第四十話 金欠少女
悠斗は二人と別れた翌々日には、二人を探し始めた。
二人の旅支度を確認するためだ。
「何処にいるのか聞いておけばよかったな」
リベアを出る日と時間は決まっているため、正門前に当日に集合となっている。そのため、二人に居場所を確認していなかったのだ。
その後悠斗は気付いた。二人が他の街まで訪れたことがないことに。そして、彼女達が冒険者となったばかりということに。
冒険者である彼女達は、街の周辺でできる依頼しかこなしてこなかった。そしてそれは、二人になった後でも変わらない。つまり、何日も掛かる遠出をしたことがないのだ。
旅支度がしっかりとできていないと、街を出た後で困ることになる。集合した後で確認することもできるが、集合した後で買い出しを始めたらその日の内に街を出ることができなくなる。
「その二人ならば、向こうへ歩いて行ったよ」
「感謝する」
「英雄さんの役に立ててよかったよ」
露店でミスティとユリアを見たか確認した回っていると、ようやく二人を見たという露天商に悠斗は遭遇した。
「確かこっちは、貧民街だよな」
やはり三人の時とは違い、二人だと依頼をこなすことは殆どできなかったようだ。女の子二人が貧民街で暮らしているとなれば、かなり持ち金が危ういに違いない。
そして金を持っていないのであれば、旅支度すらまともにできていない可能性がある。
(やはり確認しに来てよかったな。このまま出発していたら、旅の途中で食料も何もかも足りなくなっていたことだろう)
「ユリア、ミスティ」
「英雄様!?」
「ユウトさん!?」
悠斗が二人を見つけて声を掛ける。すると二人は、悠斗がこんな場所に来るとは思っていなかったようで、声を掛けられてかなり驚いていた。
(こんな所に住んでいたとは……。今日は俺が宿泊費を出して、宿に連れて行くか)
悠斗は女の子二人がこんな場所で暮らしているのは駄目だ! と、連れ出すことを決める。
二人がいたのは廃墟の一つであり、家の形すらまともに残っていないような、建物と呼べないような場所だった。
扉も付いておらず、屋根も殆ど落ちて存在しない。プライベートも何もないような場所だった。貧民街には他にも沢山の人が暮らしており、いつ知らない男に襲われてもおかしくはない状況である。
(まさかこのような場所に住んでいる所を見られるなんて…。ユウトさんに幻滅されてしまったかしら……?)
ミスティは自分達が住んでいる場所を見られ、恥ずかしそうに俯いていた。
「な、何故英雄様がこのような場所に?」
驚愕の表情を浮かべたまま、ユリアが彼に問いかける。
「二人を探していたんだよ。しっかりと準備できているか心配でさ」
悠斗がそう言うと、二人は目を丸くした。
「街を出る準備はすでにできていますよ?」
「見て分かるように、持ち出す物は殆どないので……」
二人がそう答えたことで、彼はやはりと自分の心配が的中していたことを確信する。
(まさか着の身着のまま次の街へと向かうつもりだったとは……)
「食料等の準備もできていないか」
「食料……」
「次の街まで一週間は掛かるぞ」
その言葉を聞き、二人はどうしようといったような顔をした。
「すみません。お金がないので…」
「私達は野草か何かを探しますから」
二人がそう言って、悠斗の表情を見る。このままでは連れて行けないと言われるかもしれないと思い、少し様子を窺うような顔をしていた。
「仕方がない。今から買いに向かう」
彼がそう言うと、二人はきょとんとした表情を浮かべた。
そう二人に伝えた後、悠斗は建物を出て行く。
「行くぞ」
「は、はい!」
「待ってください」
彼の後を急いで追いかけるユリアとミスティ。早足でついて行く二人の顔には、未だに困惑した表情が浮かんでいた。
「そう言えば、二人は能力持ちだったっけ?」
悠斗は露店へと向かいながら、二人にそう問いかける。
「いえ、私は違います。能力持ちはユリアと……」
もう一人は死んでしまった者のことなので、ミスティは言い難そうにしていた。
「何の能力?」
彼はすでに鑑定で能力を知っているが、二人に自分の能力のことを話していない。なので、知っていない体で話しているのだ。
収納箱という能力の詳細を聞きたいため、ユリアの能力のことに突っ込んでいく。
「私の能力は収納箱という能力です。物を他の場所に収納できるのです」
「収納した物は何処に?」
「それは……」
そこから根掘り葉掘り、能力の詳細を聞きだす。
悠斗は何度も質問を繰り返し、能力の詳細を聞き出すことに成功する。
彼女の能力は彼が考えているアイテムボックスと殆ど同じだった。
収納箱には入れられる物に制限があるらしい。だが、制限一杯まで物を入れたことはなく、限界値は分からないようだ。
そして沢山の物を入れておいても、簡単に取り出すことができる。
入れた物に関しては収納箱の中で時間が経過することはなく、入れた状態のままで取り出すことができるらしい。
彼女達はそれを利用し、火種を常に確保していたようだ。他の物に火を付けた後、火種だけを収納箱に戻す。そうすることで、火を消すことなく使い続けることができるのだ。
いずれ燃え尽きるだろうが、他の物に火を付けた後すぐに収納箱に戻せば、早々に燃え尽きることはないのだ。
「あの~、お客様?」
露天商が困惑した様子で三人に声を掛ける。
収納箱の詳細はユリアですら全部を知らなかったので、悠斗は色々と質問を重ねていた。詳細を聞き終えた時、三人はすでに露店の前まで来ていたのだ。
露店に着いても話していたため、露天商は困っていたのである。
「ここからここまでの商品を、それぞれ三つずつ頼む」
旅の中で色々な物を食べたいと考えた悠斗は、沢山の種類を少しずつ買うことにした。
彼はDランクに上がるまでの間に、かなりお金を稼いでいる。全ての依頼を失敗することなくこなしていたため、Dランクに上がるまで早かった。しかし、その後も依頼を受け続けていたのでそれ以降も稼いでいた。
「これを頼む」
「えっと……」
ユリアへ買った食料を渡すと、彼女は困った表情を浮かべた。
「収納箱に入れておいてくれ」
悠斗がそう言うと、本当に入れていいのか不安そうな表情に変わった。そして口を開く。
「本当に私が持っていてもいいのですか? これは英雄様の物ですよね?」
「ああ、問題ない」
彼が頷くのを見て、ようやく収納箱へと食料を仕舞っていく。
「これほどの食料が必要なのですか?」
収納箱に仕舞いながら、ユリアがそう尋ねる。
「一週間は掛かるだろうからな」
その答えを聞き、微妙な表情を浮かべながらも納得したように頷く。
「こんなに沢山食べるのですか?」
「え?」
ミスティが興味本位でそう聞いたことにより、悠斗は二人が勘違いしていることに気付いた。
「これは三人分だ」
「三人分ですか!?」
「私達の分までいいのでしょうか?」
「パーティーだからな」
彼の言葉を聞き、今度こそ二人は納得いったという表情となった。
「今日はありがとうございました」
「このお金はいずれ返しますので」
そして食料等を買い揃えると、二人はそう言って貧民街へと戻ろうとする。
「何を言っているんだ? 二人も一緒に来るんだぞ」
そう言った悠斗へ、再び二人は困惑した表情を浮かべたのだった。




