第七話 育成3
育成を始めてから三か月の月日が流れた。
(ゴブリン達がレベル60を超えたか…。他の下級種族も全員レベル50代だ。これならばゴブリン一体で、兵士二、三人は相手にできるだろう。これだけで数の差がひっくり返るとは思っていないが、作戦の幅が増えることは間違いない)
三か月の間、彼等は魔物が近くまで移動して来たら狩り、それまではシャクナとジョンの訓練を受けるということを永遠と繰り返していた。
すでに殆どの魔物は狩り尽されており、後は奥から出て来ない移動をする必要がない強力な魔物くらいが残っている程度である。
それは弱肉強食の世界で負けた魔物が、真っ先に森の奥から逃げるように移動するからだ。
そして最近では、餌の弱い魔物がいなくなった強力な魔物まで現れるようになっていた。それでも高レベルとなったゴブリン達の相手ではなく、デリス達がおらず罠を張れなくても問題なく討伐ができるほどである。
(デリス達もかなりレベルが上がったよな。特にナノが…)
中級種族の、特にリーダー役を担当してた者達で固めた部隊。その部隊はレベル上げのために遠征に行き、帰って来てはまた遠征にと繰り返されていた。
レベル上げが楽しくなったようで、彼等は徐々に高レベルの魔物がいる場所へと赴くようになり、さらにレベルが上がればより高レベルの魔物がいる場所へと向かう。
その結果、レベルの上がり難い中級種族である彼等は、全員レベル40後半となっていた。流石に一騎当千とまではいかないが、それでも小隊一つ程度であれば一人で蹴散らすのではないかと思える強さになっている。
下級種族であっても、高レベルになれば比例してレベルの上りが悪くなる。必要経験値が増えるからだ。そのためゴブリン達はレベル60代なのだが、ナノはその枠に収まらなかった。
彼女は中級種族達と一緒に、何度も遠征に赴いていた。デリスと二人で罠役を務めるためだ。その結果、高レベルの魔物を一緒に倒し、かなりの経験値を得ることができた。
「私達、隊長のおかげで強くなれましたよね」
「これならば、こそこそと隠れるだけの仕事以外もできますよ!」
「そうなのです! 今までとは違うのです!!」
ナノと他のピクシー達が話しているのが、悠斗の耳に入る。
(残念だけど、もうナノは君達の知っているピクシーじゃないんだよ…。というか、この世界にレベルの上限はないのだろうか?)
ピクシー達がレベル50代なのに対して、ナノはすでにレベルが102と違う次元にいた。これには鑑定してレベルを確認した際、レベル99や100で上限が来ると思っていた悠斗もかなり驚いていた。
(種族もピクシーじゃなく、恐らく上位のハイピクシーになっていたし。シャクナにも聞いてみたけど、ゲームでよく見たハイオーク等の上位存在も知らないらしいし、レベルの上昇で種族が進化するのだろう。今までいなかったのはレベルをかなり上げなければいけないからか、それまでに死んでしまっていたのか)
ヘルザードはヴァンパイアの上位種であるヴァンパイアクイーンだ。彼女のレベルを考えれば、種族の進化を経験したとは思えない。
上位種となった魔族の子供は、同じく上位種として生まれてくるということだ。
(シャクナがあれだけ尊敬されていたのに…)
今でも第五部隊の者達はシャクナへ尊敬の眼差しを向けていることには変わりない。だが上位種であるシャクナはレベル28であり、デリスやユヤといった中級種族の者達の方が、能力値は強くなっている。種族特有の能力等もあるため、能力値だけでどちらが強いとは言えないが。
ナノは高レベルの上、さらに種族進化によって中級種族となっている。それでもレベルを考えると、純粋な中級種族と比べて能力は落ちるので、準中級種族といったところだろう。
「流石に、そろそろレベル上げも辞め時だよな」
「そうだな。確実に強くなってはいるが、狩り過ぎた。遠くまで行かないと魔物がいないのでは、効率が悪すぎる」
(シャクナの言う通り、もうそろそろ限界に近い。それに皆レベルが高いため、一定以上の強さを持った魔物でないと、群れごと滅ぼしてもレベルが上がらない時もある)
