第六話 育成2
作戦が上手く嵌り、罠を利用した戦闘でかなりの経験値を得た悠斗達は、陽が落ちる前には戻って来ていた。
今戻って来ているのは、近くへ向かった者達だけだ。それ以外の者達は、近いと言っても日帰りで行けるような場所ではない。そのため、三日後に帰ってくる予定である。
「レベルアップはこんなものか…」
「はい。連戦をすることが決まっていたので、できるだけ損耗を抑えるように戦いました。その結果、討伐数はそれほど伸びなかったのかと」
「こっちも似たようなもんだな。私が攻撃すれば簡単に倒せるが、流石に殆どゴブリンの部隊ではな」
(やはりどちらの部隊も、レベルがあまり上がっていない。ユヤとシャクナが言っているように、魔物を効率よく倒すことができなかったのだろう。俺がデリスとナノの二人を貰ってしまったから、他の部隊は戦い難くなってしまったのだろうか?)
下級種族であるピクシーのナノと中級種族であるユヤとでは、レベルの上りが10以上異なっていた。元々下級種族の方がレベルアップは早いが、ゴブリン等と比べてもやはり悠斗達の部隊のレベルの上がり方は大きい。
彼の作戦は魔物の強さに拘らず、大型から小型の魔物まで全てを集めていた。中には強力な魔物もいたが、罠に掛かって動けない間に数で攻めたりして倒していたのだ。
その結果さらにレベルの上昇が速くなり、さらに効率よく強力な魔物を狩ることができるようになった。その循環が悠斗達の部隊だけレベルアップが速い原因だったりする。
彼等はただひたすら釣っては罠に嵌めて狩るという行為を繰り返していたので、そのことに気付いていないようだが…。
「明日は少し人員を入れ替えようと思う。ピクシー達は全員レベルが40近くまで上がったから、偵察用兼戦闘要員として使ってやってくれ。それ以外にも…」
悠斗が次々と名前を上げ、人員の入れ替えを伝えていく。最終的に彼の部隊は、ナノとデリス以外は総入れ替えとなった。ナノ以外のピクシー達もかなりレベルが上がり、普通の魔物程度ならば倒せるようになっている。
レベルが上がって力が増したようで、大型犬程の大きさの猪の魔物を十センチ程度のピクシーが殴り飛ばすシーンもあった。そしてそれを見た悠斗は、やはり日本の常識が通用しない世界なのだと実感していたりする。
(一番数の多いゴブリン達が、第五部隊の主戦力になるだろう。やはりゴブリンを強くしなくては…)
彼はゴブリン達を多く自分の部隊に引き入れていた。そもそもシャクナにゴブリンを多く預けたのは、より強くなってもらうためである。
(効率よくレベルアップをさせてあげることができるが、それ以上のことは無理だ。武人でもない俺には、彼等に教えてあげることができない。そこは他の者達に助けてもらわないとな)
そしてやはり先生役として頭に浮かぶのは、ジョンとシャクナの二人であった。
「それでは、私は皆に人員替えのことを伝えに行きますね」
「私も行こう」
「シャクナさん」
悠斗がユヤと共に部屋を出て行こうとしたシャクナを引き止める。
「どうした?」
「俺がレベルを上げた者達を皆、シャクナさんの部隊に移してあります」
「ああ、それは分かっている。人数の配分があれ程おかしければ、誰だって気付くだろう」
そう。彼の人員替えは、二十人近くの者達をそれぞれ変えた訳ではなかった。シャクナの部隊の全員を悠斗とユヤの二人の部隊に移し、ユヤの部隊から悠斗の部隊に、そして悠斗のピクシーとデリス以外の者を全てシャクナの部隊に移したのだ。
つまり現状彼の部隊は三十人近くとなっており、ユヤの部隊が十五人程度となっている。
「俺の部隊は、取り敢えずレベル上げは終わりにします。シャクナさんには、より実戦的な動きを教えて欲しいんです」
「成程な。確かに身体能力だけ高くても、戦場ではそれほどの価値はないか」
「まあ、そこまでは言いませんが…」
「分かった。みっちりと鍛えておこう」
この世界の強者は本当に桁外れなことを知っている悠斗は、若干シャクナの言葉に返し辛そうにしていた。日本では人間に限界があり、一騎当千の強さと言っても本当に千人の兵を倒せる訳ではなかった。
だが彼から見たら、縦横無尽に森の中を飛び回り猪すら一撃のピクシーなど、脅威でしかない。
さらに四天王であるヘルザードも、本当に一騎当千の働きができるだろう。それも片手間で。
