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第四十一話 パーティー結成


 悠斗が宿へと歩いて向かう後ろから、ゆっくりとミスティとユリアがついて行く。二人は最初恐縮した様子だったが、彼が明日からの旅のためにしっかりと休むべきだ、と二人に言ったことで仕方がなさそうについて来た。

 さらに言えば、二人としても貧民街の安全の確保すらできない場所よりも、宿で休みたいとは考えていたのだ。

 この後の旅に支障をきたし、結果的に彼の迷惑となると言われれば、それは彼女達にとっての大義名分となる。


「彼女達は……」


 悠斗が自分の泊まっている宿へと戻ると、宿の女将が彼の後ろにいる二人を見てそう呟いた。彼は冒険者ギルドでの出来事を知らないため、二人が彼のパーティーメンバーとなったことも知らない。


「もう一部屋空いてますか?」

「それが……」


 悠斗が尋ねると、女将は申し訳なさそうな表情で首を横に振った。

 マザーグリズリーが現れたこと。そして討伐されたこと。

 討伐者の中に英雄と称えられている者がいること。それらが周辺の町や村に伝わり、一目見ようとこの街へと集まって来ているらしい。

 そのため、宿の部屋が埋まってしまっているようだ。そしてそれは他の宿でも同じようで、部屋を借りるのは難しいだろうと言われた。

 悠斗を実際に見た者はいないので、この者達が名前を知っていても姿を知っている訳ではない。なので面倒なことにはならなかったが、悠斗が英雄と呼ばれていると知れたら人が集まって来ることは明白だ。

 彼は女将の話を聞き、早々に街を出た方が良さそうだと考える。

 そして、今日中に二人の旅の支度を整えられたことに安堵した。


「俺は床で寝るから、二人は狭いだろうけどベッドで寝た方が良いだろう」


 悠斗がそう言うと、二人は全力で首を横へ振った。


「ベッドはユウト様が使うべきです! ここはユウト様が借りている部屋なのですから」

「ミスティの言う通りです。流石に英雄様を床で寝かせるのは、私が居た堪れないのです!」


 二人が必死で拒否するので、ベッドは結局悠斗が使うこととなった。ここでラブコメのように、三人で同じベッドを使って眠るという選択肢は流石に出て来ない。

 明日からの旅で確実に気まずくなるという懸念もあるが、それ以上にベッドが小さすぎる。元々一人用の部屋なのだ。当然ベッドもそれほど大きなものではなく、ミスティとユリアの二人が使うだけでもギリギリのサイズ。

 そこへ悠斗が使うとなれば、ミスティとユリアの内どちらか一人だけが床で眠ることとなる。それならば、初めから彼だけがベッドを使った方が良い。


「寝る前に寝具を準備すればいいだろう」

「そうですね。ギリギリですが、入ると思います」

「英雄様のおかげで、床でも暖かくして眠れそうです」


 二人はそう言って笑顔を見せる。貧民街では、床にボロ布を敷いて眠っていた。そんな二人には、今は悠斗に買ってもらった寝具がある。

 寝袋のような物で、地面に敷いても暖かくして眠れる優れものだ。

 荷物になるので、普通は馬車で移動できる者達が使う贅沢品である。しかし、収納箱という能力を持っているユリアがいるので、彼等には問題ない。少しばかり悠斗の懐が寂しくなったくらいだ。贅沢品だけあって、それなりに高額だったのだ。


「それよりも、俺のことは普通に呼んでくれないか?」


 いつまでも英雄様と呼ばれていたくないと考えていた悠斗が言う。


「ですが……英雄様に対して失礼ではないでしょうか?」

「そうです。ユウト様は私達よりも優秀な冒険者であり、私達にとっては命の恩人でもあります。敬意を表すのは当然のことです」

「そう言われても……ここを出たら俺は英雄ではないし、パーティーメンバーと距離があるのもな…」


 リベアで英雄と言われているだけで、悠斗が有名人という訳ではない。この街を出た後、彼のことを知っている人はそれほど多くはない。

 できるならば仲良くしたいと暗に言った彼に、ミスティが食いつく。


「私も仲良くなりたいとは思います! ですが、それとこれとは別の話です!」

「私もいきなり英雄様を名前で呼ぶのは緊張します」


 ミスティの異常な食いつき方に驚きながらも、ユリアは自分の意見を述べる。


「それでも頑張ってほしい。特に英雄様は止めてくれ」


 ユリアを見て彼は言う。


(この街でならばまだマシだが、流石に俺のことを知らない街で英雄と呼ばれるのは恥ずかしすぎる)


 そのように考えていた悠斗の表情には、ある種の必死さが滲み出ていた。


「分かった。ユウトって呼ばせてもらうね」


 意を決したようにミスティが言った。

 ユリアはそれを見て不敬ではないかとオロオロし始め、ミスティも本当に大丈夫なのだろうかといった様子で悠斗を見る。


「ああ、よろしくな」

「はい!」


 悠斗の表情を見たミスティは、安堵の表情で彼の言葉に返事を返した。

 そうなれば、ユリア一人が呼び方を変えない訳にはいかない。特に悠斗からは英雄様と呼ばないでくれと、言われているのだ。


「あ、あの……ユウトさん、でよろしいですか?」

「よろしく」


 まだかなり言葉が固いユリアに笑いながら返事を返す。

 その言葉を受け、二人はホッとした表情になる。


(これで少しはパーティーとして動けるだろうか? この先はどうであれ、出だしとしては上出来だったと思う)


 悠斗はようやくパーティーとして形を成し始めたと、一人で考えていた。

 指揮官の命令通りに動いて周囲と共に戦う軍と、互いに協力し合って補い合う冒険者パーティーは全く違う。

 規模の関係で個人が勝手に動いてもどうにもならない軍とは違い、冒険者パーティーでは一人一人が考えて動かなければならないのだ。

 パーティーのリーダーという司令塔はいるが、細かい命令を受けてから動きだしては間に合わないことの方が多い。

 ずっとソロで冒険者として活動していた悠斗は、まだまだパーティー動くことに苦労することを、この時は全く気付かなかったのである。

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