遠征部隊は少数だから問題なかったが、全員を同じように遠征させると問題だ。ローテーションさせたとしても、全員のレベルを上げるのに何年も必要となる。
(何より一番の問題は、魔王領が小さいことだ。人間の領土に入らないと、これ以上魔物狩りは難しいだろうな)
遠征部隊も、流石に人間の領土に足を踏み入れた訳ではない。そのため、魔王領の様々な場所で魔物を狩って来た。今では殆ど魔王領に魔物が残っていないと言ってもいい程だ。そしてそれは、他の魔族のレベルを上げの機会を奪うことにもなる。
他の魔族達はレベルを上げることに意識を向けていないので問題となってはいないが、あまり褒められた行為ではない。
因みにそのおかげで、魔王領の食糧事情がかなり改善された。悠斗はそこまで考えていなかったようだが、魔物の肉や山や森に入った際に採れる山菜や茸類等、数々の食料が大量に手に入ったからだ。
魔族は食料に困窮している訳ではないが、決して潤っているとも言い難かった。それをたった三か月で改善してしまったのだ。それも自分では気付かない内に。
(どうにかして領土を増やさないと…。やはりそろそろ、第五部隊も本格的に戦争へと介入した方がいいのか?)
元々彼はヘルザードの役に立つため、この部隊の隊長となってここまで育成したのだ。戦争や殺し合いに、今更臆する彼ではない。
「第五部隊の隊長であるユウト殿はいるか!」
そんな時、大声で悠斗を呼ぶ声が聞こえてきた。
「俺はここにいる」
「貴殿がユウト殿か。私は第三部隊からの伝令を…」
そして彼は内容を聞く。どうやら東南の国が戦争に力を入れ始めたので、そちらへヘルザード達の力を集めたところ、北にあるレジトワ国が大部隊で進行してきたようだ。
一斉攻撃という罠に、まんまと嵌ったということである。
小国だからと第三部隊以外を全て東南に回してしまったため、今は第三部隊だけで凌いでいる状態だという。それも長くは続かないという話だ。
他の部隊にも伝令は向かったようだが、かなり距離があるため、救援に向かうのには時間が掛かる。そもそも他の国も力を入れているため、救援に向かえる部隊がいるかどうかも分からない。
今すぐに駆け付けることができるのは、この第五部隊だけだ。
「第五部隊に救援を求めるということが、どういうことか分かっているのか?」
「シャクナ様…。はい、分かっております。隊長もこの進行を無事に食い止めることができた後、しかるべき処分を受けると」
「分かった」
「? どうして処分を受ける必要が?」
悠斗の質問に答える者はいない。彼がヘルザードにとって大事な嗜好品(血)であり、彼女が大事にしているので第五部隊だけでなくシャクナを付けたことは、彼と第五部隊の者以外にはとっては周知の事実なのである。
因みに一か月に二度、シャクナが悠斗の血をヘルザードの下まで運んでいた。
「まあいいか。それよりも救援には向かう。このままだと第三部隊が壊滅するだけでなく、北部の大部分が切り取られる可能性がある。異論はないですよね?」
「ここにいても絶対に安全と言い切れないし、仕方がないな」
堂々と話していたのに、最後にはシャクナへと窺いを立てるところが彼らしい。
そしてそんな彼に、彼女も苦笑しながら答える。シャクナも事態が事態だけに、ヘルザードの意向に背いてでも援助に向かおうと考えていた。
それに、今の第五部隊ならば何とかできるのでは…とも考えていたりする。何だかんだで、彼女も悠斗が第五部隊の者達を育成する姿を見て来たのだ。
「部隊の準備が整い次第、援助に向かう。向こうの空き家で休んでくれ」
「感謝します」
こうして初の戦争が決まった。
(北部のレジトワ国。ここは小国で、さらに魔王領の北部を任されている四天王もいる。一番の狙い目だ。向こうから来てくれるなら、追い返すついでにこっちからも攻めたいな)
彼は早速作戦を練り始める。どうやって軍隊を追い返すのかではなく、どうやってレジトワ国の領土に進行するかということを。