それを彼女は価値がないという。高レベルの人間は身体能力も高く、さらに足りない分は技術で補ってくる。
それにただ身体能力が高いというだけでは、人間が持つスキルに対応できないということでもあるのだろう。鑑定スキルしか知らない悠斗には、その辺りの戦闘系のスキル持ちがどれほど強いかということがまだ理解できていなかった。
そして次の日には悠斗はシャクナの部隊が行った沼地へと向かい、その次の日にはまた人員替えを行い、ユヤの部隊が向かった山岳部へと向かった。
そして、悠斗がレベル上げを行った者達をシャクナが鍛え上げていく。
場所を変えたのは、一日で殆どの魔物を倒してしまうからだ。釣り役のナノは高レベルになって飛翔速度もかなり上昇し、近辺の魔物がいなくなると遠くから魔物を釣って来るのだ。そのため、かなり奥まで行かないと魔物がいないという状況になっていた。
(これ、魔物の分布が大きく変わるんじゃないか? 明らかに環境破壊だよな…)
森でも沼地でもいくつかの種類の魔物は群れごと倒され、絶滅してしまっていた。手前にいた魔物がいなくなったと気付いた者が、奥から移動してくることになるだろう。
「何だこれは!? これが本当に、ゴブリン達なのか?」
「これは…」
帰って来たジョンとヒュリンが、他の者達を見て驚いている。彼等は三日間の遠征を得て、かなりレベルを上げていた。それでも悠斗がレベル上げをしていた者達の方がレベルが高くなっている。
さらに一日でそこまでレベルを上げた彼等は、シャクナの訓練も受けて鍛えられていた。
ジョンのように筋肉達磨になった訳ではないが、ゴブリン達の動きは格段に良くなっている。
「ジョンの部隊とヒュリンの部隊も、取り敢えずはレベル上げはこれでいいか。後は、シャクナとジョンに鍛えてもらおう」
「心得た! シャクナ様と協力して、俺が立派な戦士達に育て上げて見せましょう」
「俺は…?」
「ヒュリンは…」
(さて、どうしようか…。中級種族である彼には、この部隊の切り札の一つになって欲しいんだが。それにはまだレベルが足りないよな。やはり中級種族はレベルが上がり難い)
悠斗は思考を巡らせていく。実際強敵相手には、いくらレベルを上げても下級種族では苦戦することになる。かなりの高レベルにもなれば別だろうが…。
なので、中級種族であるヒュリンのレベルを上げることを考えている彼の思考は間違ってはいない。
だが、それには一つの問題があった。
(近くの魔物は狩り尽くしたんだよな…)
再びレベル上げを再開するならば、また何日掛けて魔物の討伐に向かわなければならないのだ。
(まあ、仕方がないか。すぐに戦争に赴かわなければならない状況でもないし…)
「ヒュリンとユヤ、それにデリスとナノは再び魔物の討伐に向かってもらう。悪いな。遠くになると思うが、シャクナさんと話を詰めた後、改めて場所を伝える」
「分かった」
「了解しました」
「私達二人ということは…」
「またあの狩り方なの!」
ヒュリンとユヤが快く引き受けてくれ、デリスとナノは二人セットなことに気付いて視線を交わす。
釣り作戦を知らないヒュリンとユヤは、そんな二人を見て不思議そうな表情を浮かべていた。
(本当は他の中級種族の者達もレベル上げをしたいんだが、流石に訓練も必要だよな。訓練をしなくても相応に動けるヒュリンと、頭がよくて自分で臨機応変に動き方を考えることができるユヤ以外は、やはり無理か。ジョンには教官役を務めてもらわなければならないし)
デリスとナノは罠のためにずっと訓練を受けることができていないのだが、デリスに関しては問題ない。彼女は古参勢であり、ずっと遠距離部隊を支えて来たのだから。
(問題はナノか…。まあ、彼女は何とかなるだろう)
三日間の釣り役をこなしたおかげで、彼女のレベルはすでに60を超えていた。デリスもかなりレベルを上げていたが、それでもナノのレベルの上昇の仕方は異常だ。やはり中級種族と下級種族では必要経験値に大きな差があるのだろう。
さらに釣り役として全ての魔物に一度は攻撃しているので、自分が倒していない他の魔物からも少しずつ経験値が入っていたのだ。デリスは動きを封じただけでダメージを与えた訳ではないので、その差もある。
そして60レベルを超えた彼女の異次元の動きを見た悠斗は、彼女に関してはすでに考えることを諦めていた。