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異国の舞姫はポンコツ皇子を笑わせたい  作者: にわ冬莉


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初めての公務

「なんだ、お前も来ないのか」

 リダファが港でイスタに訊ねる。

「ええ、本当は同行したいところなのですが、どうしても外せない用事が出来てしまいまして……」

 不服そうに顔を曇らせる。


 リダファとララナの初めての公務だ。本当なら付いて行って見届けたいところなのだが。


「まぁいい、うまくやってくるさ」

 ポン、とイスタの肩を叩く。

「道中、お気を付けて」

 意味深にそう言うイスタに、リダファが口の端を上げた。

「わかった」


 船に乗り込む。


 港には大勢の市民が押し寄せ、ララナの姿を見ては手を振っていた。

「ララナ、顔が引きつってるぞ?」

 緊張でカチコチになっているララナに声を掛ける。

「リダファ様、いっぱい、人……」

「笑って、手を振ってごらん?」

 そう言われ、ララナがにっこり笑って手を振った。すると市民からワーッと歓声と拍手が上がる。


「みんな、笑った!」

 ララナが満面の笑みでリダファを見上げる。

「みんなララナを見たがってるのさ」

「私見て、どうしるのです?」

「どうもしないさ。ただ、祝福を」

 民衆はアトリスの次期女王に興味があるのだ。そこに意味などない。だが、民衆からの支持を集めるというのは王宮の人間にとっては大事なことだった。


「私、手、ふる!」

 ララナが両手で大きく群衆に手を振った。まるで小さな子供がやるような、無邪気な動きである。群衆からどっと笑いが漏れた。

「ララナ、やりすぎっ」

 ぷぷぷ、とリダファが手で口を押える。ララナは恥ずかしそうに手を下ろし、リダファの背に隠れた。


「さ、出発だ」


 ボーッと霧笛が鳴り、ゆっくりと船が動き出す。これから丸一日、船で海を渡る。

 これから向かうのはミダス大陸。カラツォ国はミダス大陸の中でも大きな国であり、アトリス国とは付き合いも長い。今回の公務はカラツォ国王の就任三十年を祝う式典への参加だ。初めは国王であるムスファが行くことになっていたのだが、リダファの結婚を機に挨拶も兼ねて夫婦での公務となった。国王ムスファはリダファの結婚が決まった時からこの公務に行かせるつもりだったようだ。


「中に入るか?」

 甲板でしばらく海を眺めた後、リダファが言った。ララナは一瞬考えた後、

「もっと、すこし」

 と答える。

「じゃ、もう少しここにいるか」

 なんとはなしに肩を並べ、海を見る。


 海外公務は久しぶりだ。最初の一回はまだ兄がいた頃。ただ、家族と旅行が出来るとはしゃいでいただけだった。二度目は兄が亡くなった後。皇太子となったことを報告する挨拶のために数ヶ国に出向いた。


 今回の公務自体は半日もあれば終了だ。折角だからそのあと観光を楽しみたいところだ。ララナはニースとアトリス以外の国を知らないだろうからきっと楽しいはず。いや、まずはアトリスをきちんと案内すべきか……などと考え始めたら楽しくなってきた。


「リダファ様、なに? 笑ってる?」

 ララナがリダファの顔を見上げ、首を傾げる。

「ああ、ララナと一緒だと楽しいな、って思って」

 そう言って笑顔を向けると、ララナがパッと顔をほころばせ、

「私、おなじ! リダファ様、おかしい!」


 ちょっとニュアンスが違うが、まぁいいか、とリダファが肩をすくめた。


*****


「リダファ様、式典の打ち合わせですが、明日の朝にいたしましょう」

 夕食の後で外交官であるハスラオがそう声を掛けてくる。


「明日?」

「今夜は慣れない船の上ですので、お早めにお休みください」


 今回の同行者は、見知らぬ顔が多い。イスタが外されていたのもそうだが、女中たちもいつもとは違う顔ぶれだ。ララナの通訳も同行していない。今回の公務に関しては、ハスラオが全権を任されているという事らしいが、近衛たちも『精鋭部隊』と称して集めたと説明を受けた。確かにいかつい男が目立つ。


「お部屋は二つ、準備してございます。何分狭い船内ですので、今夜は別々でご辛抱いただきますようお願いします」

 そう言うと、女中の一人がララナを連れ出す。少し不安そうな顔をするララナに、リダファが

「おやすみ」

 と声を掛けた。


「リダファ様、就寝前のリコ酒はお飲みになりますか?」

 ハスラオに言われ、少し考える。

「いや、やめておこう。船の上では悪酔いしそうだ」

「承知しました。では、お部屋の方へ」

 女中が一礼し、

「こちらへ」

 と手を差し出した。


 船内は、上の階と下の階に別れて数十の個室がある。リダファは、上の階の部屋へと案内される。

「ララナの部屋は何処なんだ?」

 女中に訊ねると、

「すみません、私は存じ上げておりません。リダファ様のお世話を、と言われただけですので」

 と返された。

「そうか」

 リダファは並んだ扉をチラリと見遣る。先に席を立ったララナがどの部屋に案内されたかを、リダファは知らない。


「こちらがリダファ様の寝室となります」

 扉を開け、女中が言った。

「ありがとう」

 中に入ると、シングルのベッドとソファセット、小さなチェストが置いてあるシンプルな客室である。確かに、ここに二人は狭そうだ。


「よく眠れますように、少し香を焚いてございます。なにかございましたら、右隣の部屋で待機しておりますので、ご遠慮なくお申し出ください」

「わかった」

「では、失礼いたします」

 深々と頭を下げ、女中が部屋を出て行った。


 小さな丸い窓から外を見る。

 もう夜も更け、外は真っ暗だった。

 かろうじて月明りが差し、海と空の境を見せてくれている。


「ララナは寝たのかな」

 口にして、急に恥ずかしさが込み上げる。寂しがっている自分に気付き、赤面する。

「子供じゃあるまいしっ」

 (ほだ)されたとは思いたくなかったが、ララナは孤独だった心を埋めるのに余りある存在だと認めざるを得まい。彼女が来てからの王宮は、明らかに灰色ではなくなったのだから。


 ベッドに体を投げ出す。

 優しい香の仄かな煙が、いつしかリダファを深い眠りへと誘ってゆくのであった。


*****


(つまんない)


 その頃ララナは、案内された部屋で一人、眠れずにゴロゴロしていた。


(リダファ様、もう寝ちゃったのかな)


 さっきまで一緒にいたのに、もう会いたい。ララナにとっては初恋である。初恋相手が、結婚相手なのだ。可能であるなら、四六時中くっついていたいくらいだった。

 自分が本物のララナではないと知ってからも、リダファは優しく接してくれた。微笑んでくれた。それが自分にとってどれだけ嬉しかったことか。


(リダファ様、最近よく笑ってくださる)


 あの日、使者様に聞いた「三年近く心を閉ざしている」が嘘ではないという事を、会ったその日に知った。あの日のララナと同じ、沈んだ眼をしていたからだ。そんなリダファをなんとか笑顔にしたくて、元気になってほしくて、今はそれだけが自分に出来る精一杯の恩返しだと信じている。


(リダファ様のお部屋、どこかな)


 ララナはベッドから起き上がると、部屋を抜け出したのだった。


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