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異国の舞姫はポンコツ皇子を笑わせたい  作者: にわ冬莉


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 ララナは考えた。まず、部屋に戻ろう、と。自分が部屋にいないと知れれば探されてしまうかもしれないからだ。足音を立てないよう、そっと部屋に戻り、毛布を丸めて上から布団を掛ける。ちゃんとベッドにいるかのような演出。これでパッと見には、寝ているように見えるはず。


 そして部屋の明かりを消すと、廊下に誰もいないことを確かめ、再度部屋を出る。そのまま上の階にあがり、無数の扉を眺める。きっとリダファはこの中のどこかにいるのだろう。だが、一部屋ずつノックして女中たちに気付かれては元も子もない。仕方がないのでそのままもう一つ上の階にいく。甲板にも出られるこの階には、食堂や小さなホールなどがある。操舵室は甲板を出て、更に上だ。


 厨房の方にはまだ明かりが灯っており、数人が何か話しているのが聞こえる。朝食の仕込みだろうか? 


「あのっ、」

 厨房に向かって声を掛けると、中から出てきた料理長らしき男が驚いた顔でララナを見た。困惑している様子だ。

「ララナ様っ? こんな時間に如何しましたか? お部屋に戻られているとばかり」

「リダファ様、おさけくださいて、部屋まできて」

 なんとか彼を引っ張ってリダファの部屋に行けないか試みる。だが、


「真夜中過ぎたら部屋に戻って、一歩も外に出るなって言われてるんです。ララナ様もお戻りください、すぐ!」

 怖い顔で言い返されてしまう。

「なんで、外、ダメ?」

「そりゃ……知りませんが。ハスラオ様の命ですから黙って従うしか」


 ああ、やはり皆、ハスラオには逆らえないのだ。彼がしようとしていることを告げたとしても、きっと誰も助けてはくれない。


「私、もどる、へいき。おやすみなさ!」

 ぺこりとお辞儀をし、その場を離れる。そしてそのまま気付かれないよう、今度は甲板へと向かう。


 夜中は出歩くなと言われている? 何故? 見られると困ることがあるから?


 外に出る。

 月明りのおかげで、何も見えないということはなかったが、夜の海は暗く、危険であることをララナはよく知っている。


 ニースは島国で、幼い頃から海は生活の一部だった。施設暮らしだったララナ……ヒナはよく海へ出向いて遊んだものだ。


 幼かったころを思い出す。

 物心ついた時には施設の子であった。王宮に奉公に出されたのが十歳になるもっと前だったか。同じ年のララナは、王女であるにも拘らずヒナを大切な友として扱ってくれた。


(ララナ様、あれからどうしていらっしゃるのだろう……)


 無事かどうかもわからないままなのだ。


 ガタン、


 人の気配がして、驚く。

 さっと物陰に隠れると、息を殺した。

 誰か、出てきた?

 身を隠してしまったので甲板の入り口が見えない。


「本当に上手くいくのか?」

「まぁ、ハスラオさまがそう言うんだから問題ないだろ」

「しっかし、潮の流れまで計算して、ってのは驚いたな」

 聞いたことのない声だ、とララナは思った。野太くて、粗雑な話し方。イメージ的には、大柄な男たち。


(あ、もしかして……)


 船に、船員とは違う兵士のような男が数人乗っていたのを思い出す。リダファが「このえ」と言っていたが、ララナには「このえ」という単語の意味がよくわからなかったのだ。


「で、準備は?」

「向こうでやってくれるみたいだぜ。俺たちは呼ばれたら運んで、落とせばいいらしい」

「ひゃ~、ここから落とすのか。一国の王子様を!」

「ばかっ、声が大きい!」

「おっと」

 そこから先は小声になり、聞き取りづらくなってしまう。

 しばらくすると、男たちの声が聞こえなくなり、辺りに静寂が訪れた。


(落とす、って言ってた。どうしよう。リダファ様が危ないってわかってるのに、誰に助けを求めればいいかわからない)


 外交官であるハスラオ。どうやら彼が首謀者。この船でリダファを除き、一番偉いのがハスラオだということを、ララナは理解している。そのハスラオが敵なのだ。

 何とかしなければならない。独りで。


 そうこうしているうちに、時間だけが過ぎる。


 ガタン


「おい、気を付けろ」

「わかってるって」

 ぼそぼそとした声を上げながらさっきの二人が戻ってくる。いや、姿を確認すると、三人……四人の影が見える。


「さぁ、時は満ちた。今こそ未来への扉を開く時がやってきた」

 そう言って顔を緩ませているのはハスラオである。

「そろそろ潮目が変わる場所だ。うまく流れ着いてくれることを祈ろう」

「しかしハスラオ様、目を覚ましちまう心配はないんですかい?」

 男のひとりが訊ねる。と、

「万が一意識が戻ったとしても、香のせいで体の自由はあまり効かないはず。まず、問題なくあの世行きですよ」

 楽しそうに喉の奥でクツクツ笑う。


「さ、始めましょう」

 先に立って甲板の船尾方向へと歩き出す。男二人は、真ん中でだらりと体を預けている男の腕と足を抱えるようにして持ち上げ、運んでいた。


 ドクンッ


 ララナの心臓が激しく波打つ。


「リダファ……さ……ま?」

 暗くてここからでは見えないが、本当にあれはリダファなのか? ハスラオは本気で、リダファを海に……?


 男二人が船尾へと向かう。ララナは気付かれぬよう、彼らに近付いた。どうすればいいかわからない。大声を出して騒ぎ立てたとしても、きっと誰も助けてはくれない。そんな気がした。


「リダファ様、お別れです。あなたには何の恨みもありませんが、致し方ない」

 ハスラオが眠っている男の髪を掴み、顔を上に向けるとそう告げた。月明りに照らされたその人物は、間違いなくリダファである。


ガナミシラハッ(やめなさいっ)!」


 ララナがハスラオの前に飛び出した。


「うわっ」

「なんだっ?」

 男二人が怯む中、ハスラオだけは一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに口の端を上げる。

「おやおやララナ様。なぜあなたがこんな夜更けに……」

ケニジャ(かれを)ナバリ(はなして)!」


『あなたは部屋で休んでいなさい。何も知らない、見ていないと言えばそれでいい。国に還して差し上げます』

 ハスラオがニースの言葉で答える。


『何を言っているのです? リダファ様を放してください!』

『それは出来かねます』

 パチン、と指を鳴らすと、男二人が一瞬の目配せの後、リダファを持ち上げ船尾から海へと投げ落とした。


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