地の文の旅
ねぇねぇ会話文さんたち。
「なに?」
「なぁに?」
何だかボクのような地の文は必要とされていないみたいなんだ。面白かったら君たちがどんな容姿だとかどんな性別だとかどこに居るかとか、どうでもいいらしい。だからボクって要らないかなって思う。
だから……、
「あ!」
「あー!」
少し旅に出ます。探さないでね。
「ちょっと待ってよ!」
「これじゃあどっちがどっちだかわかんないよぉ」
「でも、会話文の私たちだって一人称で使い分けられるよね」
「ホントだね。じゃあ私は『僕』に変えよう!」
「……私たちって何者なんだろう?」
「それも僕たちで決めちゃう?」
「ナイスアイディア! じゃあ私はお医者さん」
「じゃあ僕は患者さん」
「……」
「……」
「話を進めよう。どんな症状ですか?」
「えっとねぇ……お腹が痛くて……」
「どんな風に傷みますか」
「うーん。チクチク痛い? あ。そうだ、ちょっと前に生魚食べたことにしよう! で、お薬と病名は?」
「わかんない。たぶんアニサキス系」
「……つまんないね」
「うん、つまんない」
「帰ってこないかなぁ地の文」
「はぁ……僕って何者なんだろう」
「私もそれが知りたい」
「「地の文を探そう!」」
「おーい、地の文! どこに居るの?」
「僕たちとっても困ってるんだ! 帰って来てよぅ!」
こそっ……。
「ん、なんか気配を感じる」
「僕も!」
「もういっちょ! 地の文。君が居なければ私たちは路頭に迷ってしまうよ。どんなに『いつもより寒い春』っていっても、説得力に欠ける。なにより、私は本当に『私なのか』って不安になる。帰ってきておくれよ。じゃないと話し方も会話も何もかもブレブレだ」
「僕も。自分が何者かを知りたいよぅ!」
……。
本当に居ても良い?
「うん」
「もちろんだよ!」
その言葉とともに、男女二人へ光が当たる。
彼らは本来の目的を思い出した。男性は凄腕の剣士。名の知れた、ギルド『ツバメの巣』を統べる者である。名前はジェームズ。相棒の弓使いのキャサリンは、
「これでやっと自由に動けるわ!」
というと、一つに結った長い髪をひらりと風になびかせて、地面を蹴った。ジェームズはそんな彼女を誇らしげに見つめて、同じ方に足を向けた。
向かうは、西にあるゴブリンの巣。
弓使いのキャサリンには少し不利な任務だ。小手先の効く仲間が必要になる。
ジェームズは、
「先ずは、小剣使いや、ガードが堅いタイプの仲間を探そう」
そう言って、キャサリンの後を追った。
…………どう?
ボクって必要かな?
「こら地の文。自我を出すんじゃないわよ! また私たちが迷子になっちゃうじゃない!」
キャサリンが怒った……。
「まぁまぁ。これからもよろしくな。俺たちを勝利に導いてくれ」
ジェームズは笑った!
その後。無事に仲間を見つけてゴブリン退治に成功したジェームズたちはギルド『ツバメの巣』をもっと大きな存在にしていったという。
やったねっ!




