書ききれないほど濃厚な3日間だった。



そして僕は扉をノックした。時刻は・・・。



『4/27 15:27』だったのは、はっきり覚えている。

なんで死にたがりなのか・・・。あなたにはどんなストーリーが見えますか?

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